放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1996/03/29 小島 拓治

データ番号   :040007
ポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計
目的      :放射線プロセス工程管理用PMMA線量計の特性
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子
放射線源    :60Co γ線
線量(率)   :線量,100 Gy - 50 kGy; 線量率,0.3 - 3.5 Gy/s
利用施設名   :Harwell, 日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :照射温度 -78 - 100゜C 、(吸光度測定温度 20゜C)
応用分野    :放射線加工処理, 工程管理

概要      :
現在100 Gy-50 kGyの線量範囲の測定に使用されているポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計, Radix RN15, Red perspex 4034, Amber perspex 3042, 及びGammachrome YRについて, 形状, 測定線量範囲, 線量率, 照射温度, 照射後の安定性等の線量計としての特性を概説する。

詳細説明    :
 放射線滅菌を始めとして,放射線加工プロセスでは, 取扱いが簡便な線量計を照射製品のパッケージに貼付し, 照射後の線量計の示す線量により滅菌等の完遂を確認するという工程の管理方法が用いられる。この目的のために使用される取扱いが簡便な固体線量計の一つに, 透明なあるいは色素により着色したポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計がある。線量計素子に用いる透明あるいは着色PMMAは, 放射線によりその吸収線量に比例して変色する。この単位厚さあたりの吸光度変化量を紫外・可視光域の分光光度計で測定し, 予め求めておいた吸光度変化量と線量の校正曲線を用いて, 線量計が受けた線量を知ることができる。
 PMMAは, 組成が(C5H8O2)n, 比重1.2g/cm3程度であり, 吸収線量を表す標準物質の水あるいは放射線加工処理対象の高分子材料の多くと, 放射線との相互作用が似ているため, この点からも線量計材料として有用である。
 現在市販品として入手できるPMMA線量計としては, 透明なPMMAであるRadix RN15, 色素を用いて着色したPMMAであるRed perspex 4034, Amber perspex 3042, 及びGammachrome YRなどがあり,いずれも湿度の影響を防ぐ密封袋に入れられている。
 これらの用途, 形状, 及び線量計特性を表に一覧する。使用にあたっては, 目的にあった特性をもつ線量計を選択する必要がある。

表1 Characteristics of PMMA dosimeters
-----------------------------------------------------------------------------------
                RadixRN15       Red perspex       Amber perspex     Gammachrome
                   RN15           4034               3042               YR
-----------------------------------------------------------------------------------
形状(mm)         40x10           30x11              30x11              30x11
厚さ             1.5(±0.03)     3(±0.5)           3(±0.55)          1.7
色(照射前)     透明            赤                 橙                 黄
  (照射後)     透明            暗赤               赤                 暗黄
読取り波長(nm)   315             640                603(1-10kGy)       530
                                                    651(10-30kGy)
線量範囲(kGy)    5-50            5-50               1-30               0.1-3
線量率依存性     <5%(25 kGy)     5%(30kGy)          12%(3kGy)
                 (5-100kGy/h)    (2-26 kGy/h)       (2-26 kGy/h)
照射温度         <5%(10-50゜C)    none(<40゜C)        <0.5%/゜C(10kGy)    <0.5%
 依存性          (6kGy/h,25kGy) 10-15%(2kGy/h,50゜C) (-78-+100゜C)       (-20-+60゜C)
                 none(0.7kGy/h)  <2%(20kGy/h,50゜C)                     (0.1, 3 kGy)
照射後           <5%(0-35゜C)     <2%(25゜C)           <2%               <3%
安定性           100h            36h                 10days            7days
不確かさ         ±3%            ±2%                ±2.5%            ±2.5%
(68%信頼度)
-----------------------------------------------------------------------------------
 Radix RN15は, 他に比べて厚さのばらつきが非常に小さく, 単位厚さあたりの吸光度を求める際の誤差が小さい特長をもつ。紫外から可視域にかけて波長が長くなるに従って吸光度が減少するスペクトルをもち, 放射線照射により全スペクトル域の吸光度が全体的に増加する。しかし, 照射終了からの経過時間とともに, 短波長域の変化はほとんど見られないがやや長波長域のスペクトルにおける吸光度が上がる。このため, この経時変化に帰因する誤差を低減する必要があり, 吸光度変化の読み取りには, 照射直後及び24時間後のスペクトルが交点をもつ波長314-315nmを用いる。
 Red Perspex 4034は, 照射前では吸収がみられない600-700nmの波長域において, 放射線照射により615nmに特異ピークをもつ吸収スペクトルを示す。この波長でも校正曲線を作成すれば使用可能であるが, スペクトルの肩にあたる波長640nmにおける吸光度変化量を用いる場合の方が, 精度が高くかつ照射中の温度や照射後の経時変化の影響が小さい利点がある。
 Amber 3042は, 照射前では吸収がみられない600-700nmの波長域において,放射線照射により603及び651nmに特異ピークをもつ吸収スペクトルを示す。波長603nmを用いることにより1-10kGyの測定が可能であるが, 吸光度が波長651nmでは603nmのそれに比べて約2/3と小さいため, これを併用することにより測定線量範囲を30kGyまで広げることができる。
Gammachrome YRは,照射前では吸収がみられない500-600nmの波長域において,放射線照射により530nmに肩をもつ長波長に減少した吸収スペクトルを示す。上記の3種の線量計より低い線量域0.1-3kGyが測定できるため, 特に食品照射において有用と考えられる。
 なお, PMMA線量計の使用にあたっては, 吸光度測定の直前まで密封袋を破らないことにより線量率, 照射中照射後の温度, 湿度, 経時変化の影響を低減することができる。しかし, 表に一例を示すように,これらの要因が互いに関連しているためにその補正が容易でないことに注意を要する。また, 吸光度及び厚さの読み取りにそれぞれ用いる分光光度計及び厚さ計は, 予め標準試料を用いて校正することが望ましい。さらに, 線量校正曲線の作成についても, 特定波長の紫外あるいは可視光に対する単位厚さあたりの吸光度を線量応答として, 国家線量標準に遡及性ある線量校正を行う必要がある。

コメント    :
 線量計の特性に関して, 照射条件を無限に変化させて調べることは困難であるため, 実照射において必要な特定条件下の特性を予め把握してから使用しなくてはならない。このようなPMMA線量計の取扱い, 校正, 測定方法などにおいて注意すべきことは, ASTM-E1276を参照することを推奨する。
 また, PMMA以外の線量計の中から, 使用目的にあった線量計を選択する場合は,ASTM-E1261を参照することを推奨する。

原論文1 Data source 1:
The gamma-ray response of clear polymethylmethacrylate dosimeter Radix RN15,Kojima T., Haneda N., Mitomo S., Tachibana H. and Tanaka R.
Appl.Radiat.Isot. 43, 1197-1202 (1992).

原論文3 Data source 3:
A study on some parameters relevant to the response of Harwell PMMA dosimeters to gamma and electron irradiation,
Glover K.M., Plested M.E., Watts M.F. and Whittaker B.
Radiat. Phys. Chem. 42, 739-742 (1993).

原論文4 Data source 4:
Effects of absorbed dose rate, irradiation temperature and post-irradiation temperature on the gamma ray response of red perspex dosimeters.,
Al-Sheikley M., Chappas W.J., McLaughlin W.L. and Humphreys J.C.
The proceedings of a symposium on high-dose dosimetry for radiation processing, International Atomic Energy Agency, STI/PUB/846 (IAEA, Vienna), p.419-434 (1991).

参考資料1 Reference 1:
Practice for use of a polymethylmethacrylate dosimetry system,
ASTM standards E1276 (1995).

参考資料2 Reference 2:
Guide for selection and application of dosimetry systems for radiation processing,
ASTM standards E1261 (1995).

キーワード:ポリメチルメタクリレート(PMMA), 線量計, 放射線滅菌, 食品照射, 工程管理,線量計特性
polymethylmethacrylate(PMMA), dosimeters, radiation sterilization,
food irradiation, process control, dosimeter characteristics
分類コード:040302

放射線利用技術データベースのメインページへ