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作成: 2005/9/21 萬 篤憲

データ番号   :030281
I-125シード線源永久挿入による前立腺がん小線源治療の現状
目的      :日本における前立腺癌シード治療の黎明
放射線の種別  :エックス線、ガンマ線
放射線源    :I-125
線量(率)   :7cGy/h
応用分野    :医学、治療

概要      :
 局在前立腺癌の治療として欧米では手術や外照射と並び普及しているシード永久挿入治療が日本でも開始された。米国ではすでに長期成績が報告され、手法が確立しており、日本への技術的導入は比較的容易であったが、法規制や線源管理面で厳しい制限が課せられた。規制を遵守しながら安全で有効な治療として日本に定着させる試みが始まった。放射線の副作用のみならず、線源の取り扱いに関しても安全性を確認しながら慎重に治療に踏み出したところである。
 

詳細説明    :
 I-125シード密封小線源(図1)の永久挿入による治療は米国において確立され、年間5万人以上がこの治療を受けるほどに普及している。米国では外来治療が可能であるが、日本では線源管理のため最低1日の入院が義務付けられている。針を会陰部から穿刺し、経直腸超音波のナビゲーションを用いて線源を前立腺に挿入する(図2、3、4)。挿入手技そのものは麻酔から挿入終了まで2時間程度で終わり、患者への侵襲が少ない。


図1 I-125シード線源の写真。外側はチタンで包装されている。



図2 経直腸超音波ガイド下にMickアプリケータを用いて、会陰部から5mmごとに穴の開いたテンプレートを用いて予定の位置にシード線源を針から通して挿入していく(原論文2参照)。



図3 線源を挿入した患者の骨盤X線写真。



図4 挿入後の超音波を用いた3次元再構成像。シード(緑)、前立腺(赤)、直腸(青)、尿道(緑)、100Gyの線量分布(白)で示されている。


 I-125は平均エネルギーが28keVと低エネルギー核種であるため、組織内の透過力が弱く、線源から放出されるγ線は前立腺内を限局的に照射する。このため、直腸や膀胱への吸収線量を有害事象が生じない程度に少なくすることが可能であり、前立腺癌を根治する十分な線量を投与することが可能となる。また、体外への漏洩線量も非常に少なくなり、周囲の人々への放射線被曝の問題を生じにくい。
 手術に対する最大の利点は侵襲が少ないことである。出血はごくわずかであり、手術後に問題になる尿漏れはほとんどない。勃起障害も手術に比べ明らかに少ない。挿入術にかかる時間も全摘術に比べ短く、より多くの患者を治療することが出来る。外照射に対する最大の利点は治療期間がわずか2時間程度と短いことである。2ヶ月の通院と比較すれば圧倒的に便利である。また、小線源治療であるため、線量勾配が急峻であり、他臓器への線量は極端に少なく、線量分布はまさに前立腺に集中している(図5)。前立腺を固定した状態でリアルタイムに治療を行うため、外部照射で問題になるような前立腺の動き(直腸・膀胱内容などによる毎日の数ミリから2cmまでの動き)を考慮する必要がない。その結果、直腸への影響が少なく、勃起能の低下が少ない。10年以上の長期治療成績がすでに報告されており、手術や外部照射と同等以上であることが臨床的に証明されている。


図5 挿入術後のCTを用いた線量分布図

 
適応
 シード単独治療を外照射併用治療の2種類に分けて考える必要がある。米国小線源学会(ABS)による患者選択基準がある。シード単独治療の良い適応は、いわゆる低リスク群(cT1-T2aN0M0かつPSA値が10ng/ml以下かつGleasonスコアが6以下)である。cT2b-c、Gleasonスコアが8-10、PSA値が20ng/mlより高い場合には外照射併用の適応である。

合併症
 シード線源は前立腺辺縁の静脈叢を経由して肺動脈に小塞栓を形成することがある。われわれの初期経験では治療患者の47%において肺内シード塞栓が生じた。塞栓が生じても多くは1-2個であり、自覚症状はなく、線量分布に問題を生じることはないと報告されている。また、膀胱や尿道からのシードの脱落が患者の6%に見られた。
 退院後、2週目あたりから尿道症状が出現する。頻尿、尿線狭小化、夜間多尿などの急性尿路症状は85%の患者に認められた。13%の患者では一過性で軽度の排尿痛や尿失禁を生じた。これらの症状は半年前後で改善していく。4%の患者には挿入術後数日して尿閉が生じ、尿道カテーテルを必要とした。直腸の急性合併症は少ないが、便通ひっ迫、直腸・肛門痛を生じることがある。晩期合併症として、放射線膀胱炎、尿失禁、尿道狭窄が稀にあると報告されている。直腸潰瘍は少数の患者に生じるが、外照射に比べ消化器症状は少ない。
 計画や手技の熟練が重要であり、経験とともに結果が向上するという明らかな学習曲線が存在する(図6)。


図6 前立腺に十分な線量が投与されたかを示す値(V100(%))を20名ごとの平均値を治療した順に示した。熟練とともに数値が明らかに改善しており、経験による学習効果が存在していることがわかる(原論文2参照)。



コメント    :
 関係者の強い熱意の下、安全管理に関するガイドラインが日本への新しい線源が導入される前に作成された。泌尿器科、放射線科医師・技師、物理士、看護師、メーカー、日本アイソトープ協会、各省庁が協力して慎重に準備した上で日本初のシード治療が2003年9月に開始された。泌尿器科や患者の間でも大変注目され、放射線科医の予想を上回り国内に普及する勢いである。しかし、あくまで米国で開発された治療であり、日本人の解剖学的体型や前立腺癌の生物学的特徴に合わせた治療技術として新たに確立し、日本においても有効性をきちんと調査する必要がある。

原論文1 Data source 1:
前立腺癌の小線源治療 
萬 篤憲
東京医療センター放射線科
日本医学放射線学会雑誌 65巻87−91頁 2005年5月号

原論文2 Data source 2:
I-125シード永久挿入小線源治療 
萬 篤憲
東京医療センター放射線科
臨床放射線 50巻619−624頁 2005年5月号

参考資料1 Reference 1:
Acute urinary morbidity following I-125 prostate brachytherapy 
T.Ohashi, A.Yorozu, K.Toya, S.Saito, T.Momma
東京医療センター放射線科
Int. J. Clin. Oncol. 10:262-268, 2005

参考資料2 Reference 2:
前立腺密封小線源療法におけるI-125シード線源の肺塞栓 
深田淳一
東京医療センター放射線科
日本医学放射線学会雑誌 65巻121−123頁 2005年5月号

参考資料3 Reference 3:
前立腺永久挿入密封小線源治療におけるI-125シード線源の脱落と回収 
萬 篤憲
東京医療センター放射線科
日本医学放射線学会雑誌 65巻263−265頁 2005年7月号

キーワード:放射線治療 radiotherapy
分類コード:030203

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