てんかん診断用放射性医薬品：イオマゼニル(I-123)注射液

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作成： 2004/10/01 鷲野弘明データ番号　　　：030269 てんかん診断用放射性医薬品：イオマゼニル(I-123)注射液目的　　　　　　：イオマゼニル(¹²³I)注射液の特徴の説明放射線の種別　　：最大3個まで、半角で) 04 概要　　　　　　：イオマゼニル(¹²³I)注射液(以下本剤)は、脳の神経細胞に分布する中枢性ベンゾジアゼピン受容体(BZR)に高い親和性で結合する¹²³I-イオマゼニルを有効成分とする。本剤を静脈内投与し3時間後に頭部をSPECT装置で撮像することによって、脳の中枢性BZR分布を示す画像が得られる。中枢性BZRはてんかん焦点において減少することが知られている。抗てんかん薬治療で発作抑制が困難な難治性部分てんかん患者では、外科的治療の適応判定や術式・切除部位決定のためにてんかん焦点の同定が必要だが、従来の診断法ではしばしば困難であった。本剤は、こうした患者におけるてんかん焦点の検出及び手術適応の判定に役立つ。詳細説明　　　　： 1. てんかんの病態とベンゾジアゼピン受容体　てんかんとは、中枢神経系神経細胞の同期的で過剰な神経活動により、発作症状が慢性的に反復出現する神経疾患である。国際分類では、発作型から「全般てんかん」と「部分てんかん」に、原因から「特発性てんかん」と「症候性てんかん」に類型化される。このうち、特発性全般てんかんは、遺伝的素因が関与し小児期に発症するが、予後は良好な場合が多い。一方、症候性部分てんかんは、腫瘍・外傷・神経変性・神経発達障害・脳血管障害など多様な器質的病因を有し、一般に治療抵抗性で難治である。　てんかんの病態には、シナプスにおける神経伝達障害があると想定される。即ち、①興奮性シナプス伝達の亢進、②抑制性シナプス伝達の減弱、③イオンチャンネルの異常による細胞興奮性の増大、の三者が関与し、神経活動が興奮優位となって発作反射が引き起こされる。　抑制性シナプス伝達は、γ-アミノ酪酸(GABA)受容体が担っており、ベンゾジアゼピン受容体(BZR)はこのGABA受容体及びCl-チャンネルと高分子複合体を形成している(図1参照)。GABA/BZR複合体は、α、β、γ等５つのサブユニット蛋白質で構成され、αサブユニット上に存在するBZRは、βサブユニット上に存在するGABA受容体の作用を増強する、即ち、Cl-の細胞内流入を促進して神経細胞膜を過分極状態にし、神経活動を抑制する。　図1　GABA/BZR複合体の構造及びてんかんにおけるシナプス伝達の異常を示した模式図（原論文1より引用）　　BZRは、神経細胞膜に存在する中枢型(ω1、ω2)とグリア細胞等のミトコンドリアに存在する抹消型(ω3)に分類される。BZRに対する特異的作動薬が臨床的に抗けいれん作用を有するため、中枢性BZRとてんかん発生機序との関連が古くから推定されてきた。なお、ここで紹介する¹²³I-イオマゼニルは、中枢性BZRに特異的に結合する。　 2. イオマゼニル(¹²³I)注射液 (1) 注射液の組成　本剤は、シリンジ型ガラスバイアルに充填された水性の注射液で、¹²³Iをethyl5,6-dihydro-7-iodo(¹²³I)-5-methyl-6-oxo-4H-imidazo[1,5-a][1,4]benzodiazepine-3-carboxylate(¹²³I-イオマゼニル)の形で含む。¹²³I-イオマゼニルの化学構造は図2に、注射液の組成や特徴は表1に示した。　図2　¹²³I-イオマゼニルの化学構造（原論文1より引用）表1　イオマゼニル(¹²³I)注射液の組成液量（原論文1より引用）液量 1.5ml イオマゼニル(¹²³I) 　　　放射能　　　イオマゼニル量 111MBq/ml(¹²³Iとして検定日時において) 0.5μg/ml 添加物　　　アスコルビン酸　10mg/ml 生理食塩液、pH調整剤2成分外観（性状）無色澄明の液 PH 4.8～5.2 浸透圧比約1（生理食塩液に対する比）　　¹²³I-イオマゼニルのヨウ素-123は、159keVのγ線を放出するためシンチグラムを描くのに適しており、また物理的半減期(13.2時間)が短くβ線を放出しないので被検者の被ばくが少ないという利点を有している。　 (2) 効能又は効果　外科的治療が考慮される部分てんかん患者におけるてんかん焦点の診断。　 (3) 用法及び用量　通常、成人には本剤167MBqを静脈内投与し、投与後3時間に頭部のシンチグラムを得る。投与量は、年齢・体重により適宜増減するが、最大222MBqまでとする。　 (4) 薬効薬理　中枢性ベンゾジアゼピン受容体は、抑制性神経伝達の主要な部分を担うGABA受容体と複合体を形成し、神経細胞膜に存在する。中枢性BZRは、てんかん発作の原因となるてんかん焦点ではその分布密度が減少しており、てんかん発作の病態との関連が示唆されている。　¹²³I-イオマゼニルは、中枢性BZRに高い親和性をもって選択的に結合し、逆作動薬様の活性を有する。本剤投与後3時間に撮像した脳SPECT像は、中枢性BZRに結合した本剤の分布を反映しており、本剤を用いた検査により局所脳内中枢性BZR分布を評価できる。　 (5) 体内薬物動態　第I相臨床試験において健常成人男性6例に¹²³I-イオマゼニル111MBqを静脈内投与し、シンチレーションカメラを用いて脳SPECT像及び全身像を撮像した。得られた画像に関心領域を設定することにより、脳及び主要臓器における放射能分布量を測定した。　本剤の全脳への分布は、投与後10～20分でピーク(11.7±1.6%投与量)を示し、それ以降は60～70分／10.6±1.1%投与量、110～120分／9.0±0.9%投与量、180～210分／6.6±0.5%投与量、375～405分／2.9±0.3%投与量と徐々に減少した。腹部(腸管及び腹部軟部組織)の放射能分布は、投与後3、6、24時間でそれぞれ3.7±0.4%投与量、3.1±0.4%投与量、2.1±0.5%投与量であった。脳以外の臓器への著明な放射能分布は見られず、主要排泄経路は腎・尿路系であり、投与後24時間で93%が尿中へ排泄された。本剤は肝臓で代謝を受け、主な代謝物はイオマゼニルの脱エステル体、脱エステル体のグルクロン酸抱合体と推定される成分及び遊離のヨウ素イオン(¹²³I-)であった。　　健常人における本剤投与後の脳内分布を図3に示す。大脳皮質及び深部灰白質にまず強い集積が見られ、この分布は局所脳血流量の影響を大きく受けると考えられた。その後の消失は脳の各領域によって異なり、大脳皮質・小脳及び基底核の順に緩徐となり、橋では投与直後から速やかに消失した。白質の放射能分布は常に低く、投与後2～3時間では一定であった。投与後2～3時間以降の脳内放射能分布を見ると、大脳皮質では終始後頭葉の集積が高く、次いで側頭葉、前頭葉、頭頂葉の順であった。この結果は、死後脳における中枢性BZRの局所脳内分布に類似し、本剤が特異的に脳内中枢性BZRに結合することを示唆するものと考えられる。　図3　健常人における¹²³I-イオマゼニルの脳SPECT像（原論文2より引用）　 3. ¹²³I-イオマゼニルによる部分てんかん診断の例 (1)右側頭葉てんかん：内側側頭葉の硬化　内側側頭葉てんかんは、代表的な難治てんかんである。図4の患者(25歳男性、発症年齢8歳)は、自律神経性の単純部分発作と自動症を伴う複雑部分てんかん発作が難治に経過した側頭葉てんかん症例である。この患者は、発作間欠期の脳波では右前側頭部に棘徐波を認め、蝶形骨誘導を用いた発作時記録から右蝶形骨誘導部に起始し終始右側頭葉に限局する発作発射が捕捉された。図4-a:MRI像では、右海馬の萎縮とT2高信号を認めた。¹²³I-イオマゼニルSPECT像(図4-b:IMZ-SPECT)では、右側頭葉内側部(矢印)を中心に底部から外側皮質にかけて低集積領域を認め、中枢性BZRの減少が明らかとなった。発作間欠期の脳血流SPECT像(図4-c:IMP-SPECT/INTERICTAL)では異常を認めず、発作時脳血流SPECT像(図4-d:IMP-SPECT/ICTAL)では右側頭葉に高血流領域を認めた。　図4　右側頭葉てんかん患者の例(原論文3より一部改変の上引用) 　　以上の結果から、右側頭葉、特に内側にてんかん原性焦点を有することが明らかとなったため、右側頭葉前部の切除を施行した。摘出標本の病理学的検索から、海馬CA1とCA4の著明な神経細胞脱落を示す硬化所見が確認された。¹²⁵I標識イオマゼニルを用いた摘出標本のオートラジオグラフィー所見では、神経細胞脱落部位に対応するイオマゼニル集積低下や欠損を認め、術前の本剤SPECT所見と一致した。なお、この患者は手術後3年経過し、その間発作は消失している。　 (2)左前頭葉てんかん：皮質形成異常　皮質形成異常は、側頭葉以外の新皮質てんかんの中で最も頻度が高く、難治の場合が多い。図5の患者(26歳男性、発症年齢14歳)は、日に数回の姿勢発作が出現し難治に経過した前頭葉てんかん症例である。この患者は、頭皮脳波では発作間欠期に左前頭部の棘波を認め、発作時には起始部位不明で左前頭部に優勢な発作反射を認めた。図5-a:MRI像では、明らかな異常は認められなかった。¹²³I-イオマゼニルSPECT像(図5-b:IMZ-SPECT)では、左前頭葉の前運動野(矢印)に集積欠如を伴う著明な低集積領域を認めた。発作間欠期の脳血流SPECT像(図5-c:IMP-SPECT/INTERICTAL)では左前頭葉の前運動野に軽度の低血流領域を認め、発作時脳血流SPECT像(図5-d:IMP-SPECT/ICTAL)では左前頭葉の前運動野に高血流領域を認めた。　図5　左前頭葉てんかん患者の例(原論文3より一部改変の上引用) 　　この患者の頭蓋内脳波記録により、左前運動野に起始する発作発射が確認されたため、同部位の切除を行った。切除標本の病理学的検索では、grade 2の皮質形成異常が認められた。¹²⁵I標識イオマゼニルを用いた摘出標本のオートラジオグラフィー所見では、病変部の形成異常に応じた中枢性BZRの減少を認め、術前の本剤SPECT像において著明な集積低下所見を裏付けた。なお、この患者は手術後4年経過し、発作は消失している。　 4. イオマゼニル(¹²³I)注射液の副作用　追加第3相臨床試験において80例中13例(16.3%)14件の副作用が認められた。主な副作用は、嗅覚錯誤6件(7.6%)、注射部位等の疼痛3件(3.8%)等であった。また、主な臨床検査値異常としては、尿pH上昇9件(11.3%)、好中球百分率減少3件(3.8%)、血中カルシウム減少2件(2.5%)等が認められた(承認時)。原論文１ Data source 1：ベンゾダイン注シンチグラム集－放射性医薬品基準イオマゼニル(¹²³I)注射液－日本メジフィジックス株式会社 2004年8月(SC-0408-G04) 原論文２ Data source 2：中枢性ベンゾジアゼピン受容体イメージング剤¹²³I-イオマゼニルの第１相臨床試験米倉義晴^*、西澤貞彦^*^*、田中冨美子^*^*、石津浩一^*^*、岡沢秀彦^*^*、藤田透^*^*、小西淳二^*^*、鳥塚莞爾^*^*^* ^*京都大学医学部脳病態生理学講座 ^*^*京都大学医学部放射線医学科 ^*^*^*福井医科大学核医学、1995; 32: 87-97 原論文３ Data source 3：製品情報概要「ベンゾダイン注－放射性医薬品基準イオマゼニル(¹²³I)注射液－」日本メジフィジックス株式会社 2004年6月(SJG 0406-G10) 原論文４ Data source 4：難治部分てんかん脳における中枢性ベンゾジアゼピン受容体の定量的解析土井俊明、松田一巳、三原忠　、八木和一、清野昌一絋国立療養所静岡東病院てんかん研究、1998; 16: 117-126 参考資料１ Reference 1： Quantitative analysis of benzodiazepine receptor in temporal lobe epilepsy: [(125)I]iomazenil autoradiographic study of surgically resected specimens. Sata Y, Matsuda K, Mihara T, Aihara M, Yagi K & Yonekura Y National Epilepsy Center, Shizuoka Medical Institute of Neurological Disorders, Shizuoka, Japan Epilepsia, 43, 1039-48 (2002) 参考資料２ Reference 2： Extracellular hippocampal glutamate and spontaneous seizure in the conscious human brain. During MJ & Spencer DD. Department of surgery, Yale University School of Medicine, New Haven, CT 06510 USA Lancet, 341(8861),1607-10 (1993) 参考資料３ Reference 3： Delayed image of iodine-123 iomazenil as a relative map of benzodiazepine receptor binding: the optimal scan time. Onishi Y¹, Yonekura Y², Tanaka F³, Nishizawa S³, Okazawa H³, Ishizu K³, Fujita T³, Konishi J³ & Mukai T⁴. ¹: Nihon Medi-Physics Co Ltd, Nishinomiya, Japan ²: Fukui Medical School, Fukui, Japan ³: Kyoto University School of Medicine, Kyoto, Japan ⁴: Kyoto College of Medical Technology, Kyoto, Japan Eur J Nucl Med, 23, 1491-1497 (1996) キーワード：画像診断, 放射性医薬品, ¹²³I-イオマゼニル, 脳, 神経細胞, シナプス, GABA受容体, 中枢性ベンゾジアゼピン受容体,てんかん, 難治部分てんかん diagnostic imaging, radiopharmaceutical, ¹²³I-iomazenil, brain, neuron, synapse, GABA receptor, central-type benzodiazepine receptor, epilepsy, refractory partial epilepsy 分類コード：030502, 030301, 030403
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液量	1.5ml
イオマゼニル(¹²³I) 　　　放射能　　　イオマゼニル量	111MBq/ml(¹²³Iとして検定日時において) 0.5μg/ml
添加物	アスコルビン酸　10mg/ml 生理食塩液、pH調整剤2成分
外観（性状）	無色澄明の液
PH	4.8～5.2
浸透圧比	約1（生理食塩液に対する比）