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作成: 2006/10/30 根本和久、蓮見俊彰

データ番号   :030288
ケロイドの治療と放射線
目的      :ケロイドに対する放射線治療
放射線の種別  :電子線
放射線源    :リニアアクセラレータ 4MeV、6MeV 
線量(率)   :総線量:15〜20Gy程度 線量率 2〜3Gy/分

概要      :
 大きなもしくは有症状のケロイドをもつ患者の苦しみは、なかなか理解されないことが多いようであるが、精神的にも肉体的にもとても辛いことであり、日常生活に大きな影を落とす。ケロイドの治療には、様々な治療法が試されているが、手術と並んで術後放射線治療は重要な位置を占める。まずまずの成績をおさめているが、副作用について患者と医師がよく話し合った上での決断が必要である。

詳細説明    :
<ケロイドって?>
 ケロイドとは、傷口に徐々に繊維成分を主とする組織が“こぶ”のように増殖して、周囲健常組織にまで発赤浸潤が広がってゆくものを意味する。


図1 8年前の手術後2−3月で生じた耳後部のケロイド。痛みを伴っており、皮膚科で経過を診ていたが、徐々に大きくなり、段々痛みが強くなってきた(左)。手術直後に電子線を20Gy照射した後、塗り薬や内服薬で経過をみた。4ヶ月後の写真(右)ではケロイドの発生は抑えられている。2年以上経過した現在、照射部に発毛が徐々に見られ、経過は良好である。

<ケロイドは辛い>
 健常者にはなかなか理解し難いかもしれませんが、大きなもしくは有症状のケロイドをもつ患者の苦しみは大変なものである。痛みや痒みが続いてもそれを抑える有効な手段はなく、常時悩まされる場合もある。十分眠れないこともある。部位によっては(特に顔の場合など)人目を避けて生活しなければならない場合もあり、ひどい場合には無意識に差別の対象になることすらある。精神的にも肉体的にもとても辛いことであり、日常生活に大きな影を落とす。小さな傷から段々と大きく育つのがケロイドであるから、切除すればさらに大きいケロイドができる場合が多く(再発高率)、治療はかなり困難である。放射線治療科を訪れる患者は、少なからずそういった辛い思いをしてきた人が多いようである。
 
<様々な治療方法>
 ケロイドの治療法には様々な方法が試されているが、万能なものはない。ある程度のコンセンサスはあるが、根気よく患者の体質、傷にあった治療法を試して行くしかありません。現在は手術、術後放射線治療、内服、圧迫、ステロイド剤や抗癌剤の局所注射、テープやジェルシート等による被覆、(レーザー療法)、(低温療法)等が試行されている。これらの中心に位置するのは手術である。傷が開くと再発するので、工夫をした縫い方が要求される。術後放射線治療や内科的治療を併用すると比較的高確率で制御でき、最終手段として使われることが多いであるが、それでも万能ではありません。主治医とよく相談をしながら、ねばり強くいろいろな方法を試すことが必要である。
 
<放射線治療はどのように行う?>
 手術後比較的早いうちに放射線治療を開始する。線質は原則として電子線を使用する。基本的には寝ているだけである(但し、部位にもよる)。最初の1回目は位置あわせや線量計算(理論上及び実測で)をするので時間がかかるが、2回目からはたいてい20分以内で済む。治療は痛くもかゆくもない。傷の両側5mm程度の範囲を治療する事が多いようである。遮蔽すべき位置に鉛板を置いたり、治療野に線量が十分入るようにするために柔らかい物(bolus 5mm程度)を置くことが多い。治療回数には決まりはなく、1回から10回の間で行うことが多いようである。最終的に実効線量(通常分割20Gy相当前後)をだいたいそろえるので、回数によって成績的にはあまり変わらないようである。回数を少なくすると、皮膚の焼けがやや強くなる傾向がある。
 
<治療成績は?>
 耳朶や頭頚部のように皮膚に張力がかからない部位における再発率は20%以内程度であるが、胸部や肩などの張力がかかることが多い部位では30%〜50%程度の再発率があるとの報告が多いようである。放射線治療終了後しばらくの間創(きず)が開かないように努力するのがよいという報告がある。
 
<副作用は?>
 治療回数を少なくした場合、皮膚の色素沈着(日焼け)はやや多く認められるようである(但し、個人差がる)。色素沈着が長く続いたり皮膚の色素が抜ける場合も少々認められる。可能性は少ないことであるが、時間が経過してから皮膚が縮んできたり、表面に細い血管が拡張してくることがある。
 一番気になるのは発ガン性の問題である。治療部位からの発ガンは可能性がごく低いものの、ゼロではないようである。ただし、線量が少ないためかはっきりと問題となるほどの発ガン事例は報告されていないようである。そのため、放射線治療は難治性や症状のひどいケロイドで再発の可能性が高い場合で、しかも、患者がリスクについて納得している場合に限り適応になることが多いようである。若年者の場合要注意である。

コメント    :
 再発を繰り返し、内科治療に反応が悪いケロイドの治療は、手術、術後放射線治療、内科的治療を併用することにより治療効果がもっとも望めると考えられている。術後放射線治療は、技術的にはあまり難しいことはなく回数も少ないため、放射線治療自体が辛いということはほとんど無く、受け入れやすい治療である。
ただし、副作用に関する説明を十分に受けてから患者自身がよく考えて自ら治療を受けるかどうか決定すべきであり、考え無しに気軽に受けて良い治療ではない。

原論文1 Data source 1:
Radiation Treatment of Benign Disease : Skin : Keloids
C.A. Perez, L.W. Brady, E.C. Halperin, R.K. Schmidt-Ullrich
Principles and Practice of RADIATION ONCOLOGY 4th, Lippincott Williams & Wilkins, 2004, pp. 2335-2336

原論文2 Data source 2:
Postoperative Electron-Beam Irradiation Therapy for Keloids and Hypertropphic scars:Retrospective Study of 147 Cases Followed for More Than 18 Months
R. Ogawa, K. Mitsuhashi, H. Hyakusoku and T. Miyashita
Nippon Medical School, and Marine Clinic
Plastic and Reconstructive Surgery 2003; 111:547-553

原論文3 Data source 3:
Hypertrophic scars and keloids:etiology and management
T.S. Alster TS and E.L. Tanzai
The Washington Institute of Dermatologic Laser Surgety,Washington,USA
Am J Clin Dermatol 2003; 4:235-43

原論文4 Data source 4:
良性疾患の放射線治療 皮膚・骨軟部 ケロイド
宮下次広、舘野温、隈崎達夫、小川令、岩切致、百束比古
日本医大病院
臨床放射線 2002年(Vol.47)別冊 pp.122-131

原論文5 Data source 5:
ケロイド・肥厚性瘢痕に対する最新の保存的治療
小坂 正明
近畿大学医学部
皮膚の科学 3巻6号(2004年)症例17

参考資料1 Reference 1:
電子線によるケロイド放射線治療に関する検討
塩本敦子、赤澤博之、岡田 孝、矢野慎輔、大屋夏生、小川憲一、小松龍一、森本美穂、高倉 亨
京都大学医学部
日本放射線技術学会雑誌 2004; 60:429-436

キーワード:ケロイド、放射線、電子線、ステロイド、放射線治療、放射線治療、色素沈着、発ガン
keloids, radiation, electron beam, steroids, radiation therapy, radiotherapy, irradiaton,  pigmentation, carcinogenesis、
分類コード:030201, 030602

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