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作成: 2004/08/15 野口 京

データ番号   :030264
クモ膜下出血の画像診断
目的      :少量のクモ膜下出血の画像診断
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :医用エックス線装置
応用分野    :医学、診断

概要      :
脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血がいったん発症すると、社会復帰できる患者はおよそ50%しかいない。クモ膜下出血の診断にはCTが施行されており、その有用性は確立しているが、良好な予後が期待できる少量のクモ膜下出血の診断は困難な事が多い。少量のクモ膜下出血の診断には、MRIの比較的新しい撮像法であるFLAIR (fluid-attenuated inversion recovery)法が有用である。

詳細説明    :
 現在、急性期のクモ膜下出血の診断には、簡便に撮像でき信頼性も高いCTが、臨床的に施行されている。CTは、急性期クモ膜下出血の診断のみならず、血腫の分布から破裂部位を推測し、続発する水頭症や脳血管攣縮による脳梗塞巣の診断も同時に評価できる。しかし、発症24時間以内の急性期クモ膜下出血であっても、診断率は100%ではなく、発症4日以降の時間が経過したクモ膜下出血の診断率は、50%未満とかなり低くなる。つまり、CTでクモ膜下出血が確認できないからといっても、100%否定できるわけではない。少量のクモ膜下出血は、風邪と診断され鎮痛剤で一次的に軽快する場合があり、その原因である脳動脈瘤は存在しているため、初回の少量の出血が見逃された場合、数時間後から1ヶ月の間に再破裂をきたす可能性がある。初回の少量のクモ膜下出血は、全身状態が良好であることが多く、外科的治療を受ける絶好のチャンスであるが、初回の少量の出血が見逃された場合、再破裂時の死亡率は50%をこえるとの報告がある。
少量かつ時間が経過したクモ膜下出血の診断には、通常のクモ膜下出血の診断の場合とは異なる所見の探し方をする必要がある。つまり、CT上、脳槽の明らかな高吸収をさがすというのでなく、脳裂、脳溝のわずかな吸収値の上昇所見をさがすことになる。また、脳室内へ逆流した少量の出血と水頭症の有無にも注意することが重要である。
 頭部領域の画像診断において、MRIは非常に有用な検査法として、日常臨床に広く使用されているが、急性期クモ膜下出血の診断には使用されていない。MRIは、状態不良の患者を撮像しにくく、救急検査としての体制が確立されていない施設が多いなどの理由に加えて、通常のT1およびT2強調画像では、急性期クモ膜下出血の診断自体が困難である。しかしながら、1990年代の中頃から臨床的に使用され始めたFLAIRであれば、急性期のみならず発症から時間が経過した亜急性期あるいは少量のクモ膜下出血の診断が可能である。CT上、シルビウス裂あるいは脳溝が不明瞭化しているのみで、うっかりと見逃させてしまうようなわかりにくい少量クモ膜下出血が、FLAIRでは明瞭な高信号病変して描出される。


図1  


 図1は1週間前から頭痛症状が出現した中年女性のCT(図1A)およびFLAIR(図1B)である。CT(図1A)にて、クモ膜下腔には明らかな高吸収を指摘できないが、左側のシルビウス裂が不明瞭化しており、少量のクモ膜下出血が疑われる。FLAIR(図1B)では、左側のシルビウス裂に明瞭な高信号を認め、クモ膜下出血所見と考えられる。血管造影および外科的手術にて、左中大脳動脈瘤の破裂が確認された。
 少量のクモ膜下出血の診断に際しては、クモ膜下出血を示唆する特徴的な頭痛症状の有無が非常に重要である。CTにて少量のクモ膜下出血を示唆する脳裂・脳溝の不明瞭化所見について、注意深く確認し、FLAIRにて再度確認することが有用と思われる。しかしながら、臨床的にクモ膜下出血が疑われているのにもかかわらず、CTおよびFLAIRにて異常所見を指摘できないときは、腰椎穿刺による脳脊髄液のチェックが必要である。

コメント    :
FLAIRはクモ膜下出血の検出に優れてはいるが、その読影はそれほど簡単ではない。クモ膜下出血の診断におけるFLAIRの問題点の一つは、脳脊髄液の動きによるアーチファクトが、クモ膜下腔あるいは脳室内に高信号として認められることである。また、FLAIRは、クモ膜下出血のみならず、その他のクモ膜下腔病変をも高信号として描出する。それゆえ、少量のクモ膜下出血を診断するには、FLAIRの画像に精通している必要がある。

原論文1 Data source 1:
Acute subarachnoid hemorrhage: MR imaging with fluid-attenuated inversion recovery pulse sequences
K. Noguchi, T. Ogawa, A. Inugami, H. Toyoshima, S. Sugawara, J. Hatazawa, H. Fujita, E. Shimosegawa, T. Okudera, I. Kanno, K. Uemura
Department of Radiology and Nuclear Medicine, Research Institute of Brain and Blood Vessels-Akita
Radiology,1995; 196: 773-777

原論文2 Data source 2:
Subacute and chronic subarachnoid hemorrhage: diagnosis with fluid-attenuated inversion recovery MR imaging
K. Noguchi, T. Ogawa, H. Seto, A. Inugami, H. Hadeishi, H. Fujita, J. Hatazawa, E. Shimosegawa, T. Okudera, I. Kanno, K. Uemura
Department of Radiology, Toyama Medical and Pharmaceutical University
Radiology, 1997; 203: 257-262

キーワード:コンピュータ断層法, 磁気共鳴画像法, クモ膜下出血, 頭部, 頭痛, 脳動脈瘤, 破裂, 画像診断
computed tomography, magnetic resonance imaging, subarachnoid hemorrhage, head, headache, cerebral aneurysm, rupture, imaging diagnosis
分類コード:030102, 030106, 030401

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