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作成: 1996/09/04 井上 信

データ番号   :040014
放射線医学総合研究所の重イオン治療施設
目的      :放射線医学総合研究所における重イオン治療用加速器施設の概要
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :重イオンシンクロトロン(800MeV/u, 2x109pps)
線量(率)   :5Gy/min
利用施設名   :放射線医学総合研究所重イオンシンクロトロン
照射条件    :大気中
応用分野    :ガン治療、放射線物理

概要      :
 放射線医学総合研究所では炭素イオンをはじめとする重イオンを最大800MeV/uまで加速できる重イオンシンクロトロンを設置し、重イオン治療の世界の最先端の研究を行う。全体の構成は、イオン源、入射用線形加速器、2個のシンクロトロンからなっている。イオン源はPIG型およびECR型である。入射用線形加速器は100MHzの高周波四重極(RFQ)型およびアルバレ型の加速管からなり、シンクロトロンは周長129.6mである。

詳細説明    :
 粒子線治療のうち、重イオンはブラッグピークが鋭く局所的に集中して照射できることでは他の粒子よりも優れている。またその生物学的効果も大きい。一例としてヘリウムと炭素の水中でのエネルギー付与の様子を図1に示す。


図1 重イオンの水中でのエネルギー付与の実測ブラッグ・カーブ、飛程端末のピークの先に核反応生成粒子による尾が見られる。(原論文3より引用)

重イオンで高エネルギーになると核反応が起こるためブラッグピークの先に反応生成物による尾が見えるがピークが鋭いことがよくわかる。しかし身体内部まで到達させるためにはかなりの高エネルギーに加速する必要があり、加速器が大型になるため従来は核物理用の加速器の利用が多かったが、放射線医学総合研究所では世界で初めて治療専用の重イオン加速器(HIMAC)を建設した。
 重イオンを発生させるイオン源としては、ペニングイオンゲージ(PIG)型イオン源、エレクトロンサイクロトロンレゾナンス(ECR)型イオン源、エレクトロンビーム型イオン源(EBIS)などがあり、それぞれに特徴があるが、放射線医学総合研究所ではPIG型およびECR型を採用している。またそのイオンの種類としてはヘリウム、炭素、ネオン、珪素、アルゴンを加速することをめざしているが、現在治療には主として炭素イオンを用いている。なお通常は維持の容易なECR型を用い、PIG型はバックアップに使っている。さらに最近より重いイオンの加速を可能にする高性能の18GHz のECR型イオン源を導入している。
発生したイオンは100MHzで運転する高周波四重極(RFQ)型線形加速器で800keV/uまで加速し、さらにアルバレ型線形加速器で6MeV/uまで加速する。ここまでが入射系でこの低いエネルギーでの基礎的な研究も行えるようになっている。
 さらに、これを必要な高エネルギーまで加速するために主加速器として重イオンシンクロトロンが置かれる。放射線医学総合研究所のシンクロトロンは全く同じリングが上下2個あることで、これにより患者に対し垂直方向からと水平方向からの2方向からの照射が同時に容易に行える。加速器と照射系の全体図は図2のようになっている。


図2 HIMAC加速器全体概念図(原論文2より引用)

シンクロトロンは偏向電磁石は12個、集束用の四重極電磁石は24個で、繰り返し2秒に1回で運転される。最終出力エネルギーは100MeV/uないし800MeV/uである。この装置に要請される性能は表1のようになっている。

表1 HIMAC施設への要請(原論文3より引用)
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lon species:          from 4He to 40Ar
Maximum energy:       800 Mev/u   for q/A=1/2
Hinimum energy:       100 Mev/u   for q/A=1/2
Beam intensity*:      1.2×1010 pps  for 4He lons
                      2.0×109          12C
                      3.4×108          20Ne
                      4.5×107          28Si
                      2.7×107          40Ar
Beam duration:        400 ms
Repetition rate:      1/2 Hz for each ring
Beam emittance:       10  πmm・mrad(unnormalized)
Momentum spread:      <±0.2%
Irradiation facility
  Treatment rooms:    1(Horizontal beam only)
                      1(Vertical beam only)
                      1(Horizontal & vertical beams)
  Experimental rooms: 5
Beam characteristies
  Field size:         22 cm(Max.diameter)
  Dose uniformity:    <±2% over entire field
  Maximum range:      30 cm
  Dose rate:          500 rad/min(5 Gy/min)
  Field broadning:    Wobbler scanning method
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*Extracted beam intensity per ring.
 シンクロトロンはそのエネルギーを自由に変えられるので、腫瘍のある場所に対応してエネルギーを変えることが容易である。また、呼吸に伴って患部が動くことが考えられるが、呼吸に同期してビームを出せばいつも正確に同じ場所を照射できる。このような同期運転も可能である。なお実際には患部は小さなスポットとは限らないのでブラッグピークの場所を前後左右に変えていく必要がある。ブラッグピークの深さを変えるのはエネルギーを変えることに対応する。大きく変えるときには、上述のようにシンクロトロンの加速エネルギーを変えるが、少しの広がりを作るには特殊な形状のレンジシフターという吸収体を置く。一方平面の広がりについてはウオブラーという装置でビームを横に振る方法を採用している。これらはいずれもビーム強度にむらのないように一様に広げることが必要である。臨床試行当初はB治療室を使っていたが最近はA、C、ともに使用可能で1日20名以上の治療が可能である。

コメント    :
 重イオン治療専用機が世界で初めて建設された意義は大きい。しかし、重イオンシンクロトロンは高価なので普及にあっては放射線医学総合研究所のようなシステムは大型すぎる。リング2個は必要ないし、炭素イオンまででよいならより小型になる。放射線医学総合研究所のものは先端的技術開発拠点として意義があると考えられるので、今後スポットスキャンなどより高度の技術を確立していくことが望まれる。

原論文1 Data source 1:
Heavy-ion sources for radiation therapy
Y.Sato, A.Kitagawa, H.Ogawa, and S.Yamada
Division of Accelerator Research, National Institute of Radiological Science(NIRS), 4-9-1 Anagawa, 263 Chiba-Inage, Japan
J. Appl. Phys., 76(7), p.3947, 1 October 1994

原論文2 Data source 2:
重イオン治療照射施設
河内 清光
放射線医学総合研究所医用重粒子研究部
放射線医学物理, 第12巻 第3号 p.104 (1992) 

原論文3 Data source 3:
HIMAC計画
平尾 泰男
放射線医学総合研究所
放射線、Vol.15, No.2, p.15, (1988)

参考資料1 Reference 1:
医療用重粒子加速器の現状
河内 清光
放射線医学総合研究所
日本原子力学会誌, Vol.38, No.8, p.2, (1996)

キーワード:重粒子線、 ガン治療、ガン診断、
heavy ion beam,cancer therapy,cancer diagnosis
分類コード:040101,030202

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