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作成: 1996/10/09 小嶋 拓治

データ番号   :040032
フリッケ線量計
目的      :フリッケ線量計の特性と標準的な取扱い方法
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子
放射線源    :60Co γ線, 0.6 MeV 以上のγ線, 2 MeV以上の電子線を変換して得られるX線, 8 MeV以上の電子線
線量(率)   :40 Gy - 400 Gy, 1x106 Gy/s未満
照射条件    :照射温度 10 - 60゜C 、(吸光度測定温度 25゜C)
応用分野    :食品照射、放射線治療、放射線化学・生物に関する研究

概要      :
 現在40 Gy-400 Gyの線量範囲の測定に使用されている硫酸第一鉄(Fricke)線量計について, 測定線量範囲、線量率、照射温度、照射後の安定性等の線量計としての特性、及び標準的な取扱い方法を概説する。

詳細説明    :
 フリッケ線量計は、放射線の吸収によりその吸収線量に比例して硫酸溶液中に生じる鉄イオンの酸化を測定することを利用した液体化学線量計のひとつで、他の化学線量計に比べて信頼性が高くまた放射線に対し水と等価物質とみなしうるために、放射線化学研究を始め、放射線治療及び食品照射分野における校正用あるいは標準的な(リファレンス)線量計として利用されている。そのためにこれまで膨大な数の論文が発表されているが、ここでは、線量計としての基本的な特性及び標準的な取扱い方法について概説する。
 線量計溶液は、特級試薬を用いて1mM硫酸第一鉄アンモニウム及び1mM塩化ナトリウムを0.4M硫酸に溶解して調製し、使用まで冷暗所に保存する。使用にあたり調製した溶液は、高純度酸素ガスを溶液中に吹き込んで酸素飽和状態にする。使用するガラス器具類は、予め、60゜C以上の温度の精製水を用いて超音波洗浄した後濃硫酸ついで精製水で2回以上洗浄するか、未照射の線量計溶液を満たし少なくとも500Gy照射後未照射溶液で3回以上洗浄するかした後に使用に供する。線量計溶液は一般的に2ml程度であり、照射用容器として内径8mm以上のガラス容器を使用する。この手順中、有機不純物が混入しないように細心の注意を払うことが重要である。
 放射線照射は、線量計溶液の容量内の線量分布が±1%以内で均一になるように、また位置の再現性に注意して行うとともに、ガンマ線では2次電子平衡の成立するようにポリスチレン等の水等価物質で線量計を被うことが重要である。
 線量計の読み取りは、300nm付近において吸光度2までを±1%以内の精度で測定できる校正された分光光度計を用い、光路長5または10 mmの石英セルに溶液を満たして波長303nmにおける吸光度を空気を参照側にして測定する。
吸収線量と吸光度変化量は40-400Gyの範囲で直線関係にあるため、以下の式に基づいた計算によって求めることができる。
    A=Ai-A0
    DF=A/(ρ E G d) --------(1)
 A:波長303nmにおける吸光度の照射前(A0)照射後(Ai)の変化量
 DF: Fricke線量計溶液の吸収線量, Gy
 ρ: 線量計溶液の密度(1.024x103 kg/m3)
 E: モル分子吸光係数, 219 m2/mol(測定温度:25℃)
 G: 第二鉄イオン(Fe3+)の放射線化学収量, 1.61x10-6 mol/J(照射中の温度:25℃)
 d: 石英セルの光路長, m 
  水の吸収線量への換算には、DW=1.004DFを用いる。
  これは、照射中及び読み取りにおける溶液の温度が25℃の場合である。

 この条件下での波長303 nmにおける E G の値は352x10-6 m2/Jであるが、照射中及び読み取り時の溶液の温度に若干依存するため、以下の式で補正する必要がある。
  Et Gti=352x10-6 x [1+0.007(25-t)] x [1+0.0015(25-ti)]
     t: 吸光度読み取りの時の溶液温度, ℃
     ti: 照射中の溶液温度, ℃
この式は照射中の温度10-60℃及び読み取り時の溶液温度15-35℃に適用できる。


図1 Effect of irradiation temperature on G(Fe3+). Solutions were all 0.4M sulfuric acid;the dose rate was approximately 10 Gy/min. Open triangle:2 mM FeSO4,oxygenated. Closed triangle:2 mM FeSO4,oxygenated;the oxygen was passed through activated charcoal at liquid N2 temperature. Open circle:2 mM FeSO4,aerated. Closed circle:1 mM Fe(NH4)2(SO4)2,1mM NaCl,aerated. Open square:2 mM FeSO4,deoxygenated. Closed square:2 mM FeSO4,deoxygenated;the nitrogen was passed through activated charcoal at liquid N2 temperatuer. Bars are standard errors. Straight lines were obtained by the method of least-squares. Resulting equations are given in the text.(原論文2より引用。 Reproduced from Int. J. Appl. Radiat. Isot., Vol.33, 1159-1170 (1982), R.W.Matthews: Aqueous Chemical Dosimetry, Figure 1 (Data source 2, pp.1165), Copyright (1982), with permission from Elsevier Science NL, Amsterdam, The Netherlands.)

 照射中の温度の影響については、図1に示すように、空気飽和溶液、酸素飽和溶液、窒素飽和溶液のそれぞれについて調べられており、G(Fe3+)を式で表すと以下のようになる。但し、単位は(100eV)-1で、1eV=1.6×10-19Jである。.
  空気飽和: G(Fe3+)=(15.03±0.06)+(2.57±0.17)10-2 T℃
  酸素飽和: G(Fe3+)=(15.35±0.06)+(2.47±0.13)10-2 T℃
  窒素飽和: G(Fe3+)=(7.53±0.06)+(1.07±0.16)10-2 T℃
酸素飽和の場合の温度係数は0.0013と若干前述と異なってはいるが、これから、溶液の酸素溶存状態にも依存することがわかる。

 この線量計を使用する場合は、これを用いた線量相互比較を行うなどにより、国家標準への遡及性を保ち、使用にあたっての不確かさのレベルを明らかにしておく必要がある。非常に注意深く使用した時に達成可能な不確かさは、95%信頼度で±2%以内である。
 より高線量域を測定するには、前述の系に0.1mol/lの銅イオンを添加することにより、全く同手順で0.5 - 5 kGyの測定が可能である。ただし、4 kGy以上では0.001Nの硫酸で希釈する必要がある。また溶液の密度として、1.001x103 kg/m3及びG(Fe+Cu)として6.8x10-8 mol/J(照射中の温度:25℃)を用いる他は(1)式を適用して計算により吸収線量D(Fe+Cu)を求めることができる。照射前の溶液の安定性を高めるために、予め1kGy程度照射する場合もある。この他、前述の系に何も添加せず窒素の飽和等により溶存酸素を減らす方法もあるが、十分な測定精度を得ることが困難である。
 また、より低線量を測定する方法として、読み取り波長に224nmを用いる方法、長い測定用セルを用いる方法、及び10 mM溶液を使用して吸光度測定時にチオシアネートを添加する方法がある。前2つの方法ではそれほどの測定範囲拡大は期待できない。3番目の方法では約5倍感度を高めることが可能であるが、チオシアネートとの複合体の安定性が悪いため取扱いに注意を要する。この他にも分光光度計の代わりに電位差を測定する方法も提案されている。
 Fricke線量計の範疇ではないが、硫酸第一鉄溶液に安息香酸とキシノールオレンジを加えた系(FBX線量計)により、Fricke線量計よりも30倍も感度を高めることができるという報告もある。

コメント    :
 ここではガンマ線や電子線を主な対象として、Fricke線量計の標準的な取扱い, 校正, 測定方法などに関して抄録したが、線質の異なる放射線についての応用例も多い。一般的には、放射線の線エネルギー付与(LET)が大きくなるにともなって線量計の感度は低下することが知られている。
 また、目的によりFricke以外の線量計を使用したい場合は, ASTM-E1261を参照して選択することを推奨する。

原論文1 Data source 1:
Standard practice for using the Fricke reference standard dosimetry system
American Society for Testing and Materials(ASTM)
1916 Race Street, Philadelphia, PA 19103-1187, USA
Annual Book of ASTM Standards, Vol.12. 02, E1026-94 (1994).

原論文2 Data source 2:
Aqueous Chemical Dosimetry
R.W.Matthews
Austlian Atomic Energy Commission, Research Establishment, Private Mail Bag. Sutherland 2232, N.S.W., Australia
Int. J. Appl. Radiat. Isot., Vol.33, 1159-1170 (1982).

原論文3 Data source 3:
Ch.V. Instructios for dose-meter systems. V-1 Standard procedure, V-2.1 Procedure for the ferrous sulphate(Fricke) dose meter
International Atomic Energy Agency
5 Wagramerstrasse, P.O.Box 100, A-1400, Vienna, Austria
IAEA Technical Report Series No.178, 88-99 (1977).

参考資料1 Reference 1:
ASTM standards E1261 Guide for selection and application of dosimetry systems for radiation processing (1995)
American Society for Testing and Materials
1916 Race Street, Philadelphia, PA 19103-1187, USA
Annual Book of ASTM Standards, Vol.12. 02, E1261-94 (1994).

参考資料2 Reference 2:
Dosimetry for Radiation Processing
W.L.McLaughlin, A.W.Boyd, K.H.Chadwick, J.C.McDonald and A.Miller
4 John St., London WC1N 2ET, UK
Taylor & Francis, London (1989)

キーワード:フリッケ(Fricke)線量計, 硫酸第一鉄, リファレンス線量計, 線量計特性
Fricke dosimeter, ferrous sulfate, reference dosimeter, dosimeter characteristics
分類コード:040302

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