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作成: 1996/09/10 須永 博美

データ番号   :040034
0.1〜10 MeV電子の物質中での深度線量分布 - 電子線加工処理のための半経験模型 -
目的      :電子線照射における深度線量分布計算コードの開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(0.1〜10 MeV)
応用分野    :放射線キュアリング、電子線架橋、電子線重合、電子線滅菌、環境保全

概要      :
 0.1〜10 MeV の電子線を照射した物質中での深度線量分布を求めるために開発した半経験模型による計算コードのアルゴリズム及び応用例について解説した。 コードは基本となる一様半無限媒質中の深度線量分布を求めるための「EDEPOS」とこれを拡張して3層まで(更に4層まで試みている)の試料に適用できる「EDMULT」とがある。EDMULTの応用例として、照射試料をセットした背面物質の効果を調べた例を示し、実験やモンテカルロ計算と比較し良い一致を示している。

詳細説明    :
 材料の表面処理や医療器具の滅菌のためなどに0.1〜10MeVの電子線照射が盛んに利用されるようになっており、この場合、照射された試料の線量分布を正確に把握することが必要である。この電子線照射における深度線量分布を計算で取り扱う方法として簡易解析模型についての検討を進めた。簡易解析模型は実験あるいはモンテカルロ計算の結果を基にして成り立っており、放射線照射の利用や計測に関する応用的問題を扱う段階でポケットコンピュータあるいはパソコンを使って容易に答が求められるなど役立つことが多い。
著者はこの簡易解析模型のうち、電子と物質の相互作用の記述に調節パラメータを使った半経験模型で、比較的単純な量の経験式作成から、多層状媒質中の深度線量分布の計算というやや込み入った問題に対するアルゴリズムの作成までの検討を進めた。まず、一様半無限媒質に電子線が十分広い面状の線源から一様な密度で平行に入射する場合の深度線量分布について考える。KobetchとKatzが提案した深度線量分布を求めるための、電子の透過率と透過電子のエネルギーを導入した半経験模型によるアルゴリズムに対し、著者は媒質表面から後方散乱する電子が運び去るエネルギーと制動放射光子によるエネルギー損失を考慮に入れたアルゴリズムを実行するフォートランコード「EDEPOS」を作成した。このコードは入射電子約 0.1〜20 MeV、吸収体原子番号 5.28(ポリエチレン)〜82 の範囲で使用することができる。図 1 にポリスチレンに 100 keV 及び400 keV の電子線が入射した場合の EDEPOS コードによる計算を実験値と比較した結果を示す。


図1 ポリスチレン中での電子の深度線量分布。曲線はEDEPOSコード、データはMcLaughlinらの実験値。(原論文1より引用)

このEDEPOSコードについては、新しい ETRAN コードを基にして作成されたITSコードを用いて得られた深度線量分布の系統的なデータを作り出したので、これを解析して改善を進めることに着手した。
 次に、実際の電子線利用においては、加速器からの電子線は被照射物へ入る前に加速器のビーム取り出し窓と空気層を通過し、ここでエネルギー損失と散乱を生じる。そして被照射物はしばしば金属などの基板の上にセットされ、ここからの後方散乱による効果を線量評価に考慮する必要がある。したがって、被照射物中の吸収線量を求めるには3または4成分からなる多層中での電子の輸送問題を解くことが必要である。この多重層の被照射体の深度線量分布に対しては、前述の一様半無限媒質中での計算を繰り返し使用すれば、半経験模型が実現すると考え、アルゴリズムの作成を試み、これを実行するフォートランコード「EDMULT]を開発した。現在、3 層までの深度線量分布がこのコードで計算できるようになっており、さらに 4 層への拡張を試みている。図 2 にアルミニウム、金、アルミニウムから成る 3 層の試料に 1 MeV電子が入射した場合について、EDMULT による結果を実験及びモンテカルロ計算と比較した結果を示す。また、ナイロンフィルム線量計中の吸収線量に対するナイロン、アルミ、鉄、金などの背面基板物質の影響を調べた例を挙げ、EDMULTによる予測がかなり信頼性が高いことを示している。


図2 エネルギー 1 MeV の電子がアルミニウム・金。アルミニウムの3 層板状吸収体に入射したときの深度線量分布。曲線はEDMULTによる結果、白丸は実験、ヒストグラムはモンテカルロ計算。(原論文1より引用)

著者らはEDMULT 中のEDEPOS コードを改善予定のものと置き換えるとともに、他の可能な修正も行い、EDMULT がどれだけの精度を達成できるのか調べたいとしている。

コメント    :
 電子線照射による加工処理が広い範囲にわたり実施されているが、この場合、試料中の線量分布を知ることを要することが多い。この、全ての場合に実測で求めることは困難であり、信頼できる計算コードが実在することは極めて意義深い。本論文では著者が展開してきたこの計算コード開発のための研究を分かり易く紹介している。

原論文1 Data source 1:
0.1〜10 MeV 電子の物質中での深度線量分布、ー電子線加工処理のための半経験模型ー
多幡 達夫
大阪府立大学付属研究所、〒593 堺市新家町 174-16
放射線化学、 第53号 p.2 (1992).

キーワード:電子線加工処理、吸収線量、深度線量分布、半経験模型、EDEPOSコード、EDMULTコード
electron beam processing, absorbed dose, depth-dose distribution, semiempirical model, EDEPOS code, EDMULT code
分類コード:040102,040302,040306

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