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作成: 1996/02/10 井上 信

データ番号   :040002
マイクロプローブ化したPIXE技術
目的      : 
放射線の種別  :陽子
放射線源    :静電加速器など
線量(率)   :2 - 5MeV, - 100pA
利用施設名   :メルボルン、カールスルーエ、MITなど
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :材料分析、材料構造解析、資源利用

概要      :
 MeVエネルギー領域のイオンビームを試料に照射し、出てくる特性X線を検出して試料中の元素の分析を行うPIXE法において、ビームをミクロン程度に細くしてスキャンすることにより元素の位置分布を観察できる。このマイクロプローブPIXEの技術開発の状況について総合報告している。

詳細説明    :
 1970年頃から1980年頃までのビーム集束マイクロプローブの開発状況が図1のように示される。


図1 Increase of the number of focused nuclear microprobe facilities(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., 181, Figure 1 (Data source 1, pp.115), Copyright(1981), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

1970年代後半に開発されたMITとロスアラモスのシステムはビームの集束にそれまで使われてきた四重極レンズの組合せではなく単一の磁気ソレノイドを使用している。鉄のヨークを使うと磁場の強いときの飽和が問題なので鉄心を使わない超電導のソレノイドを用いている。ロスアラモスでMaggioreが開発したものはレンズの内径が5cm、長さが5cmでビーム軸上の磁場は電流70Aの時に80kGである。ビームをしぼるスリットからソレノイドレンズまでの距離は114cmでレンズからターゲットまでは11cmになっており、40μmにスリットでしぼられたビームがターゲットで5.2μmのスポットサイズに集束できている。計算上は同じサイズの像を得ることができるビームのアクセプタンスは四重極レンズの場合より一桁大きいとしているが、実際は加速器の制限もあり190pA/μm2の電流密度にとどまっている。四重極レンズのシステムでも150pA/μm2である。スリットには金メッキした銅を使い支持している銅の温度を変化させて調整している。
 MITでGrodzinsが開発したものはソレノイドの内径が3.2cm、長さが10cmでスリットからの距離は405cm、ターゲットまでの距離は16cmである。5MeVの陽子ビームに対してソレノイドの電流が23Aで65kGの軸上の磁場を発生できる。設計上は像倍率が0.04であり、1μmのサイズのスポットにできるはずであったが、ビームエネルギーの広がりのため色収差が原因で5μmとなっている。このシステムはレンズからターゲットまでの距離を大きくとって像倍率を0.2とすれば段階的な真空引きシステムをつける余裕ができ空気中の試料にビームを入射できる。Bartolとデラウエア大学の共同グループはMITと同様なシステムを開発し、2.5MeVの陽子を10μmの穴を通して大気中に出している。スキャンニングシステムとしては試料を動かす方法とビームを偏向させる方法がある。試料を動かすにはステッピングモーターがよく使われ1μmの精度が得られるが、動かす速度が速くないので試料がビームで熱せられるのが平均化できない。Maggioreはピエゾ電気的駆動によるインチワームというデバイスを開発した。これにより試料を20mmの範囲にわたり、20nmステップで2±0.5μmの精度に制御可能なことを示した。ビーム偏向法はレンズを通過後のビームを2組の電極板で偏向させるものであるが、高い電圧を必要とすることと電極を置くスペースがないことが問題である。
 ハーウエルでは偏向電極を最後の四重極磁石レンズの中に入れている。カールスルーエのHeckは最後の四重極レンズとターゲットの間に65mm以下の一対の電極を置き1kVを印可して250μmの偏向を得たがもう一対を近くに置くスペースがないので、レンズの前に2組の電極板を置いた。その構成図を図2に示す。


図2 Deflection system of the Karlsruhe microprobe(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., 181, 115 (1981). Cookson J.A: The Use of the PIXE Technique with Nuclear Microprobes, Figure 2 (Data source 1, pp.117), Copyright(1981), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

 この結果400μmの偏向に対して直径3μmのスポットサイズは特に増大することは見られなかった。メルボルンのLeggeたちは磁場による偏向を使用している。鉄心なしの鞍型コイルをレンズの前に置いている。三角波を出す電源で偏向用コイルを励磁して1mmのビームの偏向に対して10μmのビームスポットサイズが特に悪くなることはなかった。このほかデータ収集の技術、ターゲットの真空槽の真空度に関する技術、ビームによるターゲットの加熱効果について紹介されている。熱に関してはTalmonとThomasのアルミニウムでバッキングした細胞にビームを照射した場合の検討結果がある。電子ビームにくらべイオンの時は温度上昇が大きく、3MeVで0.1nAのビームの時10nmの厚さのアルミニウムがあればこの熱伝導のために助かって0.5度の上昇ですむが、アルミニウムがなく20nmの厚さのフォルムバール膜のバッキングだけだと7400度の上昇になる。これは極端な例であるが、熱に関してはさらに検討がいる。応用例としてはWright達のパラジウムを含むセラミックのビーズの分析と白金の基盤の上に塗ってあるウラニウムの層の厚さの一様性の測定が示されている。ウラニウム層の一様性の測定結果の一例が図3に示されている。


図3 The ratio of U Lβ to Pt Lβ X rays varies across the fission foil(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., 181, 115 (1981). Cookson J.A: The Use of the PIXE Technique with Nuclear Microprobes, Figure 6 (Data source 1, pp.123), Copyright(1981), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

マイクロプローブPIXEがますます使われるようになると期待している。

コメント    :
 1)マイクロプローブPIXEの有用性がよく示されている。
 2)データ処理と試料の熱処理についてはさらに工夫されることが望ましい。

原論文1 Data source 1:
The Use of the PIXE Technique with Nuclear Microprobes,
Cookson J.A,
Nuclear Physics Division, AERE, Harwell, Oxon., England,
Nucl. Instr. Meth., 181, 115 (1981).

参考資料1 Reference 1:
Cookson J.A,
Nucl. Instr. Meth., 165, 477 (1979).

参考資料2 Reference 2:
Maggiore C.J,
Los Alamos Progress Reports,LA-7872-PR,La-8069-PR.

参考資料3 Reference 3:
Heck D,
Karlsruhe Report, KfK 2379 (1979).

参考資料4 Reference 4:
Grodzins L, Horowitz P, Ryan,
J. Proc. Conf. Sci. Indust. Appl. Small Accs, Denton, eds., Duggan J.L, Morgan I.L,75, (IEEE, New York, 1976)

参考資料5 Reference 5:
Fou C-M, Rasmussen V.K, Swann C.P, Van Patter D.M,
IEEE Trans. Nucl. Sci., NS-26, 1378 (1979).

参考資料6 Reference 6:
Legge G.J.F, McKenzie C.D, Mazzolini A.P,
J. Microscopy, 117, 185 (1979).

参考資料7 Reference 7:
Talmon Y, Thomas E.L,
J. Microscopy, 111, 151 (1977).

参考資料8 Reference 8:
Wright C.J, McMillan J.W, Cookson J.A,
J. Chem. Soc. Chm. Comm., 968 (1979).

キーワード:PIXE、マイクロビーム,
PIXE, Microbeam
分類コード:040106, 040101

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