放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2008/01/10 村上 康二

データ番号   :030295
中皮腫のPET診断
目的      :FDG-PETによる中皮腫の画像診断
放射線の種別  :ガンマ線,陽電子
放射線源    :18F
利用施設名   :全国のPETセンター
応用分野    :医学、診断

概要      :
 近年アスベスト曝露による中皮腫の発生が社会的に注目されており、およそ70%の中皮腫にアスベスト暴露の既往があると言われている。中皮腫は予後不良の疾患であるが、早期発見・早期治療により手術が可能であり、予後の改善が期待される。画像診断ではCTにおいて胸膜の肥厚を呈するが、これは他の多くの炎症性疾患や腫瘍性疾患においても類似の所見を呈するために特異的ではなく、CT以外の補助的診断法の確立が望まれる。
 ところで、PETが腫瘍における新しい画像診断法として近年急速に注目されている。中皮腫の診断においてもCTの補助的診断法としての役割が期待されており、以下現状について概説する。

詳細説明    :
 PETの有用性は検査の目的によって異なってくる場合が多い。本稿でも検査の目的別に述べるが、中皮腫はまれな疾患であり、報告は決して多くない。したがって有用性を全て網羅するだけの十分な資料がないものの、以下私見を交えつつ概説する。
 
1)スクリーニングにおける有用性
 スクリーニングの要件として原発腫瘍の低い偽陰性率と、高い真陽性率、すなわち高い感度が要求される。しかしながらFDG-PETは空間分解能の点で限界があり、小病変の早期診断は困難と思われる。つまり小病変については偽陰性となるため、スクリーニングには適格とはいいがたい。
 中皮腫は多くの場合FDGが良好に集積する。しかしながら最新のPET装置でも半値幅(FWHM: CTの空間分解能に相当)は4−6mm程度であり、これはおよそ直径20mmよりも小さい腫瘤は実際の集積よりも低い集積として描出されることを意味する(CTにおける部分容積効果に相当)。さらに胸膜病変は呼吸による生理的な移動や心拍動の影響があるために、一層集積が淡く見える場合がある。栗林ら(参考資料1)は中皮腫16例を検討し、5mm以上の胸膜肥厚は全例FDGの集積があったと報告しており、これよりも小さな病変は偽陰性となる可能性を考慮する必要がある。Floresら(参考資料2)はstage Iaの早期はFDG-PETで検出できなかったと報告しており、やはり小さな胸膜病変をスクリーニングするのであれば、空間分解能に優れるCTが第一選択であろう。
 
2)術前診断における有用性
・良悪性の鑑別診断における有用性
 胸膜疾患は悪性・良性と様々であり、良悪性の鑑別は重要である。良性の胸膜肥厚では炎症性の胸膜炎(特に結核性胸膜炎)、またアスベスト関連疾患でも胸膜プラーク、良性石綿胸水、び漫性胸膜肥厚などが中皮腫と鑑別を要する疾患になる。これら全ての疾患に関するFDG-PETの所見を詳細に検討した報告はないが、一般的に活動性の炎症であればFDGが集積することから、やはり活動性の炎症性胸膜炎をFDGの集積のみで鑑別することは困難と思われる。一方、陳旧性胸膜炎、あるいは良性の胸膜肥厚はFDGの集積が低いことから、集積が低い病変に関してはFDG-PETによる良悪性の鑑別が可能と報告されている(参考資料3)。
 悪性の胸膜肥厚は95%が転移によるものである。原発巣は肺癌、乳癌、消化器がんなど多岐にわたり、腺癌が多いとされている。これらの転移巣にはFDGが強く集積するため、中皮腫との鑑別は困難である。しかしながら、PETの特徴として全身の検索が可能なため、それまで未知であった原発巣が検出できる可能性がある。したがって別の意味でPETの有用性が考えられる。
 
・病期診断における有用性
 局所の進展範囲は解剖学的情報が主であるためPETの有用性は低い。またリンパ節の診断能に関しては感度11%(参考資料2)、19%(参考資料1)という低い数字が報告されており、FDGの集積よりもCTにおけるサイズを基準とした判断の方が診断能が高い。したがってT因子、N因子の評価についてはPETの役割はないものといえる。一方、遠隔転移(M因子)の診断に関してはPETの有用性が高く、胸郭外の病変を発見できることにより不要な手術を避けることができると言われている(参考資料2、参考資料4)。
・悪性度診断における有用性
 FDGの集積度と悪性度には相関関係があり、集積が強いほど有意に予後が悪くなる(参考資料5、参考資料6、参考資料7)。また組織学的に上皮型(epitheloid type)を呈するものは混合型(mixed type:正式な分類名でない)よりも集積が有意に低く、予後も良いと言われている(参考資料6)。
 
3)術後診断における有用性
 術後診断としては放射線治療や化学療法後の効果判定、あるいは再発の早期診断にPETの有用性が考えられる。特に放射線治療や手術後には線維化や器質化のために形態診断がしばしば困難になるが、PETはこのような場合に有効性が高い。
 現在FDG-PETは正式に治療効果判定の目的では保険償還されていない。しかし中皮腫の化学療法における治療効果判定にFDG-PETを用いたCeresoliら(参考資料8)の報告では、SUV(Standerdized uptake value:集積を表す数字)が25%以上減少した群をMR(Metabolic Response)とした場合、化学療法2クール後にMRとなったresponderのTTP (Time to tumor progression)は平均14ヶ月であったのに対して、非MRのTTPは7ヶ月で、統計学的に有意な差であったと述べている。
 中皮腫の再発診断に関してFDG-PETの有用性を述べた報告も極めて少ないが、Floresら(参考資料2)は手術療法後の再発3例がPETで発見されたと報告している。従って再発巣にもFDGが良好に集積し、検出に有用性があることは予測できるが、他の画像診断に比べてどの程度の有用性があるかは報告がない。一般論として、術後変化や胸水に隠れて、CTでは判りにくい病巣の発見にはPETが有用と思われる。


図1 66歳、女性。胸膜生検にて中皮腫の診断。職業歴は特記すべきことなし、環境曝露疑い。 a. 単純X線CTでは左肺のび漫性胸膜肥厚と胸水貯留が認められる。 b. PETとの融合画像では活動性の高い腫瘤部分が明瞭になる。対側胸膜への浸潤も明瞭である(矢印)。



図2 65歳、男性。胸膜生検にて中皮腫の診断。水道配管業。 a. 単純X線CTでは明らかな胸壁外浸潤は異常指摘できなかった。 b. FDG-PETでは胸膜外浸潤が明瞭に指摘可能である(矢印)。



コメント    :
 PETの中皮腫の診断における役割はスクリーニングや原発巣の評価というよりも、遠隔転移や悪性度診断、再発診断といえる。現在は有効な化学療法がないものの、治療効果の判定にも有効性があるかもしれない。

参考資料1 Reference 1:
悪性胸膜中皮腫の診断におけるFDG-PETの有用性についての検討
栗林康造、三宅光富、宮田茂、延山誠一他
兵庫医科大学総合内科学呼吸器
日本癌治療学会誌40巻2号 Page516(2005.09)

参考資料2 Reference 2:
Positron emission tomography defines metastatic disease but not locoregional disease in patients with malignant pleural mesothelioma.
Flores RM. Akhurst T. Gonen M. Larson SM. Rusch VW.
Thoracic Service, Department of Surgery, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA
Journal of Thoracic & Cardiovascular Surgery. 126(1):11-16, 2003


参考資料3 Reference 3:
Metabolic imaging of malignant pleural mesothelioma with fluorodeoxyglucose positron emission tomography
Benard F. Sterman D. Smith RJ. Kaiser LR. Albelda SM. Alavi A.
Division of Nuclear Medicine, Department of Radiology, University of Pennsylvania Medical Center, Philadelphia, PA.
Chest. 114(3):713-722, 1998 Sep

参考資料4 Reference 4:
Positron emission tomography with f18-fluorodeoxyglucose in the staging and preoperative evaluation of malignant pleural mesothelioma
Schneider DB. Clary-Macy C. Challa S. Sasse KC. Merrick SH. Hawkins R. Caputo G. Jablons D
Division of Cardiothoracic Surgery and the Departments of Surgery and Nuclear Medicine, University of California/Mount Zion Medical Center, San Francisco, CA
Journal of Thoracic & Cardiovascular Surgery. 120(1):128-133, 2000

参考資料5 Reference 5:
Prognostic value of FDG PET imaging in malignant pleural mesothelioma.
Benard F. Sterman D. Smith RJ. Kaiser LR. Albelda SM. Alavi A
Division of Nuclear Medicine, Department of Radiology, University of Pennsylvania Medical Center, Philadelphia, PA.
Journal of Nuclear Medicine. 40(8):1241-1245, 1999

参考資料6 Reference 6:
The role of PET in the surgical management of malignant pleural mesothelioma.
Flores RM
Thoracic Service, Department of Surgery, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA
Lung Cancer. 49 Suppl 1:S27-32, 2005

参考資料7 Reference 7:
Metabolic significance of the pattern, intensity and kinetics of 18F-FDG uptake in malignant pleural mesothelioma
Gerbaudo VH. Britz-Cunningham S. Sugarbaker DJ. Treves ST.
Division of Nuclear Medicine, Department of Radiology and Division of Thoracic Surgery, Department of Surgery, Brigham and Women's Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Thorax. 58(12):1077-1082, 2003

参考資料8 Reference 8:
Early response evaluation in malignant pleural mesothelioma by positron emission tomography with [18F]fluorodeoxyglucose.
Ceresoli GL. Chiti A. Zucali PA. Rodari M. Lutman RF. Salamina S. Incarbone M. Alloisio M. Santoro A.
Departments of Medical Oncology and Hematology, Nuclear Medicine, Radiology, and Thoracic Surgery, Istituto Clinico Humanitas IRCCS (Isituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientifico), Rozzano, Milan, Italy
Journal of Clinical Oncology. 24(28):4587-4593, 2006

キーワード:PET、PET/CT、ポジトロンCT、FDG、胸膜、胸膜腫瘍、中皮腫
PET, PET/CT,Positron CT, FDG, Pleura, Pleural tumor, mesothelioma
分類コード:030301,030501

放射線利用技術データベースのメインページへ