医学に利用されるイオンビ-ム

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作成： 1996/09/04 松岡　祥介、辻井　博彦データ番号　　　：040026 医学に利用されるイオンビ-ム目的　　　　　　：イオンビ-ムを用いた診断用機器とがんの荷電粒子線治療について放射線の種別　　：陽子,重イオン放射線源　　　　：サイクロトロン、シンクロトロン線量（率）　　　：50-80Gy(Photon Equivalent) 利用施設名　　　：放射線医学総合研究所・重粒子線治療センタ- Lawrence Berkeley Laboratory, University of California, Berkeley 照射条件　　　　：空気中、室温概要　　　　　　：　イオンビ-ムである陽子線、重陽子線はサイクロトロン核医学の陽子線放出核種の生成に用いられ、また陽子線、重イオン線はBragg 特性を有し、重イオン線はさらに高い生物効果も持つためがん治療に用いられている。それぞれの特徴を生かし、陽子線治療は眼球腫瘍、頭蓋内小病変、肝腫瘍に対して、重イオン治療は唾液腺、副鼻腔、骨・軟部組織、前立腺、胆管の腫瘍で良好な結果が得られている。科学技術の発達に伴い、今後の発展が期待されている。詳細説明　　　　：　医学に使われるイオンビ-ムは、サイクロトロン、シンクロトロン等の加速器を使って生成される。画像診断の分野ではサイクロトロン核医学の分野に用いられており、陽子、重陽子を加速し、標的物質に衝突させることで陽電子放出核種を作るために用いられている。この核種で標識化合物を合成、患者に投与して人体の生理学的、生化学的な機能をポジトロンCTを用いて測定または画像として表す。がんの放射線治療では、陽子線や重イオン線(ヘリウム、カ-ボン、ネオン)が用いられている。これらは、荷電粒子線と呼ばれ、その特徴として、人体組織照射時に入射部では線量が低く、飛程の終端部でそのエネルギ-の大部分を放出するBragg Peakを形成する。つまり、体の深部で高線量域を形成するため、正常組織を痛めずに腫瘍に高線量を照射できる。ヘリウム以外の重イオン線は、照射物質の原子を密に電離する高LET放射線であり、放射線の感受性に関係する低酸素腫瘍細胞、細胞周期、放射線損傷からの回復などの影響を受けない強い生物学的効果を示す。　腫瘍の形状に一致した精度の高い照射を行なうためには、現在、CT、MRIなどの画像診断、コンピュ-タを使用した3次元治療計画装置などが活用される。治療計画装置を用いて撮影したCT画像に、腫瘍、重要臓器の輪郭を入力し、腫瘍のサイズや形状、イオンビ-ムのエネルギ-、照射角度など各種パラメ-タを決定する。加速器からとりだしたイオンビ-ムは線状で細く、飛程距離も一定で、Bragg-Peakの幅も非常に狭い。これを腫瘍全体を含む照射径に拡大し、複雑な形をした奥行のある腫瘍を一様に照射するため種々の装置を必要とする。楔状形で振動するリッジフィルタ-を通過させて飛程を分散させ、Bragg Peakを腫瘍の大きさに広げ、腫瘍の立体的形状に合せて照射するために、患者コリメ-タ-とボ-ラス(補償フィルタ)を作成する(図1)。図1　重イオン治療における照射野の形成方法の略図重イオン線のピ-クの拡大は細胞の照射実験結果をもとに照射野内の生物効果が均等になるように行われる。　イオンビ-ム治療が効果を発揮するのは、線量分布の利点から重要臓器が近傍にある腫瘍であり、重イオン線はさらに高い生物学的効果から標準放射線に抵抗性を示す増殖の遅い腫瘍が適応となる。陽子線は1954年にロ-レンスバ-クレ-研究所で開始された。1961にハ-バ-ド大学で本格的な治療が始まり、現在まで17施設で陽子線治療が行われ(表1)、表1　世界の陽子線治療施設。（原論文6より引用） ------------------------------------------------------------------------------- 所在地（国）　　　　　　　　　　名　称　　　　エネルギー　患者数　　集計期間　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(Mev) ------------------------------------------------------------------------------- バークレー（米国）　　　　　　　 LBL/UCSF 740 30 1954-57 ウプサラ（スウェーデン）　　　　 Svedberg Lab. 185 107 1957-76 ボストン（米国）　　　　　　　　 MGH/HCL 160 6,287 1961-94.6 モスクワ（ロシア）　　　　　　　 ITEP 200 2,782 1969-92.10 ドウブナ（ロシア）　　　　　　　 JINR 680 120 1987-94.4 サンクトペテルスプルグ（ロシア）INR 1,000 904 1975-94.6 千葉（日本）　　　　　　　　　　 NIRS 86 86 1979-93.6 筑波（日本）　　　　　　　　　　 PMRC 250 414 1983-94.3 フィリゲン（スイス）　　　　　　 PSI 72 1,785 1984-93.12 クラッターブリッジ（イギリス）　 Douglas Cyclotron 　　　　　　　　　　　　　　　　 Unit 62 570 1989-94.5 ロマリンダ（米国）　　　　　　　 LLUMC 250 1,100 1990-94.2 ルバン　ラ　ヌーボ（ベルギー）　 UCL 90 21 1991-93.11 オルセイ（フランス）　　　　　　 CPO 200 468 1991-94.5 ニース（フランス）　　　　　　　 CentreA-Lacassagne 65 472 1991-94.11 ファウレ（南アフリカ）　　　　　 NAC 200 54 1993-94.9 インディアナポリス（米国）　　　 Indiana Cyclotoron 200 1 1993.12 サクラメント（米国）　　　　　　 UC Davis Cancer 　　　　　　　　　　　　　　　　 Center 70 19 1994.6 ------------------------------------------------------------------------------- 合計 15,220 ------------------------------------------------------------------------------- 世界で15,000人以上が治療を受けている。重イオン治療は米国のロ-レンスバ-クレイ研究所で行なわれ、ヘリウムイオン治療が1957-1992年の間に2054例に対して、ネオンイオン治療が1979-1993年の間に433例に対して施行された。陽子線治療は頭蓋内小病巣、眼球内腫瘍が約70%を占め、網膜悪性黒色腫は局所治癒96%、頭蓋底、頚椎原発肉腫は65-91%という優れた局所治癒が得られている。　日本では、1979年から放医研で眼球腫瘍を対象に行なわれており、筑波大学陽子線医学利用研究センタ-では1983年より本格的な体幹部腫瘍の陽子線治療が開始され、原発性肝癌では80%に近い腫瘍の局所制御が得られている。重イオン治療はLBLで唾液腺癌、副鼻腔癌、骨・軟部組織肉腫、前立腺癌、胆管癌で良好な治療結果が得られたが、1992年に終了している。以上の結果から、周辺正常組織を温存し、腫瘍に高線量を照射することが有効とわかり、重荷電粒子線治療の発展が期待されている。1990年、米国のロマリンダ大学では小型シンクロトロンで回転ガントリ-を持つ医療専用の陽子線施設が設立され、その他にも陽子線治療施設の建設計画は10数か所に及ぶ。また、1994年6月より放医研の医療専用加速器(HIMAC)で重イオン治療が開始されており、1996年8月までに150名が治療を受けている。HIMACの概観を図2に示す。図2　A cross sectional bird's view of HIMAC.（原論文8より引用）コメント　　　　：　現在、放射線治療においては、診断技術、コンピュ-タを利用した3次元治療計画装置などの進歩に伴い、腫瘍に限局した照射を行なうことが十分可能になっている。いわゆる、ハイテクの最も良い利用方法と考えられる。原論文１ Data source 1： Heavy ion source for radiation therapy Y.Sato, A.Kitagawa, H.Ogawa, and S.Yamada National Institute of Radiological sciences, Chiba J. Appl. Phys., vol.76, 3947-1969 (1994). 原論文２ Data source 2： Ion beams for cancer treatment - a perspective W.T.Chu Lawrence Berkeley Laboratory, University of California, Berkeley Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B99, 835-838 (1995). 原論文３ Data source 3：重荷電粒子線治療辻井　博彦、辻　比呂志、奥村　敏之筑波大学・陽子線医学利用センタ- 画像医学プログレスシリ-ズ4 放射線腫瘍学・免疫核医,学中山書, p.95-114 (1993). 原論文４ Data source 4：重イオン治療照射施設河内　清光放射線医学総合研究所・医用重粒子線研究部放射線医学物理, vol.12, 104-111 (1992). 原論文５ Data source 5： Neon ion radiotherapy:Results of the phase Ⅰ/Ⅱ clinical trial. D.E.Linstadt, J.R.Castro and T.L.Phillips. Department of Radiation Oncology, University of California, San Francisico, and Research Medicine Division, University of California Lawrence Berkeley Laboratory. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., vol.20, 761-769 (1991). 原論文６ Data source 6：重粒子線がん治療の展望と将来辻井　博彦放射線医学総合研究所重粒子治療センタ-治療・診断部日本臨床, vol.54, 268-273 (1996). 原論文７ Data source 7： Radiation therapy using high-energy heavy-ion T.Kanai National Institute of Radiological Sciences JAERI-Conf, 1995:135-145 (1995). 原論文８ Data source 8： Radiation oncological facilities of the HIMAC. K.Kawachi, T.Kanai, and M.Endo et al National Institute of Radiological Scienses J. Jpn. Ther. Radiol. Oncol., vol.1, 19-29 (1989). 原論文９ Data source 9： Development of a hospital-based proton beam treatment center. J.M.Slater, D.W.Miller, and J.O.Archambeau Radiation Sciences, Loma Linda University, Loma Linda Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. vol.14, 761-775 (1988). キーワード：イオンビ-ム、PET、陽子線治療、重イオン治療、粒子線治療 Ion beams, PET, Proton therapy, Heavy ion therapy, Particle radiotherapy 分類コード：040101,030202
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