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作成: 2010/11/15 古平 毅

データ番号   :030305
トモセラピーによる高精度放射線治療
目的      :強度変調放射線治療および定位放射線治療の医療技術実施
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :6MV超高圧加速器(治療)、3.5MV超高圧加速器(撮影)
線量(率)   :850cGy/min
利用施設名   :医療機関
応用分野    :医療

概要      :
 トモセラピーはヘリカル操作式のスライスビームを用いた外部照射治療専用機である。また同じシステムを用いコンピュータ断層画像の撮影が可能で画像誘導放射線治療への応用が可能である。強度変調放射線治療と呼ばれる高精度放射線治療の計画、物理的検証、治療実施の複雑な工程が本システムでは一連の作業で実施可能であり治療の効率化を可能にしている。

詳細説明    :
 強度変調放射線治療は物理工学の進歩により1990年頃より臨床応用された外部照射技術である(参考資料1.2)。従来の治療計画の工程では治療標的体積にビーム形状を調整し複数のビームを三次元的に設定し、かつ正常臓器の照射線量を軽減するように計画が行われるが、この方法はforward planningと呼ばれる。一方強度変調放射線治療はコンピュータ断層画像上の標的体積と危険臓器の三次元画像情報から算出した線量容積解析から治療計画を最適化するためInversed planningと呼ばれる。この方法はコンピュータによりビームレットと呼ばれる多数の微小単位のビームを組み合わせるため、標的体積の線量分布の均一性が高くかつ近接する正常臓器の線量を大幅に低減できるため、放射線治療の有効性・安全性が大幅に改善される(図1)。


図1 強度変調放射線治療の原理。標的臓器と正常臓器に対して、それぞれ異なる線量で照射を行う。

 本邦において2000年頃より数施設で臨床応用が開始され、先進医療の過程を経て2008年より前立腺、頭頸部、脳腫瘍の3疾患で、2010年からは限局性固形がんに保険適応された。日本高精度外部照射研究会の調査によると2003年には10施設で169件、2005年は19施設 427件、2007年は43施設1347件の治療実績が確認され、近年急速に日常臨床に浸透してきている。
 一方で強度変調放射線治療は治療計画、物理検証、治療手順が大幅に複雑化するため、準備期間や毎回の治療時間も長くなることで負担増加が問題となっている。トモセラピーはスライスビームを用いヘリカルCTと同様の方式で照射を行うため、頭尾方向に1.6mまでの広範な照射可能域を有し治療計画の自由度が高い(図2、原論文1)。


図2 トモセラピーのシステムの写真

 また51方向からの多方向のビーム入射と二値化多分割コリメータ(binary multileaf collimator)と呼ばれる強度変調システムにより近接するビームレットの線量勾配を短時間に急峻に調整する構造を有し、複雑な強度変調放射線治療では従来の方法に比較して線量分布の優位性があると報告されている(原論文2)。また物理検証の手順も装置の標準仕様のソフトを用いシステム化された手順により省力化が可能である。自験例では、検証結果のずれによる再計画もほとんどなく運用しており、前立腺癌等の単純な治療でCT撮影後3〜4日、頭頸部癌等のやや複雑な治療で7〜10日程度の治療開始を達成している。
 従来の強度変調放射線治療は通常5〜9門程度の強度変調ビームを用い、治療開始から終了まで一連で10数分〜20分程度必要だが、トモセラピーは連続する超多門ビーム照射が中断なく連続して行われるためビーム照射時間は前立腺癌で2〜3分、頭頸部癌で5〜8分程度で治療している。治療効率化は運用上の利点だけでなく、照射時間の延長に伴う位置移動による精度低下や生物学的な治療効果損失を回避することができるため、臨床上重要なポイントとなる。
 当院では午前9時から午後5時の時間枠運用で、毎日20〜25名程度の治療を行っており治療効率は非常に良好だが、これはトモセラピーの特徴を反映した結果と考えられる。また強度変調放射線治療以外も小病変の定位放射線治療もリニアック使用時より短時間で実施可能で、臨床上多彩な治療を実現できる。
 本治療器のもうひとつの特徴として内蔵された検出器により治療用超高圧X線でコンピュータ断層撮影を可能とし、高精度の画像誘導放射線治療を実現している点がある。他装置でコンピュータ断層撮影を用いる場合は同室設置型の装置を用いるため、装置間の位置精度誤差があり、また照合および治療との間にセットアップの時間差が生じる。またコーンビームCTは治療ガントリーと同軸で撮影は簡便だが、辺縁の位置情報は不正確となり、空気や金属による画質劣化が大きい欠点がある(図3)。


図3 頭頸部CT像。トモセラピー装置で得られるコーンビームCT像(MVCT)は通常のCTで得られる像(kVCT)に比べ、歯間によるアーチファクトが少ないので位置決めに適している。

 本装置の超高圧コンピュータ断層撮影は同軸で短時間に撮影でき空間位置情報が正確であり前述の画質劣化は生じないという特長がある。このため効率よく高精度で正確な照合を可能としている。

コメント    :
 現在X線を用いた強度変調放射線治療を行う装置は多彩だが、治療時間の短い新世代回転式の強度変調放射線治療が注目されており、トモセラピーはこの先駆的な装置である。また画像誘導放射線治療も超高圧コンピュータ断層撮影で、高解像度の画像取得を効率よく行える。多用途な高精度放射線治療専用機であり、かつ効率化された手順で多くの治療件数が達成可能な点で極めて有用である。

原論文1 Data source 1:
Tomotherapy: a new concept for the delivery of dynamic conformal radiotherapy.
Mackie, T. R.Holmes, T.Swerdloff, S.Reckwerdt, P.Deasy, J. O.Yang, J.Paliwal, B. Kinsella, T
Department of Medical Physics and Human Oncology, University of Wisconsin, Madison.
Med Phys 20:1709-19 (1993)

原論文2 Data source 2:
Comparing step-and-shoot IMRT with dynamic helical tomotherapy IMRT plans for head-and-neck cancer.
van Vulpen, M.Field, C.Raaijmakers, C. P.Parliament, M. B.Terhaard, C. H.MacKenzie, M. A.Scrimger, R.Lagendijk, J. J.Fallone, B. G.
Department of Radiation Oncology, University Medical Centre Utrecht, Utrecht, The Netherlands.
Int J Radiat Oncol Biol Phys 62:1535-9 (2005)

参考資料1 Reference 1:
3-D conformal therapy using beam intensity modulation.
Verhey LJ
Department of Radiation Oncology, University of California, San Francisco, USA.
Front Radiat Ther Oncol. 29:139-55 (1996).

参考資料2 Reference 2:
Optimization of stationary and mocing bea, radiation therapy techniques
Brahme A
Department of Radiation Physics, Karolinska Institute, Stockholm, Sweden.
Radiother Oncol 12:129-140(1988)

キーワード:強度変調放射線治療、画像誘導放射線治療、ヘリカルトモセラピー、二値化多分割コリメータ、超高圧コンピュータ断層撮影、適応放射線治療、外部照射、強度変調回転照射
分類コード:030201,030402,030703

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