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作成: 1996/08/27 春日 俊夫

データ番号   :040029
加速器によるエックス線源
目的      :電子円形加速器からのエックス線の発生
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :電子円形加速器
応用分野    :材料分析、リソグラフィー、医学利用

概要      :
 シンクロトロン放射(SR)は、高エネルギーの電子の軌道が磁場で曲げられるときに発生する一種の制動放射であり、そのスペクトルは赤外からX線領域に及ぶ広い波長域をもっている。SRの利用を目的とする電子(陽電子)蓄積リングが数多く建設されている。SR中のX線域は材料分析評価、リソグラフィー、あるいはアンジオグラフィー等の医学用に利用されている。

詳細説明    :
1.シンクロトロン放射と電子蓄積リング
 シンクロトロン放射(SR)は高エネルギーの電子の軌道が磁場で曲げられるとき、軌道の接線方向に放射される鋭い指向性をもった電磁波であり、赤外からX線領域に及ぶ広い波長域をもっている。シンクロトロン放射の発生のために、約1GeVから8GeV程度の(陽)電子を数100mA蓄積することのできる(陽)電子蓄積リングが建設されてきた。表1に最近注目されはじめ,開発中の放射光源と利用目的を示す。

表1 開発が期待されるシンクロトロン放射光源(原論文1より引用)
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 光源性能              利用目的
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産業用軟X線(〜1keV)小型リング   超々LSI産業専用
小型でシリコン・ウェーハーへの   サブミクロン線幅パターンの転写光源
         大面積照射可能  (リソグラフィー用)
外形5m以下の電子波動リング
電子エネルギー 〜1GeV,         Ep(keV)=5.28xE3(GeV)/R(m)
        蓄積電流 〜300mA
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医学用X線(〜33keV)小型リング    医学・診断専用
小型で心臓等の臓器内の血管撮影可能 ヨードのK吸収端(33KeV)を利用する
外形10m程度の電子波動リングの              血管造影用光源
        直線部に15T超電導
パルス駆動ウィグラーを挿入     (アンジオグラフィー)用
電子エネルギー 〜1.5GeV,        Ep(keV)=1.584xE2(GeV)xB(T)
        蓄積電流 〜500mA
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高輝度X線(10〜100keV)リング    医学診断 生命科学 物資科学
直線部の低エミッタンス・ビームを用 材料評価技術
いて、ウィングラーやアンジュレータ
による高輝度化
関西SOR,ヨーロッパのESRL,米国のAPS 干渉性放射光のエネルギー
外形 〜400m,挿入型光源多数       Eo(keV)=1.948xE2(GeV)/λo(cm)
電子エネルギー 6〜8GeV,
         蓄積電流  100mA
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2.シンクロトロン放射の性質
 シンクロトロン放射の発散角は、1/γ(γ=E/mc2,Eは電子のエネルギー,mc2は電子の静止エネルギー)程度となり、非常に鋭い指向性をもつ。スペクトル分布のピークエネルギーEp(keV)は電子の軌道半径をR(m)、エネルギーをE(GeV)とすると
      Ep=5.28E3/R
で与えられる。またシンクロトロン放射の全出力P(kW)は、ビーム電流をI(A)とすると、
      P=88.47E4I/R
で与えられる。このPは蓄積リングの高周波加速系で補われなくてはならない。E=1GeV、R=2m、I=300mAの場合、Ep=2.6keV、P=13kWであるが、E=6GeV、R=20m、I=300mAの場合、Ep=57keVとなり高いエネルギーのX線を得ることができるが、高周波加速系が1.7MWを負担しなければならなくなる。

3.挿入光源
 従来は周回軌道をつくるための電磁石(偏向電磁石と呼ぶ)内で発生したSRを用いることが多かったが,最近では偏向電磁石の間の直線部に組み込んだ挿入光源と呼ばれる装置からのSRの利用が主流となってきている。直線部でビームを周期的蛇行運動を行わせると、電子の進行方向に鋭く集中した高輝度の放射が得られる。このような装置をアンジュレータ(undulator)と呼んでいる。アンジュレータからの放射の波長は、電子エネルギーの二乗に反比例し、蛇行の周期長に比例する。その強度は蛇行の周期数をNとすると,N(各蛇行からの放射に干渉性がない場合)からN2(干渉性が完全な場合)に比例する。6-8GeVクラスの電子蓄積リングにこの種の装置を組み込むと非常に大強度のX線を発生させることができる。
 このクラスの蓄積リングは専有面積が広大となる(直径数100mから1km程度)うえ、高周波加速系の負担が大きいため極めて大規模・高価な装置となる。リングの直線部に偏向電磁石の磁場に比べて大きな磁場をもった電磁石系で電子軌道を一回だけ蛇行させると,そこからのSRのEpは磁場に比例して大きくなる。このような電磁石系をウィグラー(wiggler)と呼ぶ。1.5-2GeVクラスの電子蓄積リングに15テスラ程度(通常の偏向電磁石の磁場は1テスラ以下で用いることが多い)の磁場を発生させることのできる超伝導パルスウィグラーを組み込むことによって、50ないし100keVのX線を得ることができる。

コメント    :
 電子蓄積リングからのシンクロトロン放射のX線成分を材料分析評価,リソグラフィー,医学用に応用することができる。

原論文1 Data source 1:
医学用X線小型リング
冨増 多喜夫
電子技術総合研究所
放射線科学, vol.30 No.8, 193 (1987).

原論文2 Data source 2:
シンクロトロン放射光(SOR)の原理と応用
池田 正幸,北野 隆一
(株)ソルテック
電子写真学会誌, 第27巻 第1号, p.65 (1988).

原論文3 Data source 3:
トリスタン入射・蓄積リングによる高輝度放射光の特性と応用
張 小威,安藤 正海
高エネルギー物理学研究所
応用物理, 第63巻, 第6号, 568 (1994).

原論文4 Data source 4:
First Production of Intense Circular Polarized Hard X Rays from a Novel Multipole Wiggler in an Accumulation Ring
Yamamoto S, Kawata H, Kitamura H, Ando M, Sakai N*, Shiotani N*
National Laboratory for High Energy Physics, *Institute of Physical and Chemical Research
Physical Review Letters, vol.62, No.23, 2672 (1989).

キーワード:電子蓄積リング、シンクロトロン放射、X線、リソグラフィー、アンジオグラフィー
electron storage ring, synchrotron radiation, X-ray, lithography, angiography
分類コード:030103,040102,040105

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