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作成: 1996/09/17 井上 信

データ番号   :040011
放射線治療用電子加速器の進展
目的      :放射線治療用の高エネルギー電子加速器の発展
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(50MeV,1.8kW)
線量(率)   :2.5Gy/min
利用施設名   :スエーデンUmea大学マイクロトロン、国立ガンセンターマイクロトロン、米国電子線形加速器など
照射条件    :大気中
応用分野    :ガン治療、放射線生物学、放射線物理

概要      :
 放射線治療は、加速器開発の最初から試みられてきた。特に、電子線、X線・ガンマー線を使うものは広く普及しているが、従来はそのエネルギーが20MeV以下のものが多かった。しかし、エネルギーをあげると皮膚表面での線量が減り、深部まで到達する割合が増える。このためマイクロトロンを用いたり、線形加速器で繰り返し加速をするなどして、小型でエネルギーを上げる工夫がなされてきている。

詳細説明    :
 建設されている加速器のうち大部分は放射線治療用の電子線形加速器である。これは電子線形加速器は小型で製作や操作が容易であるためである。しかし低エネルギーの電子やX線・ガンマー線による照射では体表面での放射線照射の線量が多く深部では減少が大きいために深部ガンの治療の場合には表面の損傷効果を配慮して照射する必要がある。ところがエネルギーを20MeV以上に上げていくと体表面での線量が少し減り相対的に深部まで到達する量が増えるという利点がある。なおターゲットに電子ビームを当てX線に変えて治療する場合と、直接電子ビームを引き出して照射する場合がある。電子線の場合はある深さより先は影響が少ないがその到達距離を長くするには電子のエネルギーを上げる必要があり、20MeVで8cm程度である。
 線形加速器の場合の高エネルギー化については、米国各地で試みられている。通常の電子線形加速器は進行波型の加速管を用いる。しかし定在波型加速管を用いると加速効率がよく、より小型にできる。ロスアラモスでは定在波型の一つであるサイドカップルド型という結合型加速管が開発された。これは陽子加速器の高エネルギー部分として発明されたが現在電子用の加速管としてバリアンなどで製造販売している。結合型加速管には軸結合型やディスクアンドワッシャー型などがある。このような加速管そのものの高効率化ともに、電子は少し加速すると光速に近くなるので加速管の構造をエネルギーによって変える必要がないことから、電子ビームを磁石で方向を変えて折り返し同じ加速管を使ってまた加速することが可能である。こうすると長さを大きく変えることなく、エネルギーを上げられる。図1にはそのようなシステムの概念図を示す。


図1 A double pass linac incorporating a single reflecting magnet.(原論文2より引用。 Reproduced from Proc. Intern. Sym. Appl. Technol. Ion. Rad., Vol.1, 3 (1982), C.J.Karzmark (Data source 2), with kind permission of the author.)

 線形加速器とは別に電子加速器の高エネルギー化の方法としてマイクロトロンがある。これは一様な磁場と高周波電場を発生する加速部からなるもので、最近ではこの加速部の高周波空洞の代わりに小型の線形加速器を用い、磁場も二つに分けてレーストラック状にしているものもある。Lundには100MeVのレーストラック型マイクロトロンがある。Umeaの大学病院では50MeVのレーストラック型マイクロトロンを1985年に設置して翌年から治療を開始した。電子ビームを患者のところに導くガントリーのなかの概念図は図2のようになっている。


図2 Schemtic drawing of the beam scanning and the treatment head of the MM50(原論文1より引用)

この例では偏向磁石は一つで100度程度曲げている。
 Scanditronix社では1.8mの直径の磁石をもつ通常のマイクロトロンで22MeVのものを開発した。わが国では国立ガンセンターで同様のものが設置された。その概念図を図3に示す。


図3 Cross section of a 22MeV microtron illustrating the path of electrons in the accelerator (left) and through an isocentric treatment unit (right). The range of motion of the deflection tube from orbit 10 trough 42 is shown by arrows on the dashed line.(原論文2より引用。 Reproduced from Proc. Intern. Sym. Appl. Technol. Ion. Rad., Vol.1, 3 (1982), C.J.Karzmark (Data source 2), with kind permission of the author.)

ここでは3GHzで2MWのマグネトロンを用いて高周波を発生し、電子一周あたりのエネルギー増加は電子の静止質量よりやや大きい0.535MeVとし、軌道数42で最大エネルギー約22MeVである。マイクロトロンはビームのエネルギーのばらつきが小さいためガントリー内のビーム偏向によるビームの広がりが小さいが、線形加速器ではエネルギー幅がやや大きいので図1のように270度偏向してエネルギー集束を工夫することが多い。

コメント    :
 電子線およびX線による放射線治療は長い歴史があり、効果も確かめられている。最近注目されている陽子線や重イオンなどにくらべて安価であるので、ここにみられるような高エネルギー化と多門照射の普及が、国民医療的な観点からは重要である。その上でより高度の治療が必要なものはイオンビームによるといった使い分けが望ましい。

原論文1 Data source 1:
The 50 MeV Race-Track Accelerator- A New Approach to Beam Shaping and Modulation
M.Karlsson, H.Svensson, H.Nystroem, J.Stenberg
University of Umea, Umea, Sweden
Dosim. Radiother., Vol.2, p.307 (1988), IAEA-SM-298/68

原論文2 Data source 2:
Recent Advances in Linear Accelerators for Radiotherapy
C.J.Karzmark
Department of Radiology, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, 94305, U.S.A.
Proc. Intern. Sym. Appl. Technol. Ion. Rad., Vol.1, p.3 (1982)

原論文3 Data source 3:
医用電子加速器マイクロトロンについて
永野 周一
日立メディコシステム設計部
日本アイソトープ・放射線総合会議報文集、Vol.18, p.878 (1988)

キーワード:電子線形加速器、マイクロトロン、放射線治療、
electron linac, microtron, radiotherapy
分類コード:030201,030402,040102

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