放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1996/09/18 井上 信

データ番号   :040016
中性子捕捉医療用加速器
目的      :ボロン中性子捕捉療法のための小型加速器システムの提案
放射線の種別  :中性子
放射線源    :電子加速器(6MeV,100mA)、陽子線形加速器(2.5MeV,100mA)
フルエンス(率):1.5x109n/cm2/s
利用施設名   :各地での提案の段階
照射条件    :大気中
応用分野    :ガン治療、放射線物理

概要      :
 原子炉の熱中性子を利用してボロン中性子捕捉療法が試みられてきたが、原子炉の新設は容易でないので、加速器による熱中性子(実際は熱外中性子が望ましいが)をつくることが提案されている。加速器としては電子加速器と陽子加速器とが提案されている。電子の場合はタングステンのターゲットで陽子の場合よりエネルギーが高くガンマー線も多い。陽子の場合はリチウムをターゲットとして(p,n) 反応を利用する。

詳細説明    :
 ボロン10を含む化学薬品でガン細胞に選択的に取り込まれるものを注入し、熱中性子を照射してボロンが中性子を捕捉してアルファ粒子とリチウムイオンになり、これがガン細胞を破壊するというボロン中性子捕捉療法(BNCT)はこれまで原子炉で行われてきている。しかし、既存の原子炉の利用は医療だけではないので専用のものが望ましい。新設の医療用原子炉の提案もあるが、原子炉の新設は容易ではない。そこで医療専用の中性子源として加速器を使う提案がいくつかなされている。アイダホのNiggらは6MeVの電子加速器でタングステンのターゲットを用いたときの中性子のエネルギー分布を計算している。図1にその構成と得られたエネルギー分布を示す。


図1 Conceptual accelerator-based epithermal photoneutron source for BNCT.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the authors, from Trans. Am. Nucl. Soc., Vol.70, p.7, (1994), D. W. Nigg, W. Y. Yoon, J. L. Jones, Y. D. Harker, Figure 1 (Data source 1, pp.7), Copyright (1994) by American Nuclear Society.)

 LBLのKwanらは核融合のための中性ビーム入射機として検討されている静電四重極加速器(ESQ)で2.5MeVの陽子を加速することを提案している。これは静電四重極レンズを線形に配置し各レンズに適当なポテンシアルをかけて全体で1MVないし2MVの直流加速器とするものである。この高圧電源としてはダイナミトロンやコッククロフトワルトン型の電源が使われる。2.5MeV-100mAの陽子加速のためには放電の防止など研究開発要素が残っているが他の目的のための開発はなされており充分可能である。
 アイダホでは電子加速器の検討とは別に、2MeVの高周波四重極(RFQ)型陽子線形加速器も検討している。彼らは2.5MeVより2MeVの方が必要な低いエネルギーの中性子の発生には便利であるとして2MeVのエネルギーを選んでいる。彼らは実際に2MeVのRFQ型線形加速器で陽子を加速しリチウムのターゲットに当て水で冷却するシステムでの中性子発生量とエネルギー分布を測定している。
 オハイオのBlueらはNASA-Lewis研究所のダイナミトロンを用いてBNCT用の中性子源に関する研究を行った。この場合は実用機の場合とはビーム電流が低いのでリチウムのターゲットの冷却は簡単であるが、この実験結果に基づいて実用機として考えられるRFQ型線形加速器の場合の冷却の推定を行っている。例えば2.5MeVで20mAの陽子ビームの場合、ターゲットでの発熱は50kWになる。そこで特殊な液体リチウムのターゲットを提案している。リチウムの蒸発によって熱を取りこの蒸気は周囲の壁の冷却で液化するというシステムである。図2に全体のシステムの概観図を示す。


図2 Schematic of RFQ-Linac BNCT treatment facility.(原論文4より引用。 Reproduced from Neutron Capture Therapy, J.W.Blue, W.K.Roberts, T.E.Blue, R.A.Gahbauer, and J.S.Vincent, edited by H. Hatanaka (Nishimura Co., Ltd., Niigata, Japan, 1986) p.147-158, Figure 8 (Data source 4, pp.157), with permission of the authors.)

またモジュレーターに重水を用いた場合の中性子のエネルギー分布も掲載している。リチウム7をターゲットとして(p,n) 反応による前方方向の中性子がどのようなスペクトルになるかを示したのが図3である。


図3 Energy spectra of forward directed 7Li(p,n) neutrons modurated by D2O.(原論文4より引用。 Reproduced from Neutron Capture Therapy, J.W.Blue, W.K.Roberts, T.E.Blue, R.A.Gahbauer, and J.S.Vincent, edited by H. Hatanaka (Nishimura Co., Ltd., Niigata, Japan, 1986) p.147-158, Figure 7 (Data source 4, pp.157), with permission of the authors.)

 さらに彼らは最近開発された超小型の速中性子線治療用のサイクロトロンの価格約2.5M$と比較し得るものとして、RFQ型線形加速器によるBNCTを提唱している。

コメント    :
 BNCTそのものの評価についてはまだ研究段階といえるが、一方で原子炉に依存しない熱中性子源としてRFQ型線形加速器などを検討しておくことは有意義であろう。ただし連続ビームで100mAという加速器は高周波型ではまだ得られていない。また直流高電圧型では2MVになるとかなり大がかりでX線の発生も多く取扱いは容易でない。将来の発展を考慮するとRFQ型の開発が望まれる。

原論文1 Data source 1:
A Compact Accelerator-Based Epithermal Photoneutron Source for Boron Neutron Capture Therapy
D.W.Nigg, W.Y.Yoon, J.L.Jones, Y.D.Harker
INEL, EG&G Idaho
Trans. Am. Nucl. Soc., Vol.70, p.7 (1994)

原論文2 Data source 2:
A 2.5MeV electrostatic quadupole DC accelerator for BNCT application
J.W.Kwan, O.A.Anderson, L.L.Reginato, M.C.Vella, S.S.Yu
Laurence Berkeley Laboratory, University of California, Berkeley, California 94720, USA
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B99, p.710 (1995)

原論文3 Data source 3:
INEL and ISU BNCT research using a 2MeV RFQ-based neutron source
Y.D.Harker, J.F.Harmon, G.W.Irwin
Idaho National Engineering Laboratory, Idaho Falls, ID 83415, USA, Department of Physics, Idaho State University, Pocatello, ID 83209, USA
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B99, p.843 (1995)

原論文4 Data source 4:
A Study of Low Energy Proton Accelerators for Neutron Capture Therapy
J.W.Blue, W.K.Roberts, T.E.Blue, R.A.Gahbauer, and J.S.Vincent
Cleveland Clinic Foundation, Ohio State University, University of British Columbia
Neutron Capture Therapy, edited by H. Hatanaka (Nishimura Co., Ltd., Niigata, Japan, (1986) p.147-158

キーワード:中性子捕捉療法、静電四重極加速器、高周波四重極加速器
BNCT, ESQ, RFQ
分類コード:030202,030402,040103

放射線利用技術データベースのメインページへ