イオンビ-ム分析の最近の傾向(-1992)

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作成： 1996/02/26 川面　澄データ番号　　　：040006 イオンビ-ム分析の最近の傾向(-1992) 目的　　　　　　：放射線の種別　　：陽子,軽イオン,重イオン放射線源　　　　：イオン加速器照射条件　　　　：真空中、大気中応用分野　　　　：医学・生物学、農学、環境科学、工業材料、考古学・文化財、鉱物学概要　　　　　　：　イオンビ-ム分析法は荷電粒子と物質の相互作用を基礎として発展してきた。ここ30年間に幾つかなの異なる手法が日常的な分析に利用されている。この解説ではその中でも、特に利用頻度高く、有用な分析法である、NRA, RBS, ERDA, PIXEについてその原理と応用を説明する外、最近の新しい傾向であるマイクロビ-ムについても言及する。詳細説明　　　　：　ここではイオンビ-ム分析について述べる。イオンビ-ムを固体材料に入射させると,固体内原子と相互作用して,入射イオンの散乱や電子(二次電子,オ-ジェ電子),粒子(固体構成原子,核反応生成粒子), 及び,光子(可視・紫外光,X線,γ線など)の放出が起きる。これらの衝突反応生成物のエネルギ-,放出角度,収量などを測定することにより,①同位体の識別,②質量数や原子番号による元素分析,③格子欠陥の同定・定量と同時に、それらの深さ方向分布の決定などが可能になる。マイクロビ-ムを用いると,さらに微小領域での高感度分析が可能になる。イオンビ-ムは電子に比べて質量が大きいことから,ドゥ・ブロイ波長が短い。このため,イオンは古典力学的粒子と考えてよく,解析が容易となり,定量的な分析ができる。ここ30年間に幾つかの異なる手法が日常的な分析に利用されている。ここではその中でも、特に利用頻度高く、有用な分析法である、NRA,RBS, ERDA, PIXEについてその原理と応用を説明する外、最近の新しい傾向であるマイクロビ-ムについても言及する。　(1)核反応解析法 (NRA,Nuclear Reaction Analysis)：数MeV程度のエネルギ-を持つH,D,Heイオンなどはク-ロン障壁の低い軽元素(原子番号が1-15以下)と選択的に核反応を引き起こすので,通常のRBS法では不可能な重元素母体中の軽元素分析に有効である。利用する核反応形式により2種類の分析法に分類される。(a)エネルギ-分析法：核反応断面積が入射イオンのエネルギ-とともに緩やかに変化するときに用いる。(b)共鳴法：この分析法は,分析対象元素に対して非常に鋭い共鳴核反応が存在する場合に用いられる。　(2)ラザフォ-ド後方散乱法 (RBS,Rutherford Backscattering Spectrometry)： RBSはMeVオ-ダのH,Heイオンを試料に照射して,試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォ-ド散乱)で,後方に散乱された入射粒子(H,He)のエネルギ-を半導体検出器で測定する分析法である。これにより試料の元素分析,深さ方向の組成分析や結晶性の評価,欠陥解析などを行うことができる。RBSはわずか4つの物理概念から解釈できる。それは ①カイネマティック因子K,②散乱断面積σ,③阻止能S,④エネルギ-ストラグリングΩである。RBS法の単結晶材料に対する応用としてチャネリング測定がある。MeVオ-ダのHやHeイオンビ-ムを結晶軸に平行に入射するaligned入射で,RBS測定を行うと,後方散乱収率が大きく減少する。しかし,結晶軸内に,あるいは格子位置からずれて,原子が存在していると,入射イオンはその原子と衝突して,①近接衝突をして後方に散乱される,②小角散乱してランダム粒子(ディチャネリング)となりその後他の原子と近接衝突して後方散乱される。このようなチャネリング法によって結晶性の評価,注入イオンの格子内位置決定,注入による欠陥分布,表面構造の乱れ,不純物原子の検出などが可能である。　(3)弾性反跳粒子検出法(ERDA, Elastic Recoil Detection Analysis)： RBS法では軽元素の分析は困難であるが,弾性衝突の過程で前方に反跳される軽元素粒子のエネルギ-分析を行えば,RBSとまったく同様に深さ分布の決定が可能になる。これがERDA法である。入射ビ-ムの角度は15°程度の浅い角度で行い,検出角度も同程度の角度にする。　(4)粒子線励起X線放出法(PIXE, Particle Induced X-Ray Emission)： H,Heなどの高速イオンビ-ムを試料に照射すると,試料原子のK,L殻などの内殻電子を励起,電離する。その後の緩和過程でオ-ジェ電子または特性X線を放出して基底状態に戻る。特性X線はその名のとおり各元素に固有の波長をもつため,元素分析のプロ-ブとして最適である。通常は1-3MeVのH,Heイオンが利用されることが多い。この分析法をPIXE法と呼んでいる。粒子線励起法は,電子線励起やX線励起に比べ,極めて大きなX線放出断面積をもつ上,制動X線によるバックグラウンドも小さく,極微量分析も可能である。PIXE法は非破壊的であり検出感度も高く,原子番号11以上の元素に対して,重量濃度で10^-⁴-10^-⁷,絶対値で10^-⁹-10^-¹²gの測定が可能になる。分析試料が少量ですむため,生物・医学,考古学,公害・環境に関する試料にまで分析対象が広がっています。さらにチャネリング法と組み合わせた研究も行われている。　マイクロビ-ム化することにより,選択性,感度,及び,精度の向上した三次元的な分析が行える。そのため、ビ-ムラインはマクロ、ミリ、マイクロと各種の大きさのイオンビ-ムを提供することが必要である。コメント　　　　：　1)イオンビ-ム分析法においても,次々に新しい工夫がなされている。液体,生体物質,貴重試料,特大試料などの分析のため,真空中ではなくて,大気中での測定法を開発したり,イオンビ-ムによる損傷を防ぐため二次ビ-ムを利用するなど。マイクロビ-ム化による選択性,感度,精度の向上した三次元的な分析は現在最も重要である。また,上記の分析方法以外にも,二次イオン質量分析法(SIMS, Secondary Ion Mass Spectrometry),加速器質量分析法(AMS, Accelerator Mass Spectrometry),イオン散乱分析法(ISS, Ion Scattering Spectroscopy),中エネルギ-イオン散乱分析法(MEIS, Medium Energy Ion Scattering)など多くの方法が開発され,利用されている。今後もさらに新しい方法論が展開されることが期待できる。　2)各学会誌の総説・解説記事の外,多くの国際会議(IBA,PIXE,加速器利用、固体内原子衝突等)のプロシ-ディングスが Nucl. Instrum. Methods in Phys. Res,. B から公刊されている。　　　3)イオンビ-ム分析に関する詳細は参考文献を参照されたい。原論文１ Data source 1： New Trends in Ion-Beam Analysis, Daniel David, University of Technology, LG2MS, Compiegne, France, Sur. Sci. Rep., 16, 333-375 (1992). 参考資料１ Reference 1：イオン励起のスペクトロスコピ-とその応用, 合志　陽一, 前田　浩五郎, 佐藤　公隆, 学会出版センタ-, 東京 (1987). 参考資料２ Reference 2：イオン工学技術の基礎と応用, 平尾　孝, 新田　恒治, 三小田　真彬, 早川　茂, 工業調査会, 東京 (1992). 参考資料３ Reference 3： J.M. Mayer and E. Rimini eds., Ion Beam Handbook for Material Analysis, Academic Press, New York (1977). 参考資料４ Reference 4： Backscattering Spectrometry, W.-K. Chu, J.M. Mayer and M.-A. Nicolet, Academic Press, New York (1978). 参考資料５ Reference 5： G. Deconninck ed., Introduction to Radioanalytical Physics, Elsevier, Amsterdam (1978). 参考資料６ Reference 6： Nuclear Physics Methods in Materials Research, K. Bethge, H. Baumann, H. Jex and F. Rauch eds., Friedr. Vieweg & Sohn, Braunschweig/Wiesbaden (1989). 参考資料７ Reference 7： Fundamentals of Surface and Thin Film Analysis, L.C. Feldman and J.W. Mayer, North-Holland, Amsterdam (1986). 参考資料８ Reference 8： PIXE: a Novel Technique for Elemental Analysis, S.A.E. Johannsson and J.L. Campbell, John wiley & Sons, Chichester (1988). 参考資料９ Reference 9： Handbook of Modern Ion Beam Materials Analysis, J.R. Tesmer, M. Nastasi, J.C. Barbour, C.J. Maggiore and J.W. Mayer Mater. Res. Soc., Pittsburgh (1995). キーワード：イオンビ-ム分析、NRA, RBS, ERDA, PIXE, PIGME, μビ-ム, ion-beam analysis, NRA, RBS, ERDA, PIXE, PIGME, μ-beam 分類コード：040401,040402
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