放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2004/11/1 伊丹純

データ番号   :030268
上顎がんの放射線治療
目的      :上顎がんの放射線治療 
放射線の種別  :エックス線,電子
放射線源    : 
フルエンス(率): 
線量(率)   : 
利用施設名   : 
照射条件    : 
応用分野    :医学、治療 

概要      :
上顎がんの治療は顔面変形を伴うことが多く、可能であれば手術侵襲を最低限にとどめ、放射線治療や化学療法を活用して局所制御を得るべきである。中枢神経系や眼という放射線感受性の高い臓器もあり、腫瘍部への線量を維持しながらこれらの臓器の線量を耐容線量以内におさえるためには今後強度変調放射線治療などの果たす役割に期待される。

詳細説明    :
上顎がんは上顎洞をおおう粘膜上皮から発生し、その大部分を扁平上皮がんが占め、ついで小唾液腺由来の腺様嚢胞がんなどが見られる。上顎洞粘膜は直下に上顎骨という顔面骨構造を有するために、外科的治療は時に眼球摘出や顔面欠損などの重大な術後障害を残し、通常の意味での根本的切除は難しいことが多い。頸部リンパ節転移の発生は進行期の症例に限られるため、頸部リンパ節転移が存在しない場合、頸部への予防的治療は施行されないことが多い。
また、上顎がんの治療には外科的治療が中心をなすことに異論はないものの、放射線治療の併用の方法(術前照射vs.術後照射)、化学療法併用の方法(浅側頭動脈からの動注vs.全身化学療法)などについては施設ごとに考え方がことなるのが現状である。腫瘍部位を余裕をもって切除し、術後照射を併用するという保存的な治療が用いることが多い。そのような治療で腫瘍制御が得られない場合、上顎全摘出などの拡大手術が施行される。
 
上顎がんの病期分類
TX 原発巣が評価不能
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 上皮内がん
T1 上顎洞粘膜に限局し、骨吸収も骨破壊も認めない
T2 上顎洞後壁を除く骨の吸収あるいは破壊、硬口蓋および/あるいは中鼻道への浸潤している腫瘍
T3 次の部位へ浸潤している腫瘍:上顎洞後壁、皮下組織、頬部皮膚、眼窩底あるいは内側壁、側頭下窩、翼状突起、篩骨洞
T4 眼窩底あるいは眼窩先端を含む眼窩内側壁を越えて眼窩内容に浸潤している。および/あるいは次のいずれかに浸潤している腫瘍:篩骨、頭蓋底、上咽頭、蝶形骨洞、前頭洞
 
放射線治療の方法
上顎洞の下方に発生したがんでは、口腔側より骨とともに腫瘍を切除し、上顎洞腔を口腔へ開放する。その際、鼻腔外側壁も切除することが多い(Caldwell-Luc手術)。術後に前方と側方からの直交2門照射を行う(図1、図2)。その際楔状フィルタを用いることによって標的内の線量分布を均一化する。病側および健側のレンズ、網膜の被曝に対しては適切な遮蔽を用いる。また開口して舌を下方に圧排するような器具をくわえさせることにより口腔の被曝を抑える工夫をする。
上顎洞上方に発生したがんや、下方に発生しても上方に発育したがんでは、Caldwel-Luc手術を拡大して上方腫瘍も可及的に切除する。眼窩底を破壊し、眼窩内容に伸展した症例では、残念ながら眼摘出が必要になることが多い。術後に直交2門の照射が施行されるが、眼ブロックを置くことにより鼻上方や篩骨前方が低線量になるためこの部位には前方より適切なエネルギーの電子線照射を行う。1回2Gy週5日法で50Gy照射後、断端陽性の部位に絞って外部照射を追加し総線量60-66Gyとするか、適切なアプリケータ配置が可能なら、断端陽性部に腔内照射を行う。


図1 前方および左方からのX線直交2門照射野。左眼窩をマルチリーフコリメータで遮蔽している。線量が低下する鼻根部前方は前方1門の電子線照射を行う。



図2 9MeV電子線照射と6MVX線照射野を組み合わせた線量分布。鼻腔上部、前篩骨洞にも充分な線量分布が得られている。

治療成績はT3症例でも50%以上の5年生存が得られるようになって来ている。
有害事象としては、急性有害事象としては口腔粘膜炎があり、特に化学療法と同時併用の際に強くなる。慢性有害事象としては、白内障、網膜障害による視力喪失、脳壊死などがある。網膜や中枢神経の線量を50Gy以下にとどめる工夫が重要であり、今後強度変調放射線治療などが重要な位置をしめてくると思われる。

コメント    :
  

原論文1 Data source 1:


原論文2 Data source 2:


原論文3 Data source 3:


参考資料1 Reference 1:
上顎洞癌の放射線治療成績
小宮山貴史1、大西 洋2、栗山 健吾2、田中史穂2、荒木 力2、加藤大基1、原 竜介1伊丹 純1
1国立国際医療センター放射線治療部、2山梨大学医学部放射線科
日本医学放射線学会誌 2004;64:139-145 

参考資料2 Reference 2:
上顎洞原発扁平上皮癌の集学的治療
山田承子1、小野寺 周1、矢原勝哉1、大栗隆行1、加藤文雄1、野元 諭1、今田 肇1、中田 肇1、寺嶋廣美2、工藤香児3、吉田雅文3
1産業医科大学医学部放射線科教室、2九州大学医学部保健学科放射線技術科、3産業医科大学医学部耳鼻咽喉科教室
日本医学放射線学会誌 2004;63:316-321

参考資料3 Reference 3:
Carcinoma of paranasal sinuses:long-term outcomes with radiatherapy
Angel I. Blanco,M.D1、K.S Clifford Chao,M.D2、Gokhan Ozyigit,M.D2、Mustafa Adli,M.D1、Wada L. Thorstad,M.D1、Joseph R. Simpson,M.D1、Gershon J. Spector,M.D1、Bruce Haughey,M,B.,Ch.B.1、and Carlos A.Perez,M.D1
1Department of Radiation Oncology,Washington University,St.Louis,MO; 2Department of Radiation Oncology,The University of Texas M. D. Anderson Cancer Center, Houston, TX
Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys. 2004;59(1):51-58


キーワード:上顎がん、放射線治療、リニアック、有害事象、強度変調放射線治療、maxillary sinus tumor、radiotherapy、Linac、adverse reaction、IMRT(intensity modulated radiation therapy) 
分類コード:030201 

放射線利用技術データベースのメインページへ