ウイルムス腫瘍の放射線治療

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作成： 2004/09/13 正木英一データ番号　　　：030266 ウイルムス腫瘍の放射線治療目的　　　　　　：小児ウイルムス腫瘍に対する放射線療法の意義についての紹介放射線の種別　　：エックス線放射線源　　　　：超高圧X線発生装置（放射線治療装置）線量（率）　　　：200-250cGy/min 応用分野　　　　：医学、放射線治療概要　　　　　　：ウイルムス腫瘍はアメリカにおけるNational Wilms' Tumor Study(NWTS)のrandomized trialにより治癒できる小児腫瘍となった。放射線治療は化学療法、手術療法と併せて行われる集学的治療の中で線量軽減が行われて来ており、ほとんど放射線晩期合併症を問題にしなくて済むようになってきた。詳細説明　　　　：１）はじめにウイルムス腫瘍は年間約50～80例が小児がん全国登録に報告されている。National Wilms' Tumor Study(NWTS)のrandomized trialにより、現在では治癒できうるものとなった。化学療法の強化とともに、放射線治療線量は減量され、ほとんど合併症を問題にしなくてすむようになった。　２）小児腎腫瘍分類 1. Low risk　　　　　　 mesoblastic nephroma 2. Intermediate risk　　Wilms' tumor 3. High risk　　　　　　focal anaplasia and diffuse anaplasiaClear cell 　　　　　　　　　　　　sarcoma of the kidney（CCSK）　　　　　　　　　　　　Rhabdoid Tumor of the Kidney 　以上の内mesoblastic nephromaを除く腎腫瘍をNWTSおよび日本ウイルムス腫瘍グループスタディ（JWiTS）で取り扱う．　３）病期分類(stage) 国際的にはNWTS病期分類（表1）が用いられている。表1　ウイルムス腫瘍臨床病期分類(NWTS)（原論文1より引用） stageⅠ：腫瘍は腎に限局し，完全摘出できたもの．腎皮膜表面は犯されない，腫瘍破裂なし，切除断端を越えてあきらかな残存腫瘍なし． stageⅡ：腫瘍は腎を越えているが，完全摘出できたもの．腫瘍の限局性の進展，血管侵襲，腫瘍生検あるいは側腹部に限局した局所の腫瘍漏出あり．切除断端あるいはそれを越えてあきらかな残存腫瘍なし． stageⅢ：腹部に限局した非血行性残存腫瘍あり．腎門部，傍大動脈あるいはそれを越えるリンパ節浸潤あり．腫瘍漏出による腹腔全体の汚染，腫瘍の腹腔播種，手術断端を越えて顕微鏡的あるいは肉眼的な腫瘍進展，重要組織への局所浸潤のため完全切除不能． stageⅣ： StageⅢ 以上の転移（例えば肺，肝，骨，脳転移） stageⅤ：診断時，両側性のもの４）治療方針 NWTSの従来の治療方針は外科手術（一期的切除）が主体であったのに対して、 NWTS-5 では巨大な stage Ⅲ 症例に対して生検後の術前化学療法、遅延一期的切除を認めるようになった。 JWiTSはNWTS-5と同じ治療法を採用し、予後良好群のstage Ⅲ～Ⅳ、退形成腫瘍のstage Ⅱ～Ⅳ、腎明細胞肉腫の全病期、横紋筋肉腫様腫瘍のstage Ⅲ～Ⅳに術後照射10.8 Gy/6回/8日が必要である。手術日を術後0日とすると、化学療法は術後5日から開始し、術後照射開始も術後9日より遅れてはならない。stage Ⅲ となるような腹腔全体の腫瘍漏出や腫瘍播種が認められたときは、全腹部照射を行う。転移病巣に対する放射線治療は有効であり、化学療法と併用となる。　５）治療方法１．標的体積 GTV：手術前（初診時）CTにて認められた原発巣、リンパ節転移巣。 CTV：NWTSでは原発腫瘍、リンパ節転移であるGTVを充分に含み、外側は側腹壁を照射野に入れることとしている。また腫瘍の頭側、尾側は１cmのマージンをとることが必要である。内側は対側傍大動脈リンパ節領域を含むように、椎体全幅が照射野に入るように設定する。腹腔全体の腫瘍漏出や腫瘍播種が認められたときは、全腹部照射（横隔膜ドームから閉鎖孔まで。大腿骨頭は遮蔽）とする。肝転移では、切除不能例には２cmマージンをとる照射野とする。多発肝転移、瀰漫性肝転移の場合、全肝とする。診断時から判明している肺転移では両全肺・肺尖部と肺背部下縁を含み、両肩（上腕骨頭）を遮蔽すること。 PTV：CTVに呼吸による変動などを考慮し設定する。術後照射であるので、術者の見解が重要である。小児の腹部照射では脊椎への影響を考慮し、椎体全幅を照射野に入れる前後二門照射が基本である（図1）。図1　ウイルムス腫瘍３歳女児 Stage Ⅲ（C1n1v1M0U0）の術後照射野：シミュレーション写真（原論文1より引用）２．線量総線量10.8Gyとし、１日線量1.8Gyで週５日間照射を原則とする。照射野が全腹腔照射などと大きくなるときは、１日線量1.5Gyとし、総線量10.5Gyとする。しかし残存腫瘍が大きく局所再発をきたす可能性の高いときには、追加照射10.8Gyを考慮する。残存腎は鉛ブロックで遮蔽するか1/3以上は14.4Gy／８回／10日を越えないようにし、肝臓の1/2以上は19.8Gy／11回／２～３週を越えないようにする。肝転移では、切除不能例には局所照射とし、全肝が侵されていれば全肝照射19.8 Gy／11回／２～３週とする。照射野を縮小して5.4～10.8Gy／11回／２～３週追加照射することもある。肺転移では原則的に両全肺12Gy／８回／２週照射を行う。照射終了後2週間たっても残存する場合は切除するか7.5Gy/5回追加照射を考慮する。18ヵ月以下の乳幼児に対しては化学療法を用い、放射線治療は控える。但し、胸部単純写真で肺転移が認められず、ＣＴでのみ認められたものに対しては、全肺照射の適応ではない。脳転移では全脳に30.6Gy／17回／３～４週照射し、骨転移局所にも30.6Gy／17回／３～４週照射する。　６）治療成績 NWTS-4（stageⅡ～Ⅳ）では、pulse-intensive(sigle-dose) regimen（パルス強化療法）による2年無病生存率は89.4%であり、standard(divided-dose) regimen（標準療法）による90.5%と変わりがなく良い成績であり、治療期間の短いパルス強化療法がNWTS-５の標準治療となっている。日本小児外科学会悪性腫瘍委員会の1986～1990年登録症例の予後追跡調査では、全例の5年生存率は84.7%、病期Ⅰ、Ⅱでは91.9%、病期Ⅲ80%、病期Ⅴ66.7%、病期Ⅳ18.1%であった。コメント　　　　：小児腫瘍の発生数は非常に少なく、本邦においてはその標準的な治療法が確定されていない。その中でウイルムス腫瘍は1969年よりアメリカにおいてrandomized trialが行われ、非常に良好な治療成績を上げてきた。これを参考に本邦において治療が行われてきたが、最近NWTSの許可のもとNWTS-5プロトコールそのものを日本での統一プロトコールとして治療研究が開始された。その研究結果の成果を待ちたい。原論文１ Data source 1：小児　Ⅰ．ウイルムス腫瘍正木英一国立成育医療センター放射線診療部放射線治療計画ガイドライン　2004、日本放射線科専門医会・医会、日本放射線腫瘍学会、（社）日本医学放射線学会編．日本放射線科専門医会・医会発行　2004.7.1、pp.171-175 参考資料１ Reference 1： Comparison between single-dose and divided-dose administration of dactinomycin and doxorubicin for patients with Wilms' tumor: a report from the National Wilms' Tumor Study Group． D.M. Green, N.E. Breslow, J.B. Beckwith, et al. J. Clin. Oncol., 1998; 16: 237-45 参考資料２ Reference 2：小児悪性固形腫瘍5腫瘍の予後調査結果の報告－1986～90年登録症例について－. 日本小児外科学会悪性腫瘍委員会日小外会誌、1999; 35: 716-738 キーワード：ウイルムス腫瘍、放射線治療、副腎腫瘍、小児腫瘍、肉眼的腫瘍容積、臨床的標的容積、計画的標的容積 Wilms' tumor, radiotherapy, adrenal tumor, pediatric tumor, GTV(gross tumor volume), CTV(clinical target volume), PTV(planning target volume) 分類コード：030201,030602
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stageⅠ：	腫瘍は腎に限局し，完全摘出できたもの．腎皮膜表面は犯されない，腫瘍破裂なし，切除断端を越えてあきらかな残存腫瘍なし．
stageⅡ：	腫瘍は腎を越えているが，完全摘出できたもの．腫瘍の限局性の進展，血管侵襲，腫瘍生検あるいは側腹部に限局した局所の腫瘍漏出あり．切除断端あるいはそれを越えてあきらかな残存腫瘍なし．
stageⅢ：	腹部に限局した非血行性残存腫瘍あり．腎門部，傍大動脈あるいはそれを越えるリンパ節浸潤あり．腫瘍漏出による腹腔全体の汚染，腫瘍の腹腔播種，手術断端を越えて顕微鏡的あるいは肉眼的な腫瘍進展，重要組織への局所浸潤のため完全切除不能．
stageⅣ：	StageⅢ 以上の転移（例えば肺，肝，骨，脳転移）
stageⅤ：	診断時，両側性のもの