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作成: 2006/04/01 小池 泉、井上 登美夫

データ番号   :030277
PET-CTによるがん診断
目的      :PET-CTを用いたがんの画像診断
放射線の種別  :ガンマ線、エックス線、陽電子
放射線源    :18F標識デオキシグルコース、エックス線
応用分野    :医学、診断、治療

概要      :
 陽電子断層撮影(positron emission tomography、PET)装置とコンピューター断層撮影(computed tomography、CT)装置とが一体化したPET-CT装置は、本邦でも急速に普及している。形態情報と機能情報をほぼ同時に得ることができ、より精度の高い画像診断が可能になる。こうした特徴から、主としてがん診断領域で使用されている。

詳細説明    :
 がんなどの悪性腫瘍診断に関するPET-CT検査では、主として放射性薬剤には18F(フッ素)標識デオキシグルコース(2-[18F]fluoro-2-deoxy-D-glucose、FDG)を用いる。FDG PET-CTが医療に貢献することとして、従来のPETに対する検査時間の短縮化、診断能の向上、正確な位置情報の獲得、などがあげられる。下記に概説する。
 
装置の概要
 各社のPET-CT装置では、PETにおける検出器の種類やデータ収集モード、CTにおける検出器の列数などで違いがあり、それぞれの特徴を有する。図1に筆者らの施設で用いている東芝メディカルシステムズ社製PET-CT装置AquiduoTMを示す。PETの検出器クリスタルにはLSO(lutetium oxyorthosilicate)、3D収集法を採用し、CTには16列のmultidetector-row CTを搭載している。また、現在本邦で薬事承認されているPET-CT装置のなかで、東芝メディカルシステムズ社製AquiduoTMは唯一ガントリー移動式を採用している。PETおよびCTのガントリー部分が移動し、データ収集を行うのである。他社装置は、寝台や天板が移動する方式である。
 


図1 東芝メディカルシステムズ社製PET-CT装置

 
 データ収集は、CTデータを得た後、PETのエミッションスキャンを行う。従来のPETで行われている外部線源を用いたトランスミッションスキャンは、吸収補正用のデータにCTデータを用いることで、省略可能である。これらにより、検査時間の大幅な短縮が達成され、患者負担の軽減や検査数の増加につながることになる。
 
がん診断における有用性
 肺がんにおける病巣の広がり診断では、PET-CTによる正診率は、PETとCTとの対比診断に比べて高いという報告がある(原論文1)。
 図2に非小細胞性肺がんのPET-CT画像を示す。


図2 PET-CT融合画像(横断像)

 CT画像単独では、無気肺部分と腫瘍領域との境界がわかりにくい。一方、PET画像においては炎症病巣と腫瘍領域とのあいだでFDG集積の程度に違いが認められる。このため、PET-CT画像を利用することで、腫瘍の存在範囲の推測が可能となる。
 また、PET、CT、各々単独では見落とす病変があるため、融合画像を用いた診断をすることにより、肺がん以外の診断においても、感度や正診率などの向上につながる。悪性リンパ腫の病期診断においては、260人の患者を対象にした検討で、PET-CT検査における正診率は84%を示し、PETとCTとの見比べ診断やPET単独、CT単独での診断に比べて有意差をもって高かったという報告がある(原論文2)。
 さらに、FDGの正常臓器や組織に対する生理的集積に関しても、頭頸部領域での正常扁桃や筋肉などへの集積や、頸部から椎体の周囲の領域に多いとされる褐色脂肪への集積の診断が、PET-CTではより簡便にできる。
 こうして、形態的に異常な構造物の内部におけるFDG集積の状況を検討することでより正確な病変の位置情報が得られ、この部位の生検や放射線治療をする際に、有用な情報を得ることが可能である。PET-CT検査は、PETとCTを各々単独で検査する場合に比べ、一体型装置による検査という利点を活かし、形態画像と機能画像との高精度な融合画像を得られるという大きな特徴を示すのである。
 このほか、CTのデータを吸収補正に用いるため、従来のPET検査で外部線源を利用した場合に比べて検査時間の短縮が可能という利点がある。これは、患者負担の軽減や、限られた時間内での検査件数の増加につながる。加えて、撮影条件や静注用造影剤の使用によって、さらに多くの患者に関する情報を得られる可能性が高まる。このため、PET-CTを従来の画像検査に先行して施行する、PET-CTを行うことで従来の画像検査が省略可能になる、といった方向性もこれから示されるかもしれない。
 
がん診断における注意点
 糖代謝のトレーサーであるFDGをもちいる場合は、従来のFDG PET診断と同様に、炎症性病巣や良性腫瘍に対する集積があることや、逆に一部の悪性腫瘍に対してはFDG集積がみられにくいことを念頭に置く必要がある。
また、PET-CT特有の現象として、吸収補正に関するアーチファクトがあげられる。CTデータを吸収補正に利用する場合に、体内金属や高濃度造影剤などのCTにて高吸収域となる領域において、吸収補正後のPET画像で高集積域が発生するものである(原論文3および4)。吸収補正前のPET画像を参照することで読影の誤りは予防でき、一部の機種においては、ソフトウェアの改良ですでに軽減されている。
このほか、PET-CTの撮影条件によっては、上肢や呼吸運動に関するアーチファクトが生じることがある。しかし、こうした偽像に関する正確な知識があれば、多くは問題にならない。


図3 PET-CT融合画像(冠状断像、正常例)

 PET-CTの画像診断を行うにあたっては、図3に示す融合画像のみならず、PET、CT、各々の画像の読影も必要である。CT読影の際にはCT値の表示範囲を部位に応じて変更させ、見落としを防ぐ必要がある。CT撮影時の電流は、検査目的や検査被曝を考慮して変動するはずである。これはCT画像の質にも影響をおよぼす。
 
 本邦では、がん検診目的でFDG PET検査が行われることも多く、そのガイドラインも作成されているが、がんによる死亡率減少に寄与するかどうかなど、今後検証すべき課題があることも事実である(原論文5)。
今後普及すると予想されるPET-CTがん検診に関しても、精度評価に基づく標準化やがん腫別の死亡率減少効果の評価が必要である。

コメント    :
 2003年12月、PET-CT装置の初の薬事承認が我が国で得られた。2006年4月には、PET-CTによるがん診断が診療報酬収載さた。今後ますます、装置台数や検査件数の増加が予想される。PET-CTの有用性については、諸外国から多くの報告がある。我が国においても、病期診断や再発診断などのがん診断におけるPET-CTの有効利用法について検討する必要がある。

原論文1 Data source 1:
Staging of non-small-cell lung cancer with integrated positron-emission tomography and computed tomography
Lardinois D et al.
Switzerland
New England Journal of Medicine: 348,2500-2507,2003

原論文2 Data source 2:
Accuracy of whole-body dual-modality fluorine-18-2-fluoro-2-deoxy-D-glucose positron emission tomography and computed tomography (FDG-PET/CT) for tumor staging in solid tumors: comparison with CT and PET
Antoch G et al.
Germany
Journal of Clinical Oncology: 22, 4357-4368, 2004

原論文3 Data source 3:
Head and neck imaging with PET and PET/CT: artifacts from dental metallic implants
Gerhard W. Goerres et al.
Switzerland
European Journal of Nuclear Medicine: Vol.29, No.3, 367-370, 2002

原論文4 Data source 4:
Focal Tracer Uptake: A Potential Artifact in Contrast-Enhanced Dual-Modality PET/CT Scans
Gerald Antoch et al.
Germany
Journal of Nuclear Medicine: 43: 1339-1342, 2002

原論文5 Data source 5:
PET and cancer screening
Seiei Yasuda and Michiru Ide*
Tokai University School of Medicine
*HIMEDIC Imaging Center at Lake Yamanaka
Annuals of Nuclear Medicine: Vol.19, No.3, 167-177, 2005

キーワード:陽電子断層撮影、フッ素標識デオキシグルコース、核医学、コンピューター断層撮影、がん画像、画像診断 、一体型PET/CT装置、融合画像
positron emission tomography, 18F-deoxy-glucose, nuclear medicine, computed tomography, cancer imaging, diagnostic imaging, PET-CT scanner
分類コード:030102, 030301

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