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作成: 1996/02/07 川面 澄

データ番号   :040004
粒子線励起X線放出分析法(PIXE)の最近の進歩(-1990)
目的      :
放射線の種別  :陽子,軽イオン
放射線源    :イオン加速器 (MeV)
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :材料分析、環境保全、古美術・考古学、生体・医療

概要      :
 粒子線励起X線分析法(PIXE)は1970年頃から始まった元素分析法である。現在では他の分析法と比較できるぐらい、ル-チン的に正確に精度よく分析できる。非破壊的に分析できるメリットのため、PIXEは環境、生物、医学、鉱物、考古学などに利用されている。マイクロビ-ムと組み合わせたμ-PIXEは1μmの分解能で10-6の微量元素分析が可能で、生物試料や鉱物試料に応用されている。

詳細説明    :
 粒子線励起X線分析法(PIXE)は1970年頃から始まった元素分析法である。高エネルギ-の粒子線を分析対象の試料に照射して、放出される特性X線のエネルギ-を分析して、元素の同定・定量を行う方法である。陽子線やHeイオンとSi(Li)検出器との組み合わせによる方法が簡便・迅速で効率がよい。粒子線は電子線と異なり制動放射X線によるバックグランドが非常に低く、感度が向上する。Si(Li)検出器は多元素を同時に分析できるので、高感度分析に有効である。実験方法やデ-タ処理に関して多くの改良がなされて、現在では他の分析法と比較できるぐらい、ル-チン的に正確に精度よく分析できる。しかしながら加速器が必要という実験装置上の制約から、他の方法では分析が難しい問題に適用するのが賢明である。濃度で10-7g/g、試料でμg程度の微量分析が可能である。また、試料が厚いものや成分が未知の試料はPIXEに適している。将来的には μ-PIXE が非常に有望である。
 PIXEの測定には、MeV領域のイオンビ-ムを真空チェンバ-内の試料に照射する。放出される特性X線をSi(Li)半導体検出器で計測し、その信号をマルチチャネルアナライザ-(MCA)に取り込み、X線スペクトルデ-タはコンピュ-タに記憶し、処理する。PIXEの利点は多元素を同時に分析できることで、しかも検出限界が低く、多くの元素に対してほとんど一様である。例えば検出限界として、大気中の浮遊物や有機物の迅速かつル-チン分析の場合にも平均的には1ppm程度は得られる。方法や装置を工夫すれば1桁以上も感度を向上させることできる。


図1 PXIE Spectrum of a Sample Prepared from a Solution Containing 200 ng of Various Elements.(原論文1より引用。 Reproduced from Chemia Analityczna, 35, 167-188 (1990), Johansson Sven A.E., Figure 3 (Data source 1,pp.170), with permission from CCHEMIA ANALITYCZNA. )

 PIXEの高い、一様な感度を示す良い例として、図1に示すのは多くの元素を200ng含んだ500mlの溶液から調整された試料のPIXEスペクトルである。多くの元素でピ-ク強度は同程度であり、絶対値で0.1ngの感度を示す。一方不利な点は、一般的なPIXE法は軽元素の分析が出来ないことである。勿論実験装置にも依存するが、ふつうにはAlより軽い元素の分析は難しい。窓なしのSi(Li)検出器を用いることによりBやCまでの元素を分析できる。PIXE法を補う方法の一つは核反応分析法(NRA)である。PIXE法と同時に用いられるのが陽子励起γ線放出法(PIGE)、ラザフォ-ド後方散乱分光法(RBS)、陽子弾性散乱分光法(PESA)である。


図2 Analysis of Concentration of a Steel Surface with a-RBS, b-NRA and c-PIXE.(原論文1より引用。 Reproduced from Chemia Analityczna, 35, 167-188 (1990), Johansson Sven A.E., Figure 4 (Data source 1, pp.171), with permission from CCHEMIA ANALITYCZNA)

 図2には表面にPuの付着した鉄鋼に対する各種のイオンビ-ム分析の例を示す。この場合は3つの方法により全体的な情報が得られることがわかる。これらの方法の組み合わせには大して手間は掛からない。PESAの散乱粒子やNRAの反応生成物にはSSDを取り付けるだけである。PIGEでγ線を検出するには真空チェンバ-の外部にGe(Li)検出器を設置すればよい。


図3 Detection Limits for a PIXE-PEGA-PESA Combination.(原論文1より引用。 Reproduced from Chemia Analityczna, 35, 167-188 (1990), Johansson Sven A.E., Figure 5 (Data source 1,pp.172), with permission from CCHEMIA ANALITYCZNA.)

 図3にはPIXE-PIGE-PESAの組合わせによる検出限界を示す。
応用例としては非破壊的に分析できるメリットのため、PIXEは環境、生物、医学、鉱物、考古学などに利用されている。マイクロビ-ムと組み合わせたμ-PIXEは1μmの分解能で 10-6の微量元素分析が可能で、細胞や鉱物試料に応用されている。

コメント    :
 1)PIXEのパイオニアであるヨハンソン教授により、PIXEの原理とその応用(1990年までの)がやさしく解説されいて、初めてPIXEに接する人にも分かり易い。PIXEの原理、特徴などもっと詳しく知りたい場合にはヨハンソン教授らによる2冊のテキストや解説を是非参照してください。
 2)さらに、PIXEは医学、生物学、農学、食品、環境科学、工業材料、考古学・文化財、鉱物学へ応用されている。もっと具体的にPIXEの応用例を知りたい方は宇田による参考文献を参照してください。

原論文1 Data source 1:
Recent Progress in Particle Induced X-Ray Emission Analysis (PIXE)
Johansson Sven A.E.
Lund Institute of Technology, S-22362 Lund, Sweden
Chemia Analityczna, 35, 167-188 (1990)

参考資料1 Reference 1:
粒子線励起X線分析法(PIXE)の現状と将来,
宇田 応之,
応用物理, 61, 672-681 (1992)

参考資料2 Reference 2:
最近のPIXE法での微量元素分析技術の進歩,
宇田 応之,
ぶんせき, 000, 000-000 (1996) 印刷中

参考資料3 Reference 3:
PIXE: a Novel Technique for Elemental Analysis,
Sven A.E. Johansson and J.L. Campbell,
John Wiley & Sons, Chichester (1988).

参考資料4 Reference 4:
Sven A.E. Johansson,
Int. J. PIXE,, vol.2, 33 (1992).

参考資料5 Reference 5:
Particle-Induced X-Ray Emission Spectrometry (PIXE),
Sven A.E. Johansson, John L. Campbell and Klas G. Malmqist,
John Wiley & Sons, New York (1995).

キーワード:PIXE、X線分析、粒子線、マイクロビーム、
PIXE, X-ray analysis, particle beam, micro-beam
分類コード:040401

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