PET用注射剤：2-フルオロ-2-デオキシグルコース(F-18)注射液（改訂版）

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作成： 2007/1/3 鷲野弘明データ番号　　　：030291 PET用注射剤：2-フルオロ-2-デオキシグルコース(F-18)注射液（改訂版）目的　　　　　　：がん、心疾患の診断放射線の種別　　：陽電子応用分野　　　　：医学、診断概要　　　　　　： ¹⁸F-2-フルオロ-2-デオキシグルコース(¹⁸F-FDG)は、ポジトロン放出核種である¹⁸Fで標識されたブドウ糖誘導体である。¹⁸F-FDGは、解糖系の代謝速度に関連した細胞内集積を与え、細胞のエネルギー代謝を画像化する。¹⁸F-FDGは、様々な腫瘍の診断、心臓の血流障害による組織障害の評価、難治性部分てんかんの診断に使用される。また、近年の研究では、アルツハイマー病の早期診断にも有用であることが明らかとなっている。¹⁸F-FDGを用いたPET検査は、我が国では2002年より保険適用となり、2005年より保険適用される¹⁸F-FDG注射剤が市販されるようになった。本データは(030160)「PET用注射剤：2-フルオロ-2-デオキシグルコース(F-18)注射液」の改訂版です詳細説明　　　　： 1. ¹⁸F-FDG研究の歴史　¹⁸F-FDG研究の端緒は1970年代初めにある。Warburgは1956年にScience誌にがん細胞がブドウ糖を大量に消費することを報告し、英国の研究者Bessellらは1970年代初めにブドウ糖誘導体の抗がん作用について研究した。当時2-deoxy-D-glucose(2DG)がブドウ糖代謝マーカーとして知られ（2DGは細胞内に取り込まれ解糖系酵素ヘキソキナーゼでリン酸化されるが、2位のOH基がないためそれ以上酵素反応が進まず細胞内に蓄積する）、その¹⁴Cあるいは³H標識体が生化学的実験で使用されていた。Bessellらは、1973年にブドウ糖の2位にフッ素を導入した2-deoxy-2-fluoro-D-glucoseがヘキソキナーゼによる6位リン酸化を受けた後次の反応に進まないことを見出している。細胞のブドウ糖代謝を非侵襲的に画像化しようとする研究もこの頃に始まった。Sokoloffらは、¹⁴C-2DGとオートラジオグラフィーという病理学的実験手技を用いて、脳局所のブドウ糖代謝を画像化する方法を1977年に開発した。ブドウ糖の２位に¹⁸Fを導入した¹⁸F-2-deoxy-2-fluoro-D-glucoseは、このような背景から生み出されたPETトレーサーであり、井戸らが1977年に初めて合成した。一方、米国の研究者Kuhlらはこの時期にPET装置を精力的に開発しており、1978年に世界で初めてポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)装置の開発に成功すると、翌年には¹⁸F-FDGによるヒトのPET画像(＝脳の局所ブドウ糖代謝画像)を初めて報告した。FDG-PETは、生化学、医学、トレーサー合成、PET装置開発といった様々な学問領域の研究者の同時進行的な努力よって初めて日の目を見たテクノロジーである。　¹⁸F-FDGは、基本的にエネルギー代謝が亢進している細胞に集積し、それは脳の神経細胞、活動中の筋肉(例えば心筋)、活性化された炎症性細胞(白血球・リンパ球・マクロファージ)及び悪性のがん細胞の４種類である。FDG-PET画像診断の研究は1980～90年代に大きく進化し、脳梗塞やアルツハイマー病等の中枢神経系疾患、心筋梗塞等の心疾患、炎症性疾患及びがんの診断に有用であることが明らかとなった。しかし、PET装置は当時極めて高価な実験装置であり、日常臨床に使えるPET装置が完成するのは1990年代に入ってからである。米国では、1990年後半からPET装置が普及し¹⁸F-FDGを用いたPET検査(FDG-PET)が始まる。　我が国では、FDG-PETは高度先進医療として臨床的な応用が始まったが、2002年4月より保険適用となった。¹⁸F-FDG注射剤は、現在サイクロトロンを保有する医療施設内で製造されそこで日常検査に使用されるほか、放射性医薬品としても2005年9月より供給されている。FDG-PETは、先端的な画像診断として我が国の日常臨床に急速に普及しつつある。　　¹⁸Fは、サイクロトロンで生産される物理的半減期110分の放射性核種であり、ポジトロン(β⁺)を放出する。β⁺は極めて半減期の短い粒子で、電子と結合して消滅する際に511keVのγ線を2本反対方向に放射する。この２本のγ線放射を同時に捕らえて画像化する装置がPET装置である。PET装置はSPECT装置より空間分解能と定量性に優れている。なお、¹⁸Fより放出されるβ⁺の最大(平均)エネルギーは0.633(0.202) MeVであり、水中における最大(平均)飛程は2.4(0.6) mmである。これは、検出された511keVγ線の放出位置は生体内では必ずしも¹⁸Fが存在した位置に一致しないことを意味するが、この点を考慮に入れても¹⁸FによるPETイメージングの空間分解能は、通常のSPECTイメージングの空間分解能よりもかなり高い。　 2. ¹⁸F-FDG注射液の組成　¹⁸F-FDG注射液は、中性水溶液に溶解した静脈内投与用の注射剤である。¹⁸F-FDGの化学構造を図1に示す。　図1　¹⁸F-FDGの化学構造　医療施設内で製造される¹⁸F-FDG注射液の組成は必ずしも一定しないので、市販の¹⁸F-FDG注射液を例にその組成を表1に示す。　表1　市販の¹⁸F-FDG注射液の組成・性状(２ml／バイアル中)（原論文1より引用） ¹⁸F-FDG ¹⁸Fとして検定日時において185MBq/2 ml^*) 添加物日本薬局方生理食塩液外観無色～微黄色澄明の液ｐH 5.0～7.5 浸透圧比約１（生理食塩液に対する比） ^*⁾¹⁸F-FDGの化学物質としての量は、¹⁸Fがキャリアーフリーのため通常の分析手段では測定不能なほど極微量である。　 3. ¹⁸F-FDG注射液の効能又は効果、あるいは保険適用の範囲　市販医薬品の¹⁸F-FDG注射液の効能又は効果の記載は、医療施設内で製造された¹⁸F-FDG注射液の使用目的の記載と多少異なる。また、いずれの注射剤を用いようと、検査に使用する装置がPET装置かPET-CT装置かによって保険適用範囲の記載が多少異なる。ここでは、医療施設内で製造された¹⁸F-FDG注射液を用いてPET-CT装置で検査を行う場合を中心に説明する。なお、市販医薬品を使うか施設内製造品を使うか、あるいはPET装置を使うかPET-CT装置を使うかは、病院各々の事情により異なる。しかし、FDG-PET検査の有効性に全く差はなく、保険適用範囲についても実質的に差はない。　 (1) 悪性腫瘍の診断 ● 肺がん、乳がん、大腸がん、頭頸部がん、悪性リンパ腫、悪性黒色腫、食道がん、子宮がん、卵巣がん：他の検査・画像診断により、病期診断、転移・再発の診断が確定できない場合の診断。 ● 脳腫瘍^*⁾：他の検査・画像診断により、転移・再発の診断が確定できない場合の診断。 ^*⁾脳腫瘍は、PET装置による検査が保険適用となっている。 ● 膵がん：　他の検査・画像診断によりがんの存在を疑うが、腫瘤形成性膵炎と鑑別が困難な場合の診断。他の検査・画像診断により、病期診断、転移・再発の診断が確定できない場合の診断。 ● 転移性肝がん：他の検査・画像診断により転移性肝がんを疑うが、病理診断により確定診断の得られない場合の診断。原発巣の不明な場合の診断。 ● 原発不明がん：リンパ節生検・画像診断等で転移巣が疑われ、かつ、腫瘍マーカーが高値を示す等、悪性腫瘍の存在を疑うが、原発巣の不明な場合の診断。　 (2) 虚血性心疾患の診断^*⁾ 　左室機能が低下している虚血性心疾患による心不全患者で，心筋組織のバイアビリティ診断が必要とされ，かつ，通常の心筋血流シンチグラフィで判定困難な場合の診断。 ^*⁾虚血性心疾患は、PET装置による検査が保険適用となっている。　 (3) 難治性部分てんかんの診断　外科切除が必要とされる場合の脳グルコース代謝異常領域の診断。　 4. ¹⁸F-FDG注射液の用法及び用量　通常、成人には¹⁸F-FDG注射液１バイアル(検定日時において185MBq)を静脈内に投与しPET装置あるいはPET-CT装置で撮像する。投与量(放射能量)は、年齢・体重により適宜増減するが、最小74MBqから最大370MBqまでの範囲内とする。　 5. ¹⁸F-FDG注射液の薬効薬理　ブドウ糖は、グルコーストランスポーター(GLUT)と呼ばれる細胞膜貫通輸送チャンネルを介して細胞内に取り込まれる。GLUTのサブタイプには４種類あり、組織によって発現するサブタイプは異なるが、心臓の心筋細胞、脳神経細胞、多くの腫瘍細胞ではGLUT1である。細胞内に取り込まれたブドウ糖は、細胞質内の解糖系を経てピルビン酸～アセチル-CoAとなり、ミトコンドリア内のクエン酸回路に入る。細胞は、ブドウ糖と酸素を取り込み、細胞質内の解糖系とミトコンドリア内のクエン酸回路及び電子伝達系によって、ブドウ糖1モルと酸素6モルから36ATPを合成する。このうち2ATPは細胞質内で、34ATPはミトコンドリア内で生成する。これが、細胞内におけるエネルギー産生機構である。（図2参照）　図2　細胞におけるブドウ糖及び¹⁸F-FDGの代謝　　¹⁸F-FDGは、ブドウ糖と同様にGLUTを経て細胞内に取り込まれ、解糖系酵素ヘキソキナーゼにより¹⁸F-FDG-6-リン酸となる。しかし、それ以降の酵素反応を受けず、リン酸の負電荷のために細胞外拡散もできないため、リン酸化体のまま細胞内に滞留する(これをmetabolic trappingという)。¹⁸F-FDG-6-リン酸の細胞内滞留量は、一義的には¹⁸F-FDGを組織に供給する血流量、¹⁸F-FDGの取込み及び排泄のバランスで決まる。¹⁸F-FDG取込み量は、基本的に細胞のエネルギー需要に相関し、細胞がおかれた環境の酸素分圧、解糖系の活性に左右される。具体的には、GLUT発現量、リン酸化するヘキソキナーゼや脱リン酸化するグルコース-6-フォスファターゼの活性が、細胞内¹⁸F-FDG-6-リン酸の量を左右することが知られる。　細胞内の解糖系とミトコンドリアのクエン酸回路／電子伝達系は、正常な状態ではカップリングしており、解糖系だけが一方的に亢進することはない。しかし、虚血～梗塞により酸素とブドウ糖の供給が低下すると、供給能力的に限界が低い酸素の方が先に不足状態となる。このため、酸素がなくてもATPを生産できる解糖系は亢進し、ミトコンドリアの活性は低下する。この状態は、大量のブドウ糖を細胞内に取り込んで解糖系で非効率的にATPを生産し、過剰の酢酸や乳酸を排出する状態に相当する。細胞がこのような状態に陥ったとき、¹⁸F-FDGの取込みが亢進する。脳は、大量のエネルギー即ち酸素とブドウ糖を消費する器官である。血流低下により脳が虚血状態にあるとき、酸素取り込み率とブドウ糖消費率の差を見ることで、血流低下の程度や神経細胞の生存を診断することができる。　悪性のがん細胞では、しばしば酸素があるのにそれを使わず、非効率的な解糖系を亢進させることが知られている。そのようながん細胞は、¹⁸F-FDGを大量に取込む。なぜ、酸素を使わないのか(即ちミトコンドリアを動かさないのか)、どのような遺伝子発現がこうした解糖系亢進に関与しているのか、現在研究が進んでいる。　 6. ¹⁸F-FDG注射液の薬物動態 (1) 分布　¹⁸F-FDGを麻酔下でラットに静脈内投与すると、投与後速やかに全身に分布し、脳への集積は投与後30分で最大(約3%投与量/脳)となり、心臓へは投与後1～3時間で最大(約5%～6%投与量/心臓)となった。これらの臓器からの放射能排泄は緩徐であり、投与後12時間までに40～50%投与量が尿中排泄された。　ヒトに静脈内投与すると、投与後血中から速やかに消失して主に脳へ分布し、その分布率は投与量の約25%(25%投与量)、単位重量(g)あたりで約0.015%投与量/gであった。心臓への分布は被験者ごとに傾向が異なり、最も多く分布した例では約5%投与量、単位重量あたりで約0.014%投与量/gであった。肺・肝臓・腎臓・脾臓・腸管・精巣及び全身筋肉への放射能の滞留はほとんどみられなかった。健常人のPET-CT画像を図3に示す。　図3　健常人における¹⁸F-FDGのPET-CT（原論文2より引用）　ブドウ糖が多く取り込まれる臓器(①脳、②扁桃、③心臓、④胃)や排泄ルートにあたる臓器(⑤腎臓、⑥膀胱)には、¹⁸F-FDGが多く分布している。このような生理的集積は、読影上注意すべき点である。CT画像とPET画像を重ね合わせることで¹⁸F-FDGの解剖学的な存在位置が明確になるため、一般にPET-CT装置の診断精度はPET装置単独の診断精度より高い。　 (2) 代謝・排泄　ラット血液中の放射能量を測定した結果、血漿分画の放射能量は、投与直後から3時間で約40%～45%に低下した。血漿中の放射化学的成分を分析した結果、¹⁸F-FDG以外に3種の代謝成分が見出された。その一つは、¹⁸F-2-フルオロ-2-デオキシ-D-マンノース(¹⁸F-FDM)であった。尿中放射能成分の約86%が¹⁸F-FDG、約6%が¹⁸F-FDMであった。　ヒトでは、尿中放射能累積排泄率は経時的に増加し、投与後６時間で約32%投与量であった。主たる排泄経路は、腎・尿路系であることが示された。血漿中の放射化学的成分を分析した結果、血漿中ではほとんど代謝産物が検出されず、未変化体のまま尿中に排泄されることが示された。　 7. 臨床成績　¹⁸F-FDGの臨床的有用性について公表論文を広範に調査し、それらをまとめた結果を以下に示す。 (1) 悪性腫瘍　手術適応を検討する非小細胞肺がん患者の所属リンパ節転移診断において、CTに対して、CTにFDG-PETを加えた場合(以下CT+FDG)の診断能について２試験の成績を合計した。感度はCT／65.8%、CT+FDG／92.1%，特異度はCT／72.4%，CT+FDG／86.7%であり、CTに対するFDG-PETの上乗せ効果が認められた。また、CTで悪性・良性の鑑別診断が困難な肺結節を有する患者におけるFDG-PETの診断能について２試験の成績を合計した。FDG-PETの感度は96.2%、特異度は75.6%であった。また、FDG-PETの診断目的ごとの診断能について、肺がん・乳がん・大腸がん・頭頸部がん・脳腫瘍・膵がん・悪性リンパ腫・原発不明がん及び悪性黒色腫を評価した84試験におけるFDG-PETの試験成績を以下に示す。　表2　¹⁸F-FDGによるがん診断の臨床成績（原論文1より引用）がん種診断目的感度(例数) 特異度(例数) 肺がん悪性・良性鑑別診断 92.0% (310/337) 67.4% (95/141) 所属リンパ節転移診断 78.9% (296/375) 89.4% (693/775) 遠隔転移診断^*) 93.0% (93/100) 94.3% (199/211) 転移・再発診断^*) 97.8% (88/90) 78.0% (32/41) 乳がん悪性・良性鑑別診断 76.0% (168/221) 87.7% (71/81) 腋窩リンパ節転移診断 75.6% (344/455) 87.2% (565/648) 遠隔転移・再発診断^*) 92.6% (189/204) 89.4% (161/180) 大腸がん遠隔転移・再発診断^*) 95.1% (293/308) 90.3% (130/144) 頭頸部がん頸部リンパ節転移診断 87.7% (193/220) 93.4% (1248/1336) 残存腫瘍・再発診断 96.8% (91/94) 80.3% (122/152) 遠隔転移又は重複がんの検出^*) がん検出率 7.3% (6/82) 脳腫瘍再発診断 79.3% (69/87) 82.7% (62/75) 膵がん悪性・良性鑑別診断 86.4% (184/213) 85.2% (115/135) 悪性リンパ腫病期診断 93.8% (480/512) 99.6% (2481/2491) 骨髄浸潤診断 82.1% (32/39) 93.3% (83/89) 残存腫瘍・再発診断 77.4% (48/62) 89.5% (179/200) 原発不明がん原発巣検出がん検出率 25.8% (42/163) 悪性黒色腫所属リンパ節転移診断 9.4% (3/32) 94.4% (67/71) 遠隔転移・再発診断^*) 90.9% (251/276) 71.9% (141/196) ^*⁾ 転移性肝がんを含む　 (2) 虚血性心疾患　冠動脈疾患及び左室機能低下を示す患者を対象とした14試験におけるFDG-PETの心筋バイアビリティ診断能は、感度89.9%(726/808例)、特異度64.2%(512/797例)であった。　 (3) 難治性部分てんかん　外科的治療が考慮される部分てんかん患者を対象とした20試験を評価した。すべての試験において、FDG-PETは発作間欠期に実施されていた。術後の発作予後良好例のうち、FDG-PETで示された焦点部位がてんかん焦点の手術部位と一致する例数の割合を一致率として評価した。その結果、FDG-PETの一致率は73.4%(281/383例)であった。MRIで異常所見が認められない例において、FDG-PETの一致率は71.1%(32/45例)であった。また、側頭葉てんかんにおけるFDG-PETの一致率は、74.4%(169/227例)であった。なお、側頭葉てんかんにおける発作時脳血流検査の一致率は、75.8%(138/182例)であった。　 (4) FDG-PETによるがん患者の症例　図4に乳がんの症例を示す。　図4　乳がん症例における¹⁸F-FDGのPET-CT（原論文2より引用）　この患者の右乳房は、以前に乳がんを発症し切除されているが、今度は左乳房に乳がんが疑われた。CTでは左乳房に4cmほどの腫瘤を認め、同じ場所(①)に¹⁸F-FDGで強い取り込みが見られた。左腋窩に1cm弱のリンパ節があり(②)、こちらにも¹⁸F-FDGの集積を認めた。PET/CT重ね合わせ画像では、乳腺の腫瘤やリンパ節とFDGの取り込み部位が一致していることが分かる。手術の結果、左乳癌と左腋窩リンパ節への転移が確認された。なお、脳・腎臓・膀胱にも分布している様子がPET全身像から分かるが、これは生理的集積である。　　¹⁸F-FDGによるがん診断は、病期診断や転移・再発の診断に留まらず、がんの治療効果判定もできることが報告されている。そのような例を以下に示す。　図5　23歳の精巣がん患者における腹腔内腫瘤の例（原論文3より引用）　この患者は、精巣に悪性腫瘍を疑われ、腹部に疼痛を伴う腫瘤が認められた。化学療法前のCT像(a)では、腹腔に不均一な腫瘤が認められ、¹⁸F-FDG像(b)でも当該部分に不均一かつ高い集積を認めた。シスプラチン・エトポシド・ブレオマイシンによる治療を3サイクル行った後再度CT検査したところ、腫瘍の一部は縮小したが、他の部分はむしろ増大したように見えた(c)。一方¹⁸F-FDG検査では、すべての部分で集積が低下した(d)。この患者は、手術の結果腫瘍の再発ではないことが確認された。これは、CTでは分からない腫瘍の状態が¹⁸F-FDGで的確に診断された例である（原論文３）。　 8. ¹⁸F-FDG注射液の副作用　わが国で実施された¹⁸F-FDG注射液(市販放射性医薬品)の臨床試験において、287例中13例(4.5%)に以下のような副作用(臨床検査値の異常を含む)が認められた。主な副作用事例は、気分不良１件(0.3%)、発熱１件(0.3%)、嘔吐１件(0.3%)、血圧低下１件(0.3%)であり、主な臨床検査値の異常は、尿潜血陽性４件(1.4%)、血中カリウム増加３件(1.1%)、尿糖陽性２件(0.7%)等であった。観察された副作用(いずれの発生頻度も0.1%～5%未満)を以下にまとめる：血　液：好中球百分率増加、リンパ球百分率減少腎　臓：尿潜血陽性、尿糖陽性、血中尿素窒素増加肝：臓：血中ビリルビン増加消化器：嘔吐その他：血中カリウム増加、血中カリウム減少、血中アルブミン減少、気分不良、発熱、血圧低下原論文１ Data source 1： FDGスキャン注　放射性医薬品基準フルデオキシグルコース(¹⁸F)注射液医薬品添付文書(2005年7月作成)　日本メジフィジックス株式会社原論文２ Data source 2：症例提供：倉敷中央病院日本メジフィジックス株式会社　社内資料原論文３ Data source 3： FDG-PET evaluation of retroperitoneal metastases of testicular cancer before and after chemotherapy. Reinhardt MJ, Muller-Mattheis VG, Gerharz CD et al Heinrich-Heine-University of Dusseldorf, Medical School, Germany J Nucl Med 1997; 38:99-101 参考資料１ Reference 1： Some in vivo and in vitro antitumor effects of deoxyfluoro-D-glucopyranoses Bessell EM, Courtenay VD, Foster AB et al Eur. J. Cancer 1973; 9:463-470 参考資料２ Reference 2： Chapter 1. Historical development of functional in vivo studies using positron-emitting tracers Jones T Positron Emission Tomography - Basic Science and Clinical Practice edited by Valk PE, Bailey DL, Townsend DW & Maisey MN. Springer (2002) 参考資料３ Reference 3： The (¹⁴C)-deoxyglucose method for the measurement of local cerebral glucose utilization: theory, procedure and normal values in the conscious and anesthetized albino rat Sokoloff L, Reivich M, Kennedy C et al. J Neurochem 1977; 28:897-916 参考資料４ Reference 4： Fluorination with F₂. A convenient synthesis of 2-deoxy-2-fluoro-D-glucose Ido T, Wan C-N, Fowler JS et al. J Org Chem 1977; 42:2341-2342 参考資料５ Reference 5： Labeled 2-deoxy-D-glucose analogs. ¹⁸F-Labeled 2-deoxy-2-fluoro-D-glucose, 2-deoxy-2-fluoro-D-mannose and ¹⁴C-2-deoxy-2-fluoro-D-glucose Ido T, Wan C-N, Casella V et al J Label Cmpd Radiopharm 1978; XIV:175-183 参考資料６ Reference 6：糖代謝型腫瘍イメージング剤¹⁸F-FDG[2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース(¹⁸F)注射剤の開発猪野宣人、島田隆介、加奈川優他日本メジフィジックス株式会社核医学 1999; 36:467-476 参考資料７ Reference 7： Preoperative staging of non-small-cell lung cancer with positron-emission tomography Pieterman RM, van Putten JW, Meuzelaar JJ et al Groningen University Hospital, The Netherlands. N Eng J Med 2000; 343:254-261 参考資料８ Reference 8： Staging non-small cell lung cancer with whole-body PET Marom EM, McAdams HP, Erasmus JJ et al Duke University Medical Center, Durham, USA Radiology 1999; 212:803-809 参考資料９ Reference 9： Prospective investigation of positron emission tomography in lung nodules Lowe VJ, Fletcher JW, Gobar L et al St Louis University Health Sciences Center, USA J Clin Oncol 1998; 16:1075-1084 参考資料10 Reference 10： Probability of malignancy in solitary pulmonary nodules using fluorine-18-FDG and PET Gupta NC, Maloof J & Gunel E. West Virginia University PET Center, School of Medicine, USA J Nucl Med 1996; 37:943-948 参考資料11 Reference 11：第2節　核医学診断科　E101-2、E101-3 社会保険・老人保健診療報酬　医科点数表の解釈(平成18年10月版)　社会保険研究所キーワード：キーワード：画像診断, ポジトロンエミッショントモグラフィー, 放射性医薬品, ¹⁸F-2-フルオロ-2-デオキシグルコース, 脳, 心臓, 腫瘍, てんかん, アルツハイマー病, 認知症, 軽度認知障害, 狭心症, 心筋虚血, 心筋梗塞, 感染症, 炎症性疾患, ブドウ糖代謝, グルコーストランスポーター, ヘキソキナーゼ, diagnostic imaging, positron emission tomography, PET, radiopharmaceutical, ¹⁸F-2-fluoro-2-deoxyglucose, ¹⁸F-FDG, brain, heart, tumor, Alzheimer's disease, dementia, mild cognitive impairment, angina pectoris, myocardial ischemia, myocardial infarction, infectious diseases, inflammatory diseases, glucose metabolism, glucose transporter, GLUT, hexokinase 分類コード：030502, 030301, 030403
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¹⁸F-FDG	¹⁸Fとして検定日時において185MBq/2 ml^*)
添加物	日本薬局方生理食塩液
外観	無色～微黄色澄明の液
ｐH	5.0～7.5
浸透圧比	約１（生理食塩液に対する比）

がん種	診断目的	感度(例数)	特異度(例数)
肺がん	悪性・良性鑑別診断	92.0% (310/337)	67.4% (95/141)
	所属リンパ節転移診断	78.9% (296/375)	89.4% (693/775)
	遠隔転移診断^*)	93.0% (93/100)	94.3% (199/211)
	転移・再発診断^*)	97.8% (88/90)	78.0% (32/41)
乳がん	悪性・良性鑑別診断	76.0% (168/221)	87.7% (71/81)
	腋窩リンパ節転移診断	75.6% (344/455)	87.2% (565/648)
	遠隔転移・再発診断^*)	92.6% (189/204)	89.4% (161/180)
大腸がん	遠隔転移・再発診断^*)	95.1% (293/308)	90.3% (130/144)
頭頸部がん	頸部リンパ節転移診断	87.7% (193/220)	93.4% (1248/1336)
	残存腫瘍・再発診断	96.8% (91/94)	80.3% (122/152)
	遠隔転移又は重複がんの検出^*)	がん検出率 7.3% (6/82)
脳腫瘍	再発診断	79.3% (69/87)	82.7% (62/75)
膵がん	悪性・良性鑑別診断	86.4% (184/213)	85.2% (115/135)
悪性リンパ腫	病期診断	93.8% (480/512)	99.6% (2481/2491)
	骨髄浸潤診断	82.1% (32/39)	93.3% (83/89)
	残存腫瘍・再発診断	77.4% (48/62)	89.5% (179/200)
原発不明がん	原発巣検出	がん検出率 25.8% (42/163)
悪性黒色腫	所属リンパ節転移診断	9.4% (3/32)	94.4% (67/71)
悪性黒色腫	遠隔転移・再発診断^*)	90.9% (251/276)	71.9% (141/196)