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作成: 2006/03/23 木村浩彦

データ番号   :030280
3テスラMRIの新しい臨床応用
目的      :高磁場MRIの臨床応用
応用分野    :医学、MRI診断

概要      :
 3.0T-MRIは磁場強度の上昇によりS/N比が改善し、多断面化、高分解能化が得られる。機能検査への応用として、functional MRI、Voxel(立体画素) Based Morphometry(VBM)の応用、Perfusion MR、DTI (diffusion tensor imaging) and Fiber tracking、MR Spectroscopyの臨床への応用とそれぞれについて高磁場の利点をいかした最近の展開を紹介した。これらは近い将来に日常的な臨床検査となっていくと考えられる。
参考データ
030132 functional MRIによる局所脳機能解析
030174 MRIによる脳腫瘍の診断

詳細説明    :
 
Functional MRI
 
 神経細胞の活動をそれにともなう代謝変化で画像化するのがBrain activation(脳賦活試験)である。神経細胞の活動に伴う血流の上昇は局所での還元-ヘモグロビンの量の相対的低下を生じ、磁化率効果が相対的に小さい酸素化ヘモグロビンのため賦活化された脳局所のMR信号の上昇が得られる(BOLD効果;参考資料1)。臨床的にも一部施設では、脳外科手術前に運動野の同定や言語優位半球の同定などに利用されつつある。高磁場のMR撮像装置では磁化率効果が大きくなるため上記のBOLD効果を高感度で捕らえることが可能となる。図1は、左右の指の運動を行うことで運動野の同定を試みた結果である。現在はMR撮像装置のオペレータコンソール上で結果を確認しながら行うことができ、臨床への対応もすぐに行える状態となっている。


図1 脳賦活試験による1次運動野の同定の例
被検者に両手の把握運動を繰り返したときの脳賦活部位が茶色でオーバーレイされている。両側の中心溝前回が賦活していることが確認できる。図は、Signa 3.0T excite-HD (GE, USA Milwaukee WI) コンソール上のbrain wave オプションを用いた。

MRIによる画像統計解析法の利用
 
 3.0T-MRIの優れた感度により、通常のT1画像でも脳全体を1mm程度のvoxel dataとして得ることが可能となっている。このdataを積極的に利用して脳の容積変化をvoxel単位で統計解析を行うことが可能となっている。例えばMRIによるアルツハイマー型の痴呆の診断で、海馬、海馬傍回の委縮の視覚的評価にかわり、各個人の脳の形態情報を標準化したうえで、正常人の標準的な脳の形状の平均と比較し、voxel単位で統計処理を行うのである(参考資料2)。図2は、アルツハイマー型痴呆症の疑いのある症例に対してVBM(Voxel Based Morphometry)のソフトVSRADを利用した結果である。左の海馬領域の委縮が特に強いことが示唆されている結果である。このようにVBMを行うための形態情報を臨床検査の時間内に収集でき、あらたな臨床応用の展開が期待されている。


図2 3.0T-MRIデータを基にVBM(Voxel based Morphometry)解析ソフトVSRADにて解析した結果の例
左の海馬領域が統計的に確度の高い委縮を呈することを示している。同部は、Zスコアで6.0付近の値となっている。下段にスケールを示す。

Perfusion MRI
 
 通常脳の血流を計測するのには血管内にトレーサーを投与し脳を通過する際のトレーサーの濃度変化から血流量を評価する。MRには造影剤を全く使用せず、血管内の水の磁化状態を造影剤代わりに利用する方法がある。arterial spin labeling(ASL)法と呼んでいる。脳内に流入するプロトンのスピンを反転させることでMR信号が血流量の多寡により変化する。このMR信号変化をperfusion weighted imagesとするのである(参考資料3、4)。 図3にこの手法によるperfusion画像の例を示す。3.0TではS/N比の向上とともに、T1の延長によるラベル効率の上昇も加わり、perfusion信号が大きくなる。画質の向上が得られ臨床的利用が期待されている。


図3 スピンラベル法による潅流画像
4分程度の収集時間で相対的perfusion画像が得られる。上段、下段は、それぞれEPI画像、3.0T-ASL法によるperfusion画像。3.0T-ASL法では、画像の分解能(128x128)、S/N比が向上し、全脳をカバーできるようになっている。

DTI and fibertractography
 
 MR信号は生体では水分子のプロトン由来の信号が主体である。MR信号を収集する際に水の拡散方向に依存して信号強度をコントロールすることが可能である(拡散強調画像)。水の拡散能に制限がある場合を不等方性拡散(anisotropy)と呼ぶ。脳ではこの拡散のanisotropyの最も大きな成因となるのが軸索であることが経験的にも知られている。つまり、神経線維である軸索は多数の支持細胞(神経膠、グリア細胞)によりミエリン梢を形成しているため、神経線維に沿う方向には水の拡散能が保たれ、線維に直交する方向には水拡散が大きく制限されるのである。多方向のMR信号の拡散強調画像を撮像することで、逆にこのanisotropyの方向を求め神経線維の走行解析に利用することが可能となる。解析の手法に数学的にテンソル解析を利用するため、これらの画像解析法を総称して拡散テンソル画像法(Diffusion Tensor Imaging)と称する。画像断面上に軸索の方向性を加味して描出する拡散カラーマップと軸索そのものの方向を追跡して描出するトラクトグラフィー(参考資料5,6)がある(図4参照)。


図4 拡散カラーマップと拡散トラクトグラフイー
カラーマップは、繊維の走行を左右が赤、前後が緑、上下が青で表示している。左右に走る脳梁は赤、上方に走行する内包後脚が緑表示されてる。
拡散トラクトグラフィーでは錐体路が描かれている。橋の錐体路を開始点とし頭頂葉の中心回付近の白質に向かう繊維を描出させたもの(参考資料5)。(東大医学部附属病院放射線科画像情報処理・解析研究室において開発されたMR拡散テンソル解析ソフトウェア「dTV」によるものである。「dTV」は、次のURLから入手可能である。
http://www.ut-radiology.umin.jp/people/masutani/dTV.htm
現在は、MRI(Signa Excite-HD, GE)のオペレーションコンソール上で利用できる。)

MR Spectroscopy
 
 脳から得られるMR信号には水のプロトン由来と水以外のプロトン由来の信号がある。アミノ酸などの代謝産物由来の信号は水の10000分の1程度であり画像化は困難である。通常は目的とするプロトンの化学シフトが異なることを利用し、MR信号を周波数軸に展開して見るのがMRスペクトロスコピーである。脳の代謝産物、Creatine、Choline containing compound(Cho)、NAAなどの変化を捉えることが可能である。図5は正常脳より得られたスペクトルである。グルタミン酸(Glu)は、神経伝達物質や、神経伝達物質の前駆物質として脳内に分布しており、肝性脳症、統合失調症、虚血、アルツハイマー病など、いくつかの病態でこれらの代謝変化がすでに報告されている。3.0T以上の高磁場となると、さらに抑制系神経伝達物質とされている、GABAを特に評価することも可能である(参考資料7)。図5は、正常人脳の灰白質より得られたGABA editingによる3.0T-MRスペクトルである。Glu/Glnと同時にGABA由来のピークを確認できる。


図5 MRスペクトルスコピーにより後頭葉の皮質部のVOI(□部分)より得られたスペクトル
脳の主な代謝産物のピーク、Cho、Cr、NAAのピークが確認できる(左スペクトル)。MEGA-pressの手法によりGlu/Glnの領域に一致してGlu/Gln、GABAのピークを確認できる(右のスペクトル)。



コメント    :
 3.0T-MRI装置は臨床機器として、いままで以上にS/N比の良い形態的画像を提供するにとどまらず、機能画像検査としての可能性を広げるものである。形態検査と機能検査を一度に施行可能な、いわゆるone stop shopとしての役割を発展させてゆくものと考えられる。

原論文1 Data source 1:
MRI機器−最近の進歩:新しい利用法とその展開−
木村浩彦
福井大学医学部放射線医学
医薬ジャーナル 10月号、巻頭連載企画、画像診断ABC:機器の進歩とその利用(6)

原論文2 Data source 2:
痴呆性疾患の治療をめぐる新たなアプローチ:画像診断ソフトの開発―MRI−
松田博史
埼玉医科大学国際医療センター
CLINICIAN 2005. No 537, pp.160-168

参考資料1 Reference 1:
Brain magnetic resonance imaging with contrast dependent on blood oxygenation
Ogawa S, Lee TM, Kay AR, Tank DW.
Proc Natl Acad Sci USA. 1990: 87(24);9868-9872

参考資料2 Reference 2:
Longitudinal evaluation of both morphologic and functional changes in the same individuals with Alzheimer's disease
Matsuda H, Kitayama N, Ohnishi T, et.al.
J Nucl Med 2002: 43;304-311

参考資料3 Reference 3:
Multisection cerebral blood flow MR imaging with continuous arterial spin labeling.
Alsop DC, Detre JA.
Radiology 1998: 208;410-416

参考資料4 Reference 4:
Perfusion imaging: with special reference to continuous arterial spin labeling. Multisection cerebral blood flow MR imaging with continuous arterial spin labeling
木村浩彦、他
福井大学医学部放射線医学
Nippon Igaku Hoshasen Gakkai Zasshi 2003: 63 (5 Suppl):13-17

参考資料5 Reference 5:
Three-dimensional tracking of axonal projections in the brain by magnetic resonance imaging.
Mori S, Crain BJ, Chacko VP, van Zijl PC.
Ann Neurol 1999: 45;265-269

参考資料6 Reference 6:
MR Diffusion Tensor Imaging: Recent Advance and New Techniques for Diffusion Tensor Visualization
Matsutani Y., et al.
東大医学部附属病院放射線科画像情報処理・解析研究室
European J of Radiology 2003: 46;53-66

参考資料7 Reference 7:
Simultaneous in vivo spectral editing and water suppression.
Mescher M, Merkle H, Kirsch J, Garwood M, Gruetter R.
NMR Biomed 1998: 11;266-72.

キーワード:脳賦活検査、画像統計解析法、潅流画像、スピンラベル法、拡散テンソル画像、拡散トラクトグラフィー、MR スペクトルスコピー、GABA編集スペクトル
functional MRI, Boxel Based Morphometry (VBM), perfusion images, Arterial Spin Labeling(ASL), diffusion tensor imaging, diffusion fiber tractography, MR spectroscopy, GABA editing
分類コード:030106

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