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作成: 2004/9/22 陣崎 雅弘

データ番号   :030265
腎・尿路疾患の画像診断
目的      :腎・尿路疾患の画像診断の変遷と現状を概説する
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、診断

概要      :
腎・尿路疾患の画像診断は、血管造影・超音波・排泄性尿路造影を主体として行われてきた。マルチスライスCTが登場してからは、造影早期相(CT angiography) や 排泄相(CT urography)の像を組み合わせいくことにより、 これらの検査が提供していた情報を1回の検査で得ることが可能になった。今後この領域では、従来の検査が減り、マルチスライスCTを主軸として検査が行われていくことになると思われる。

詳細説明    :
 腎・尿路疾患の画像診断は、1980年代までは主に血管造影、超音波、排泄性尿路造影(IVP)で行われてきた。ヘリカルCTが登場してからは,尿路結石の診断が単純CTのみでおこなわれるようになった.単純CTは,IVPと異なり造影剤を使わないことと,側腹部痛の原因が結石以外の場合でも診断が可能であることの利点が大きかった.
1998 年にマルチスライスCTが登場してからは,結石以外の尿路病変(腫瘍など)の診断もCTのみで行える可能性が指摘されるようになった.
 
1.マルチスライスCTの登場
従来のヘリカルCTは検出器が体軸方向に1列しかなく、ガントリー1回転につき1スライスの像を得ていた。マルチスライスCTは、検出器を体軸方向に多列化しており、ガントリー1回転につき複数のスライス像を得ることができる。これにより、薄いスライス厚を用いて腎臓から骨盤までの尿路全長を一回の息止めで撮像できるようになり、3次元像での尿路評価が可能になった。縦方向に長い構造の尿路では、冠状断像のような3次元再構成像の有用性が高い。高画質の3次元再構成像を作るためには薄いスライス厚で撮像することが必要になる。現在普及しつつある16スライスCT(1回転につき16スライスの画像を得られる)では0.5-0.625 mm 程度のスライス厚を用いて撮像でき、高精細な3次元再構成像を得ることができる。
 
2.撮像法
ヨード造影剤を急速注入(3-4 cc/sec)し、早期相(注入開始から30秒後程度)を撮像すると腎動脈が明瞭に描出され、これから作成した3次元像を CT angiography と呼ぶ(図1)。実質相(90秒後程度)では腎実質が均一に染まり、小腎病変の検出に有用である。排泄相(5分以降)を撮像すると尿路が良好に描出され、CT urography と呼ばれる(図2)。疾患や病態に応じて、これらの撮像タイミングを組み合わせて撮像する。
 


図1  CT angiography の像



図2  CT urography の像

 
3.マルチスライスCTの利点と臨床応用
マルチスライスCTの造影早期相(CT angiography)は従来の血管造影に、実質相は従来の超音波に、排泄相 (CT urography) はIVPに相当する情報を提供する。マルチスライスCTは、撮像タイミングの組み合わせにより、従来の検査が提供していた全ての情報を1回の検査で提供できることが非常に大きな利点である。しかも、volume data であるので、任意の角度からの観察が可能という利点ももつ。たとえば、腎移植の術前には、腎動脈の本数・腎実質や尿路の状態に関する情報が必要になるので、従来は血管造影、超音波、IVPの3つが行われていたが、現在ではマルチスライスCTのみで評価されるようになった。腎細胞がんの術前評価も同様である。尿路の腫瘍が疑われる場合には、従来は超音波とIVPを行ってきたが、上記の実質相と排泄相を撮像することで代用が可能になった。
以上のように、マルチスライスCTは検査の効率化に大きく貢献している。
MRも情報量の多い検査であるが、腎・尿路における最も頻度の高い疾患である尿路結石を確実に診断できないために、CTの方が汎用性が高い。この領域ではマルチスライスCTが主軸となって、超音波やMRが補助的に使われ、血管造影やIVPはほとんど行われない検査になっていくと思われる。

コメント    :
 マルチスライスCTの問題点としては、大きく2つあると思われる。1つは、血管造影やIVPのようなX線撮影検査に比べて、CTの方が空間分解能は劣る。このため、微細な所見の検出能がCTでも十分かどうかを検討する必要がある。特にCT urography についての検討は重要であろう。2つめは、マルチスライスCTで複数のタイミングを撮像すると被ばく線量が増える。このため、被ばくの低減化に取り組むことが必要である。

原論文1 Data source 1:
Multidetector CT angiography for preoperative evaluation of living laparoscopic kidney donors
S. Kawamoto, R.A. Montgomery, L.P. Lawler, K.M. Horton, E.K. Fishman
Department of Radiology and Radiological Science, Johns Hopkins Hospital
AJR 2003; 180: 1633-1638

原論文2 Data source 2:
Evaluation of small (</= 3 cm) renal masses with MDCT: benefits of thin overlapping reconstructions
M. Jinzaki, J.D. McTavish, K.H. Zou, P.F. Judy, S.G. Silverman
Department of Radiology, Brigham and Women's Hospital
AJR 2004; 183: 223-228

原論文3 Data source 3:
Urinary Tract Abnormalities: Initial Experience with Multi-Detector Row CT Urography
E.M. Caoili, R.H. Cohan, M. Korobkin, J.F. Platt, I.R. Francis, G.J. Faerber, J.E. Montie, J.H. Ellis
Department of Radiology, University of Michigan Medical Center
Radiology 2002; 222: 353-360

原論文4 Data source 4:
Multi-detector row CT urography: comparison of strategies for depicting the normal urinary collecting system
J.D. McTavish, M. Jinzaki, K.H. Zou, R.D. Nawfel, S.G. Silverman
Department of Radiology, Division of Abdominal Imaging and Intervention, Brigham and Women's Hospital
Radiology 2002; 225: 783-790

原論文5 Data source 5:
MDCT urography の有用性の検討−排泄性尿路造影との対比−.
陣崎雅弘、谷本伸弘、佐藤浩三、栗林幸夫
慶応義塾大学放射線診断科
西日本泌尿器科 別冊、2004; 66: 350-354

参考資料1 Reference 1:
マルチスライスCT時代の腹部画像診断−腎・尿管−
陣崎雅弘、佐藤浩三、杉浦弘明、谷本伸弘、栗林幸夫
慶応義塾大学放射線診断科
画像診断 23、392-399 (2003)

参考資料2 Reference 2:
Evaluation of prospective living renal donors for laparoscopic nephrectomy with multisection CT: the marriage of minimally invasive imaging with minimally invasive surgery.
J. Rydberg, K.K. Kopecky, M. Tann, S.A. Persohn, S.B. Leapman, R.S. Filo, A.L. Shalhav
Department of Radiology, Indiana University Hospital
Radiographics, 21, Special Issue, S223-S236 (2001)

キーワード:コンピュータ断層撮影、マルチスライスCT、ヘリカルCT、血管造影、超音波、排泄性尿路造影、腎腫瘍、尿路腫瘍、尿路結石、腎臓、尿管
Computed Tomography (CT), Multidetector-row CT, helical CT, angiography, ultrasonography, Intravenous pyelography (IVP), renal tumor, ureteral tumor, ureteral stone, kidney, ureter
分類コード:030102, 030103, 030106, 030107

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