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作成: 2010/12/25 対馬 義人

データ番号   :030307
超音波診断の最近の進歩
目的      :超音波診断の最近の進歩
利用施設名   :一般医療機関
応用分野    :医療、画像診断

概要      :
昨今の超音波診断技術の進歩には目覚ましいものがあり、ここでは超音波造影剤使用の一般化、および弾性イメージングの実用化について述べる。

詳細説明    :
・超音波造影剤
 CTあるいはMRIといった断層撮像法には、ヨード造影剤やガドリニウム造影剤に代表される造影剤が一般的に利用されてきた。これら造影剤は、疾患の描出やその質的診断のために極めて有用かつ不可欠なものであるが、いずれも静注にて用いられ、その排泄経路は腎臓である。したがって腎機能障害のある患者には一般に禁忌である。一方、超音波造影剤も静注にて用いられるものであるが、その本体はマイクロバブル、すなわちガスであり、排泄経路は肺である。したがって腎機能障害の有無にかかわらず使用が可能であり、またヨード造影剤等にてしばしば経験されるアナフィラキシー様反応などの重篤な副反応もほぼ経験されない。
 従来利用されていた超音波造影剤であるレボビスト(Levovist)は、シェルのない空気の微小気泡であり、共振もしくは共鳴現象にて生ずる2次高調波を取り出すことにより、血流を画像化するものである。しかし超音波の照射によりバブルは崩壊してしまうので、連続的に画像化することは容易でない。最近一般に利用されるようになったソナゾイド(Sonazoid)はシェルをもち、照射する超音波の強さをやや低めに設定することにより、超音波の照射によっても崩壊することはなく2次高調波を取り出すことが可能となった。したがって血流情報を連続的に画像化することができるようになったわけである。
 またソナゾイドはクッパー細胞(Kupffer cells)に異物として取り込まれる(貪食される)性質があり、MRIにて用いられるsuperparamagnetic iron oxide (SPIO;超常磁性酸化鉄)造影剤と同様の性質を有する。ソナゾイドは血管外に出ることはないので、早期相では血管プール造影剤(vascular imaging)として、後期相ではKupffer imagingとして利用が可能であるということになる。このような性質は、肝臓腫瘍の存在診断のみならず質的診断、すなわち腫瘍の血流情報およびクッパー細胞の有無を判定する方法として有用であることを示唆している。現在では原発性および転移性肝腫瘍の診断のために広く利用されている(図1,2)。


図1 肝細胞癌の造影超音波像(動脈相)。腫瘍(黄矢印)が強く造影されている。多血性の腫瘍であることがわかる。



図2 肝細胞癌の造影超音波像(クッパー細胞相)。周囲肝組織が造影されているのに対し、腫瘍(黄矢印)は造影欠損として描出され、クッパー細胞が欠如していることを示している。

・弾性イメージング
 悪性腫瘍は一般に増殖とともにその硬さを増す。従来は触診によって体表からこの硬さを知覚していたわけであるが、当然その客観性は低い。弾性イメージングとは従来の超音波検査法では見ることのできなかった組織の硬さを画像化する技術である。組織を押したときに軟らかい部分はよく変形し、硬い部分はあまり変形しない。加圧前と加圧後の超音波反射エコーから各深度での変位量を求め、変位の大きいところは軟らかく、少ないところは硬いと、その変位の程度を画像化し、組織の硬さとして表示するのである。
 この技術は、体表臓器、すなわち乳腺腫瘍や甲状腺腫瘍の診断への応用が試みられており、腫瘍の描出のみならず、その良悪性の診断に有用であるとの報告もある。しかし、機器メーカー毎に撮像方法や表示方法が異なり、その信頼性、有用性を明確に判断することは現時点では困難と言わざるを得ない。また、肝臓などの比較的深部に存在する臓器については、その画像化はいまだ困難である。あくまで定性的な方法であり、定量化は困難である。
・virtual touch tissue quantification (VTTQ)法
肝臓などの硬さを定量的に測定する新たな方法として実用化されたものである。VTTQ法では、超音波Bモード画面上でROIを設定し、収束超音波パルスを照射する。この時発生した音響放射圧(acoustic radiation force impulse;ARFI)によって組織に歪みが発生し、復位する際に剪断弾性波が発生、周囲に伝搬する。この伝搬速度は、堅い組織ほど早くなるため、肝の線維化等を定量的に測定することができる。この方法は定量化が可能であり、現在主に肝硬変による肝線維化の程度を評価する方法として実用化されている(図3)。正常肝では1.0m/s前後の値をとるが、肝硬変ではこの倍程度となる。しかし設定するROIにおいてのみ測定が可能であり、画像化することはできない。将来は肝臓のみならず腹部の各種腫瘍の硬さを測定することにより、その質的診断に応用が可能と考えられる。


図3 VTTQ法による肝臓右葉の硬度測定。Bモードにて測定部位を設定し、この部分に収束超音波パルスを照射し、発生した剪断弾性波の伝搬速度を測定する。



コメント    :
 超音波検査は聴診器がわりなどと言われ、簡便に用いることのできる検査方法とされている。確かに全く非侵襲的な検査方法であり、使用方法も一見容易である。しかしながら、質の高い検査を実施するためには、撮像原理についての十分な知識と臨床における訓練と経験が必要である。CTあるいはMRIなどの他の画像検査方法と比較しても難易度の高い検査方法なのである。
昨今の技術進歩はさらに十分な知識の習得を要求するものとなっており、特に造影超音波検査においては、その原理や特性、撮像法のコツや限界などをよく理解したうえで、多くの経験を積む必要がある。もはや聴診器がわりなどと言うべきものではないという点は特に強調しておきたい。

原論文1 Data source 1:
Usefulness of Sonazoid contrast-enhanced ultrasonography for hepatocellular carcinoma: comparison with pathological diagnosis and superparamagnetic iron oxide magnetic resonance images.
Korenaga K,Korenaga M,Furukawa M,Yamasaki T,Sakaida I.
Yamaguchi University.
J Gastroenterol 44:733-741 (2009)

原論文2 Data source 2:
Ultrasound imaging of liver metastases in the delayed parenchymal phase following administration of Sonazoid using a destructive mode technique(agent detection imaging).
Edey AJ,Ryan SM,Beese RC,Gordon P,Sidhu PS.
King's College Hospital,London,UK.
Clin Radiol 63:1112-1120 (2008)


原論文3 Data source 3:
D'Onofrio M,Gallotti A,Mucelli RP.
Thissue quantification with acoustic radiation force impulse imaging:measurement repeatability and normal values in the healthy liver.
University of Verona,Verona,Italy.
AJR 195:132-136 (2010)

原論文4 Data source 4:
Friedrich-Rust M,Wunder K,Kriener S,Sotoudeh F,Richter S,Bojunga J,Herrmann E,Poynard T,Dietrich CF,Vermehren J,Zeuzem S,Sarrazin C.
Liver fibrosis in viral hepatitis:noninvasive assessment with acoustic radiation force impulse imaging versus transient elastography.
J.W.Goethe University Hospital,Frankfurt am Main,Germany,et al.


キーワード:超音波検査、造影超音波、超音波造影剤、レボビスト、ソナゾイド、微小気泡、造影ハーモニック法、弾性イメージング
ultrasonography,contrast-enhanced ultrasonography,ultrasound contrast agent,Levovist,Sonazoid,contrast harmonic imaging,Virtual touch tissue quantification(VTTQ),acoustic radiation force impulse(ARFI)imaging
分類コード:030107,030401

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