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作成: 96/08/20 磯崎 健二

データ番号   :040036
マイクロコンピュータを用いた放射線厚さ計
目的      :放射線厚さ計とマイクロコンピュータとを組み合わせた測定表示装置の開発
放射線の種別  :エックス線,ベータ線,ガンマ線
放射線源    :密封RI線源(147Pm 12.95GBq, 85Kr 37GBq, 241Am 1.23GBq, 137Cs)、X線管(4.5KeV)
照射条件    :工場環境
応用分野    :品質管理、厚さ測定、コーティング、オンライン測定、厚さ制御

概要      :
 β線、γ線、X線厚さ計をマイクロコンピュータと組み合わせたオンライン用厚さ測定表示システム。ゴムや金属板、フィルムなど測定対象に応じてβ線やγ線密封線源、X線管を使用し、透過型で直接または差動検出法により厚さ信号を得る。その信号をマイクロプロセッサを採用した信号処理部に入力し、厚さのデジタル表示やシートの幅方向厚さ分布であるプロフィールを各種表示する。これらの信号は厚さ制御信号としても使われる。

詳細説明    :
 フィルム、紙、ゴム等の非金属、アルミ、鉄、銅等の金属板などのシート産業では放射線厚さ計が使用されてきた。一般に非金属の薄い物はβ線の、金属などの厚物はγ線の透過測定方法が使われる。薄物の金属物質の場合はX線が使われることもある。線源の種類としては、147Pm,85Kr,204Tl,90Sr,241Amなどで、数量は用途に応じて1〜37GBqの密封線源が採用されている。測定量は面積重量(例えばg/m2)や厚さ(例えばμm)である。代表的な放射線源と測定範囲を表1に示す。

表1 厚さ計に使用される放射線源と測定範囲
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 項目    種類        エネルギー    半減期    吸収係数              測定範囲
               ------------------                       -----------------------------
               β線(MeV) γ線(MeV)  (年)                   最小     半価層    最大
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β線源  147Pm    0.223     0.57     2.26    0.015 m2/g        2       40      150 g/m2
β線源   85Kr    0.67      0.57    10.3     0.003 m2/g       10      250     1000 g/m2
β線源  204TI    0.77      0.57     2.7     0.002 m2/g       10      350     1200 g/m2
β線源   90Sr    2.18      0.57     27      0.0008m2/g       50    16000     6000 g/m2
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γ線源  241Am     -        0.06     456    0.9mm-1(Fe)   0.1mm(Fe)  0.75mm(Fe)  7mm(Fe)
γ線源  137Cs    0.51      0.66     30     0.056mm-1(Fe)  5mm(Fe)  12.5mm(Fe)  100mm(Fe)
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透過測定方式の吸収の式は、測定厚さをx、透過前後の検出器出力をI0、Iとすると、I=I0exp(-μx)と表せる。吸収係数μは、β線源の場合はそのエネルギーによって一定値に定まり、被測定物には影響されない特徴がある。そのため測定厚さ範囲によって線源の種類を選ぶことになる。γ線の場合は被測定物によっても吸収係数は変化するので測定範囲を考慮して選ぶ。ゴムでの例では品種や厚さにより変化し、μ=a+b*x (a,bは品種によって決まる定数)と表すことができた。またエネルギーが4.5KeVのX線の例では磁気フィルムのベースフィルムに対し磁性層では約5倍の吸収係数を示している。
 透過してきた厚さ情報を持った放射線はキセノンなどの希ガスを封じた電離箱で検出される。この際、β線の場合は線源と検出器間の空気層も同時に測定してしまうため、この空気層の温度変化の影響が大きい。この距離が70mm程度あれば、空気温度変化1℃あたり面積重量で0.28g/m2の厚さ変化が生じてしまい、10μm程度(≒10g/m2)のフィルム測定では無視できない。この影響を除くために、測定側と同じ構造の比較用の線源と電離箱を設けて差動検出する方式を採用している例と、空気層の温度を検出し温度補償している単一型の例がある。設計条件にもよるが、電離箱の検出電流は10-9Aレベルの微小電流であるので、エレクトロメータで増幅する。その出力はマイクロコンピュータで構成された信号処理部へ送られてA/D変換されて演算に供される。また、このセンサ部はシートの幅方向に機械的に走査され、厚さの幅方向分布を測定できるように構成されている。
信号処理部では図1に示すように、信号を一定周期でサンプリングし、信号平滑化を行ってから厚さ信号に変換する。対数演算することで厚さ信号の直線化が行われ、正しい測定値にするための各種の補正が加わった測定結果がCRT画面に出力される。


図1 厚さ演算処理図(原論文2より引用)

 図2にはCRT画面例を示す。
一つの画面に上下二つの測定結果が同時表示されている。上段のデジタル表示はシートの幅方向厚さ平均値で、全体厚さを一定に管理し、規格外の製品や無駄な原料消費を抑えるのに役に立つ。下段はシート幅方向の厚さむらを表示するプロフィールで、横軸に目盛り表示されたダイボルトマークと合わせて見ることにより平坦なシートを製造するために必要なダイボルトを操作することができる。


図2 代表的なCRTディスプレイ例(原論文3より引用)

 このようなプロフィールは、使用目的に応じて、複数のプロフィールを加重平均化した「スムージングプロフィール」、プロフィールの時間変化を示す「重ね書きプロフィール」、シートを巻き取った状態を示す「積算プロフィール」、幅方向の部分毎に厚さ平均した「ゾーンプロフィール」、ダイボルト操作する前の状態を記録する「ホールドプロフィール」などの画面例が用意されている。これらの測定結果は信号処理部からデータ通信でシートの厚さ制御装置へ送られ、厚さの自動制御や品質管理に使われる。
 新しいアプリケーションとして吸収特性の異なるβ線とX線センサを組み合わせて同時測定し、二つの測定信号を相互演算することにより、磁気テープのベースフィルム、磁性層、および全体厚さを個々に区別して測定した例が示されている。

コメント    :
 放射線厚さ計はゴム、金属、フィルム、紙などのシート産業のオンライン用厚さ計として従来から使われてきている。測定対象に応じて密封されたγ線源やβ線源が使用され、単一型や差動電離箱方式により製造現場の過酷な環境でも安心して使われてきた実績がある。この面では目新しさは少ない。これら厚さ検出部分とマイクロコンピュータを組み合わせ、マイクロコンピュータの優れたデータ処理能力を活用することにより、信号の対数演算、補正演算による外乱誤差の除去、測定値のデジタル値表示、直感的な厚さ分布を表示する各種のプロフィール画面など測定精度の向上と使いやすさの改善が進んでいる。そして多点・高速測定値を厚さ制御システムへ受け渡しすることに今後の方向性が伺える。β線とX線という異なった特性のセンサ組み合わせで塗工量測定というシートの二次加工分野にも適用範囲が広げられてきたのは新しい試みであり、今後の発展が期待される。

原論文1 Data source 1:
Microcomputer Based Thickness Gauges
P.Tabor, L.Molnar and D.Nagymihalyi
Institute of Isotopes of the Hungarian Academy of Sciences
Appl. Radiat. Isot., Vol.41, No.10/11, 1123-1129 (1990).

原論文2 Data source 2:
インテリジェントβ線厚さ計
東 泰彦
富士電機株式会社 東京制御製作所 放射線機器部
富士時報 Vol.64, No.9, 571 (1991).

原論文3 Data source 3:
“β線+X線"厚さ計
久下 豊
横河電機株式会社 科学機器事業部 プロダクトマーケティング
プラスチックス エージ, p.132, Sept. (1988).

キーワード:β線厚さ計、X線厚さ計、γ線厚さ計、透過型、差動検出法、マイクロコンピュータ、プロフィール、フィルム測定
beta-ray thickness gauge, X-ray thickness gauge, gamma-ray thickness gauge, transmission detection,differential detection,micro-computer,profile display,thin film application
分類コード:040305,040202,040204

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