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作成: 2008/03/01 遠山 尚紀

データ番号   :030299
放射線治療装置の受入れ試験とコミッショニング
目的      :放射線治療装置の受入れ試験とコミッショニングについて重要性とについて概説する。
放射線の種別  :エックス線、電子線
放射線源    :直線加速器
応用分野    :医学・治療

概要      :
 放射線治療の過照射事故とその原因について触れ、放射線治療装置の受入れ試験とコミッショニングの重要性について解説し、治療計画装置のコミッショニングについて実例を挙げ説明を加える。

詳細説明    :
1.放射線治療の過照射事故とその原因
 放射線治療は照射装置・照射方法によっていくつかに分類されるが、今回は、外部放射線治療装置・外部照射を対象とする。この外照射を実施するには、診療用高エネルギー放射線発生装置(以下「放射線発生装置」という)、放射線治療計画装置(以下「治療計画装置」という)、CTシミュレータ、X線シミュレータなどで構成される。
 以前は、X線シミュレータで撮影したX線写真を用いた2次元治療計画が一般的であったが、コンピュータ・IT技術の進歩により、CTシミュレータ・CT画像を用いた3次元治療計画が普及し、また、定位放射線照射、強度変調放射線治療が可能になった。また、従来では、リニアックグラフィを用いた低コントラストのフィルム・画像を用いての位置照合が一般的であったが、現在では、治療寝台上でX線による位置決め写真撮影、または、位置決めCT撮影が放射線発生装置と一体となったシステムで可能となった。この画像を基に日々の治療位置精度の向上を目指した画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy:IGRT)、そして、定位放射線照射、強度変調放射線治療に代表される高精度放射線治療について、新しい放射線発生装置を購入すれば、すぐにでも実施可能な時代となった。その一方では、放射線治療装置・治療計画装置は複雑化・ブラックボックス化がより一層進んでいる。近年報告された放射線過照射事故の原因を見ると、測定機器操作・測定方法の未習熟、治療計画装置の理解不足・データ登録ミスなどヒューマンエラーによるものが少なくない。これらの多くは、装置導入時の受入れ試験と、その後に実施されるコミッショニングで発見可能な原因がいくつも存在する。近年の放射線治療装置の導入準備期間は以前と比較し時間を要することが明確であり、高精度放射線治療を実施するにはさらなる準備期間が必要である。また、専門知識を有する人材(医学物理士・専門技師など)の育成・確保が重要である。
 
2.受入れ試験
 受入れ試験は、業者が主体で行なわれる装置の性能と安全性の確認をする試験である。契約との相違がないかの確認をすることも含まれる。受入れ試験時は、装置の操作を習得する上で重要な期間となる。また、ここで行なわれた試験結果は、今後の装置の基本データ(今後の品質管理を行っていく上での基本となるデータ)となるため、重要である。また、受入れ試験で実施される項目は、業者が指定する最低限の項目・測定手法であって、今後の装置の品質管理(QA/QC)を実施する上で十分な項目・手法でない場合がある。よって、追加が必要であると判断される項目については、受渡し後ユーザの責任によって実施する必要がある。受入れ試験・取扱い説明後、受渡しが行なわれる。受渡しが実施された時から装置の責任主体が、業者(ベンダー)からユーザに移行されることを十分にユーザは理解しなければならない。
 
3.線量測定・ビームデータモデリング
 放射線発生装置は、装置個々でビーム特性が異なり、ユーザの責任において線量測定を実施する必要がある。ユーザによってはこの測定を業者に委託する場合も存在するが、測定したデータの最終的な責任はユーザにあり、測定されたデータの妥当性を判別するのもまたユーザである。ビームモデリングとは、放射線発生装置個々のビーム特性や、装置の幾何学情報を治療計画装置にモデル化・反映するための作業である。ここでは、多くの手入力が存在し、ヒューマンエラーのリスクが高い作業である。治療計画装置によっては、実測と計算値を自動的に一致させる物もあるが、データを業者に送付し、業者によって、登録・モデリングがなされる場合も存在し、治療計画装置をブラックボックス化する一因ともなっている。米国では、このビームモデリングの作業は、一般的に「医学物理士」の業務であり、また、責任に関しても、「医学物理士」が持っている。放射線治療を実施するための線量測定(治療計画装置に入力するデータも含む)や、ビームモデリングに関しては、コミッショニングの一部である。
 
4.コミッショニング
 コミッショニングとは、「受入れ試験に引き続いて、ビームデータ等装置の臨床利用に必要なデータ取得、計画装置への入力、登録データ確認などを行う一連の作業行程」など色々な意味で説明される。つまり、コミッショニングとは、実際の臨床使用を想定して、装置が持つ機能の動作及び精度を再確認する行為である。コミッショニングは、装置の問題点・使用上の注意点を浮き彫りにし、不適切な臨床使用を防ぐために重要な行為である。また、装置導入時に全ての臨床使用を想定するのは限界が存在し、コミッショニングには終わりは無く、臨床開始した後も特殊な照射などの場合、適宜柔軟に対応してコミッションニングを実施することが肝要である。
 
5.放射線治療計画システム(Radiation Treatment Planning System:RTPS)のコミッショニングの実際
 国内に起きた過照射事故の多くは、RTPSに関係するものが多く、RTPSのコミッショニングは重要である。RTPSのコミッショニングの項目は線量に関与しないコミッショニングと線量に関与するコミッショニングの2つに大きく分けられる。
 
(1)線量に関与しないコミッショニング
 直接線量に関与しない項目のコミッショニングのことをいう。項目として、ハードウェア・ソフトウェアの確認から始まり、CT画像の取得、CT画像表示機能、輪郭作成、自動マージン設定機能、相対電子密度の割り当て、ボーラス作成、マシンパラメータの設定、再構成画像表示など多岐にわたる。
(2)線量に関与するコミッショニング
 RTPSの目的は、患者体内の線量分布をシミュレーションすることである。つまり、RTPSが算出する線量(放射線の量)と線量分布(放射線の形状)が実測と一致(実際は許容以内であるか)を確認することは、RTPSを利用する上で必須である。この線量と線量分布の確認に相当するのが、線量に関与するコミッショニングである。測定器としては、電離箱線量計、フィルム、多次元検出器などが用いられる。項目としては、単純条件での検証(Open照射野、Wedge照射野、正方形照射野、矩形照射野など)、臨床条件での検証(Long SSD照射野、斜入照射野、非対称照射野、不整形照射野、組織欠損の照射野、不均質領域を含んだ照射野、それらを組み合わせた照射野)などである(図1)。


図1 線量に関与するコミッショニングの照射パターン例。臨床で使用される照射条件を想定して、コミッショニングを実施することが大切である。

 RTPSには複数の線量計算アルゴリズムを搭載した装置が多く、どのアルゴリズムを使用すべきであるか、どのように使い分けるかなども、このコミッショニングの結果から得られる。コミッショニングの1例として非物理ウェッジの絶対線量のコミッショニング結果を図2に示す。この結果は、非物理ウェッジ30度と45度で誤差に相違があり、非物理ウェッジ45度を使用する場合、誤差が大きく使用する上で注意が必要であった例である。また、図3は、各種照射条件での線量計算精度の評価結果例である。このようにRTPSの計算精度を示し、不適切な臨床使用を避けるよう医師にデータを示すのは、医学物理士の重要な業務である。この他に、定位放射線治療、強度変調放射線治療のためのコミッショニングはまた別に行なう必要がある。


図2 絶対線量のコミッショニング結果の例。この例では非物理ウェッジ(EDW)においてエネルギーによって計算精度に違いが生じた例である。



図3 各種照射条件での線量計算精度の評価結果例。各施設で計算精度を確認して頂き、臨床使用する時に使い分けを考慮して頂きたい。



コメント    :
 最新の放射線治療装置一式を導入すれば、定位放射線治療、強度変調放射線治療、画像誘導放射線治療などで代表される高精度放射線治療が実施できると勘違いしてはならない。装置の性能としては可能かもしれないが、それを使用するのは人である。どんなに良い車に乗っていても、交通事故が起こる時は運転手(人)の責任である。自動車教習所で練習を受け免許を取得し、運転を始めたら車の定期的なユーザーメンテナンス・車検の実施、運転免許の更新を行ない、安全な運転が求められる。放射線治療も同様で、受入れ試験、コミッショニング、そしてユーザによる品質管理は重要である。

原論文1 Data source 1:
Quality assurance of treatment planning systems. Practical examples for non-IMRT photon beams
B Mijnheer, A Olszewska A, C Fiorino, et.al
ESTRO Booklet No.7

原論文2 Data source 2:
Quality assurance for clinical radiotherapy treatment planning. AAPM Radiation Task Group 53
B Fraass, K Doppke, M Hunt et.al
Med.Phys.25,pp1773-1829,1998

原論文3 Data source 3:
X線治療計画システムの関するQAガイドライン
日本医学物理学会 タスクグループ01
医学物理2008 Vol.27 Sup.6

参考資料1 Reference 1:
高エネルギー放射線治療システム装置受渡ガイドライン
社団法人日本画像医療システム工業会

参考資料2 Reference 2:
放射線治療計画のための品質保証 米国医学物理学会放射線治療委員会タスクグループ53 報告 日本語訳
池田恢 、鬼塚昌彦 、河野良介ほか
厚生労働省科学研究費補助金「放射線治療の技術評価と品質管理による予後改善のための研究」、2004

キーワード:放射線治療装置、放射線治療計画装置、受入れ試験、コミッショニング
Radiation therapy machine, radiation treatment planning system, acceptance test, commissioning
分類コード:030201

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