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作成: 1996/02/06 井上 信

データ番号   :040001
大阪大学におけるイオンマイクロビームプローブの開発
目的      :イオンマイクロビームプローブの開発
放射線の種別  :陽子,軽イオン
放射線源    :ディスクトロン(500kV)ほか
線量(率)   :1MeV-100pA
利用施設名   :大阪大学工学部極限材料研究センター
照射条件    :真空中
応用分野    :材料分析、材料構造解析、電気・電子、考古学

概要      :
 大阪大学工学部の500kVのディスクトロンで加速したイオンを、四重極磁石のダブレットで集束しミクロン程度のビームスポットを形成することに成功した。このビームで後方のラザフォード散乱(RBS)や粒子誘起X線(PIXE)による物質の分析を行なうと局所的な成分元素を調べることができる。またミクロな半導体製造プロセスにも応用できることを示した。

詳細説明    :
 物質の局所的な組成分析や、半導体プロセスにおけるマイクロエレクトロニクス技術に利用する目的で軽イオンビームをミクロンサイズにする技術を開発した。イオンビームを発生させるには、大阪大学工学部の500kVディスクトロンおよび小型の200kVのシステムを用いた。ディスクトロンによるマイクロビームライン開発については以下のようになっている。イオン源はデュオプラズマトロンでイオンの種類は水素およびヘリウムである。加速電圧は最大500kV、エネルギーの広がりは15度偏向角の分析磁石を経てスリットの所で0.02%、発散は水平垂直とも1.2mradと推定される。またビーム電流は1価イオンで10μA、2価のヘリウムで1μA(いずれも直径2mm以下)である。スリットは1μmから200μmまで可変である。このスリットからターゲットまでは約1900mmある。その間に、スリットから1634.5mm離れた所にレンズ系として長さ40mmの四重極電磁石が2個置いてあり、この2個の磁石の間隔は40mmである。2個目の磁石からターゲットまでは188mmとなっている。典型的な場合のターゲットでのビームのサイズはスリットのサイズの水平で3.5分の1、垂直で13.7分の1となる。
 概念図を図1に、詳しい計算と実験結果を図2に示す。なおターゲットでのビーム電流は100pA程度である。


図1 Schematic geometries of the microbeamline.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. and Meth. B37/38, 260(1989), Takai M, Matsuo T, Namba S, Inoue K, Ishibashi K, Kawata Y:Microbeam Design for Medium to High Energy Helium Ion Beams, Figure 3 (Data source 1, pp.261), Copyright(1989), with permission from Elsevier Science,Oxford, England.)



図2 Experimental and simulated beam spot size as a function of objective slit size.(原論文2より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. and Meth. B85, 664 (1994), Takai M, Nuclear Microprobe Development and Application to Microelectronics, Figure 4 (Data source 2, pp.668), Copyright(1994), with permission from Elsevier Science,Oxford, England.)

ビームのサイズを決める最も重要な点はスリットの先端でのビームの散乱とレンズの収差を小さくすることである。スリットにはくさび型ではなく円筒断面をもったモリブデンを用いその表面あらさは150nmである。このスリットの直前に、スリットに余計なビームを当てて熱膨張をしないように、ステンレスの保護板を取り付けた。レンズ系の四重極電磁石の磁極の先端は双曲線近似し37度の角度にすることにより磁場の理想値からのずれを31.5度のものより2桁小さくできた。先端の表面あらさは10μmで、ダブレット相互の角度のずれは0.001度以下である。結果として図2のように1μm以下のビームサイズが得られている。なお1μm以下の所でシミュレーションにくらべ実際の値が飽和したようになっているのは、上記のようにレンズ系の収差のためと考えられる。
 また簡単なマイクロビーム形成装置として液体金属イオン源(LIMIS)と短い加速管のシステムも紹介されている。これはリチウムとベリリウムのイオンのLIMISと静電的なアインツエルレンズ、EXBフィルターおよび半導体検出器と静電プリズムによる分析系からなる装置である。
 その概念的な構成を図3に示す。


図3 A compact microprobe forming system with a liquid metal ion source.(原論文2より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. and Meth. B85, 664(1994), Takai M: Nuclear Microprobe Development and Application to Microelectronics, Figure 6 (Data source 2, pp.668), Copyright(1994), with permission from Elsevier Science, Oxford,England.)

予備的実験ではベリリウムの2価のイオン200keVの場合に100nm以下の直径のビームサイズが得られている。電流は10pAないし100pAである。
 このようなマイクロビームをマイクロエレクトロニクスに応用するいくつかの例が示されている。主としてマイクロビームをスキャンして物質に当て、ラザフォード後方散乱による物質中の元素の分布を断層測定することに利用するものである。例えば10μmの金線の多層配線の診断、絶縁物上の半導体構造の観察、コバルトシリサイド層の微量コバルトの分布パターンの観察、マスクなしの金のイオン注入、半導体メモリーのビットの状態の判定などである。

コメント    :
 1)実績に基づく、マイクロビームの形成方法について、技術と実験結果がよく示されている。
 2)2次以上のレンズの収差については触れられてない。ビームサイズが非常に小さいところでのシミュレーションと実験の不一致については解明されていない。実用上問題はなさそうであるが、必要であれば四重極だけでなく六重極、八重極など高次の磁石を導入する検討もしてよいであろう。 

原論文1 Data source 1:
Microbeam Design for Medium to High Energy Helium Ion Beams,
Takai M, Matsuo T, Namba S, Inoue K, Ishibashi K, Kawata Y,
Faculty of Engineering Science and Research Center for Extreme Materials, Osaka University, Toyonaka, Osaka 560, Japan, Electronics Technology Center, Kobe Steel, Ltd., Kobe, Hyogo 673-02, Japan,
Nucl. Instr. and Meth., B37/38, 260(1989).

原論文2 Data source 2:
Nuclear Microprobe Development and Application to Microelectronics,
Takai M,
Faculty of Engineering Science and Research Center for Extreme Materials, Osaka University, Toyonaka, Osaka 560, Japan,
Nucl. Instr. and Meth., B85, 664(1994).

キーワード:マイクロプローブ、マイクロエレクトロニクス、
microbeam,microelectronics,RBS
分類コード:040106, 040101

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