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作成: 2008/01/29 山口 慶一郎

データ番号   :030297
息どめおよび呼吸同期法を用いたPET-CTにおける呼吸運動の影響の低減
目的      :PET-CTにおける呼吸運動の影響の排除
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,陽電子
放射線源    :X線管、18F

概要      :
 PET-CTではCTとPETを用いて撮像を行った後、吸収補正を行い、さらにフュージョン画像として表示する。この二種類の測定機器は測定時間が大きく異なる為に、1)胸部・上腹部でFusion画像にズレが生じ、2)吸収補正の誤りが発生する。このようなズレや誤りを除くために、息止め撮像法や呼吸同期法が考案された。これらの手法により、胸部・上腹部におけるPET-CTの精度が向上した。
 

詳細説明    :
 測定という意味では、人体は雑音の固まりである。呼吸や心拍などの動きが具体的雑音となる。生体でのこのような動きが、実際のPET画像にどのような影響をもたらすかをファントムを用いて調べた。図1は放射能を有する球形ファントムを静止状態と上下に4秒に一回ずつ2cm動かして撮像したPET画像である。


図1 同濃度のポジトロン核種を封入した球体ファントム。撮像時間は4分間で左側は静止させたままで、右側は体軸方向に2cmずつ4秒おきに移動させながら撮像されている。 左側の画像ではファントムの上下に偽像が出現し、またファントムの濃度も右側に比較して低い。

PETの撮像には通常2-3分を要するため、静止した場合に球形を示すファントムも動かした場合には円柱状を呈する。PETでは同一の放射能が存在しても、その存在する容積に応じて見かけのカウントが減少するという部分容積効果が認められる(カウントリカバリー)。この部分容積効果は図2に示すように動きによって影響を受け、同一の放射能を有していても、大きさによって動きのある部位と動きのない部位では異なったカウントを呈する。


図2 ファントム径とその見かけ上の放射能との関係。ファントム径が減少するに従って同一の放射能であるにもかかわらず見かけの放射能は減少傾向を示す。上下の移動が入った場合には、この減少傾向が著しい。一方20秒の撮像では4分間の撮像とほぼ同じ減少傾向を示す。

 さらにはPET-CTではPETとCTの撮像時間の差(PETでは分単位、CTでは秒単位)により、対象とする腫瘍などの位置が異なる。このことがCTを用いてPETの吸収補正をおこなった場合に、PETの吸収補正が不正確になる。これらの欠点を克服する方法として息どめ撮像法や呼吸同期撮像法が開発された。
 
深吸気息どめ撮像法
 
 息どめでPET-CTを行った場合、呼吸に伴う動きのアーチファクトが軽減され、SUVが上昇し、PETとCTのフュージョンによるずれが軽減されるとNehmeh.らが報告した(参考資料1)。図3に具体的な症例を示す。この症例では前回行われたPET検査では病的集積とされていない。今回は息どめ画像で病的集積と認定され、手術の結果肺がんであることが確認された。


図3 通常のPET画像(左側)と20秒息どめ画像(右側)。左側では右下肺野のFDGの集積がはっきりしない。一方右側では明瞭なFDG集積を示している。下段左側は通常のPET画像を自由呼吸でのCT画像で、左は20秒での息どめのPET画像とCT画像をフュージョンさせた。左側の腫瘍に対する集積が右側に比較して大幅に減少している。右側と左側では腫瘍の存在する部位がずれており、腫瘍が腹側にずれていることにも注目して欲しい。呼吸による移動の例である。

ここで問題になるのは短い収集時間で十分に定量的なPET画像が得られるであろうか?ということである。このことについてはまだ十分な文献的考察は行われていない。このため、数回の息どめを加算することにより、S/Nを上げ精度を増すという方法も試みられている。
このような息どめが胸部疾患全例について必要かということについて検討してみると、腫瘍径が3cmを超える腫瘍に関しては腫瘍のFDG集積は息どめと自由呼吸で差がない。


図4 横軸に息どめなしの画像と息どめ画像でのSUVの増減を、縦軸に腫瘍の大きさを示す。腫瘍径が3cm以下では、息どめ画像と息どめなしの画像でのSUVの変化率が大きいことがわかる。

さらに腫瘍の存在部位によっても息どめと自由呼吸で集積の差が異なり、下肺野および縦隔に存在する場合に有意に異なる。


図5 3cm以下の病変に関して息どめ画像と息どめなし画像でのSUVの変化率を部位別に検討した。肺外の骨転移巣ではほとんど差が認められないが、下肺野病変と縦隔リンパ節に関しては有意に差が認められる。呼吸による移動が下肺野や縦隔で大きいことに由来すると思われる。

このことから、3cm以下の腫瘍性病変でその存在位置が、下肺野や縦隔周囲に存在する場合に必要であろうと考えられる。
 
呼吸同期法
 
 一方、呼吸同期法は定位放射線治療の分野ですでに行われており、このことからPET-CTについて応用が始まった。実際の呼吸同期の方法としては図の様に、1) 呼吸同期装置を寝台に固定、2) センサーブロックを患者腹部に固定、3) 患者に呼吸法の説明/練習、4) 呼吸をモニタリングして、トリガーポイントを設定するという手順が必要である(参考資料2)。


図6 呼吸同期装置(左)と呼吸ゲート用のセンサー(右)。呼吸ゲート用センサーを患者の腹部に装着する。10分単位の測定中規則正しい呼吸ができるかが、この方法の成否を分ける。

呼吸同期法で問題になるのは検査時間の延長である。たとえば欧米で一般的に行われている10分割で収集を行えば(参考資料3,4)分割しない場合に比較して10倍の時間をかけなくてはそれぞれのフレームでS/Nは等しくならない。1ポジション3分としても30分程度の時間が必要となり、トータルの検査時間は全身撮像+同期撮像で1時間を超える。このことは、PET検査費用が限られている日本においては現実的な方法とはいえない。加えて被曝の問題は深刻である。位置ずれの少ないPET-CT画像を作成する為には、CT画像も呼吸同期を行った撮像を行わなければならず、その被爆量は数十倍にも及ぶと考えられ(参考資料5)、近年問題になっているCTによる医療被曝の増大を考えると、治療を前提としたPET撮像でなくては好ましい方法とは思われない。

コメント    :
 現在日本においてはPET装置は使われることが少なくなり、PET-CT装置に置き換わってきた。このため、異なったモダリティーを用いて行うアーチファクトの問題が生じ、それを解決する方法として、息どめ撮像法および呼吸同期撮像法が行われるようになってきた。お互いのメリット、デメリットを考えると診断目的であるならば前者の方法が、PET-CTを用いた治療計画を行うなら後者の方法が実際的な方法だと思われる。今後、実際の医療現場ではこれらの使い分けが行われていくと思われる。

原論文1 Data source 1:
Comparison of SUV between breath holding & static FDG-PET image in the pulmonary area
Yamaguchi K.
Department of Radiology, Sendai Kousei Hospital
J Nucl Med. 2007 ; abstract 1534

参考資料1 Reference 1:
Deep-Inspiration Breath-Hold PET/CT of the Thorax
Nehmeh SA et al
Department of Medical Physics, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center,
J Nucl Med. 2007 ;48(1):22-26.

参考資料2 Reference 2:
Quantitation of respiratory motion during 4D-PET/CT acquisition.
Nehmeh SA, et al
Department of Medical Physics, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center,
Med Phys. 2004 ;31(6):1333-1338.

参考資料3 Reference 3:
Effect of Respiratory Gating on Quantifying PET Images of Lung Cancer
Nehmeh SA, et al
Department of Medical Physics, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center,
J Nucl Med 2002; 43:876-881

参考資料4 Reference 4:
Respiratory Gating for 3-Dimensional PET of the Thorax: Feasibility and Initial Results.
Boucher L, et al
Metabolic and Functional Imaging Center, Clinical Research Center, Centre Hospitalier Universitaire de Sherbrooke/H?pital Fleurimont,
J Nucl Med 2004; 45:214-219

参考資料5 Reference 5:
Impact of Motion in PET/CT Lung SUVS.
Erdi et al
Department of Medical Physics, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center,
J Nucl Med 2004; 45:1287-1292

キーワード:陽電子コンピューター断層法、X線コンピューター断層法、息どめ法、呼吸同期法、フルオロデオキシグルコース、胸部、呼吸センサー、カウントリカバリー
PET, X-CT, Breath Holding, Respiratory Gating, FDG, chest, respiratory sensor, count recovery
分類コード:030301

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