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作成: 2004/10/6 山本 晃

データ番号   :030263
肺腫瘍に対するCTガイド下ラジオ波凝固療法
目的      :肺腫瘍に対する経皮的CTガイド下ラジオ波凝固療法の実際
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :エックス線管
応用分野    :医学、治療、IVR

概要      :
 肺腫瘍、とりわけ肺がんによる死亡数は増加の一途をたどり、がん死の一位を占めるに至っている。また転移性肺がんに対する有効な治療法は少ない。肺腫瘍に対するラジオ波凝固療法はCTガイド下に局所麻酔下で行うことができ、低侵襲で、重篤な合併症が少なく、有効な治療法として海外及び本邦でも行われている。本稿では、肺腫瘍に対する本治療について概説する。

詳細説明    :
肺がんの局所治療としては外科的切除術や放射線療法が行われるが、高齢に伴う低肺機能や複数回の手術による胸膜癒着等による治療困難例も増えている。肺腫瘍に対する経皮的CTガイド下ラジオ波凝固療法(以下肺RFA:radio-frequency ablation)は肝腫瘍に対し広く用いられ良好な成績が報告されているラジオ波焼灼療法を肺がんの治療に応用することにより、新たな低侵襲性治療法として期待されている治療法である。
長期治療成績が明らかになっていない現段階では、治療対象を根治切除が困難な症例に限っている。また転移性肺癌では原発巣および他の転移病巣が制御されている必要がある。治療対象になる病変の大きさに関しては、治療目的により対象が異なる。一般的には根治を期待できる大きさは3cm径以下が望ましいと考えている。それ以上の大きな病変は体積縮小を期待して行うことになる。また電極針による損傷を避けるため、肺門部や心臓近くの病変は治療対象から外している。その他、出血傾向のある患者は禁忌である。
肺RFAは、局所麻酔後CTガイド下で、ラジオ波を発生する電極針を治療対象の腫瘍に向けて穿刺する。必要時にはCT透視を使用して穿刺することもある。まず細径針で正確な方向付けと距離測定を行った後、電極針による本穿刺を行う。電極針が対象病変に到達すれば、CTで凝固範囲と病変との位置関係を確認し通電を開始する。ラジオ波は、その交流電流により周囲組織にイオンの変動をもたらし、摩擦熱を生じさせる。この摩擦熱により、腫瘍を焼灼、凝固壊死に陥らせる。電極針は3社(Boston Scientific社(LeVeen Needle以下LVN)、Radionics社(cool-tip)、RITA Medical Systems (handpiece、Starburst))から提供されている。各々の電極針の形状や特徴は各社で異なり、タイプでみると展開型と単針型に大別される。使用する針の展開範囲や凝固範囲(図1参照)を把握した上で治療を行う必要がある。一ヵ所の焼灼で不十分と考えられた場合には複数ヵ所を焼灼し、必ず病変全体をカバーする。以下は展開型針であるLVNを使用した例について示す。


図1 現在市販されている各種電極針の焼灼(凝固)範囲のイメージを示す(原論文1より引用)



図2 右肺に約20mm大の右肺腺癌再発腫瘍を認める。展開した針の大きさが3cm径のLVNを用い、熱焼灼を行った(A)。手技に伴う軽度の気胸と皮下気腫が認められている。11日後のCTで病変と肺実質の変化が一体となり、腫瘍を表す高濃度域は術前より拡大して認められる(B)。6ヵ月後では、周囲構造の収束を伴いながら高濃度域は縮小している(C)。20ヵ月後、腫瘍は瘢痕化し、再発は認められない(D)。(原論文2より引用)

RFA直後には、単純CT上病変と病変周囲の高熱で変化を受けた肺実質が一体となって高濃度域として観察されるため、術前の腫瘍径より大きく描出される。多くの例で高濃度域は時間経過とともに縮小傾向を示す(図2参照)。
局所成績は根治を期待できる3cm以下の病変に対しては、70%程度の局所制御率が得られている。再発した病変に対しても肺RFAは繰り返し治療を行うことができ、一度で焼灼できなかった腫瘍に対しても、再度焼灼・治療を行うことができる。
以下に我々の施設での主な合併症を記す。我々の施設では外科的処置を要する重篤な合併症は経験していない。

表1 肺RFAに伴う合併症の頻度(原論文1より引用)
術中合併症 術後合併症
疼痛・熱感 
気胸
皮下気腫
血痰
57.2%
30.4%
17.9%
9.0%

発熱(37.5℃以上)
胸水
血痰
胸膜炎
   
51.4%
16.7%
16.7%
2.3%
今後は化学療法や放射線治療の併用は行うべきと考える。同じ局所療法である放射線療法とRFAの併用で、おのおの単独で行った場合よりも良好な局所制御が期待できると考える。
これまでの臨床成績からCTガイド下経皮的ラジオ波焼灼療法は重篤な合併症が少なく低侵襲で、肺がんに対して有効な治療法になりうると期待される。

コメント    :
厚生省人口動態統計によると肺癌の死亡者数が胃がんを抜きがん死の1位となっている。肺ラジオ波凝固療法は低侵襲で治療効果も高く、肺がん治療における局所療法として、また集学的治療の一部として、今後期待される治療である。

原論文1 Data source 1:
ラジオ波焼却療法(RFA)
山本晃、松岡利幸、中村健治
大阪市立大学医学研究科放射線医学
現代医療、2004; 36: 2125-2128

原論文2 Data source 2:
肺癌に対するCTガイド下経皮的ラジオ波凝固療法
松岡利幸*、山本晃*、大山 嘉将*、大隈智尚*、中村健治*、山田龍作*、井上佑一*、井上清俊**、河田安浩**、豊島正美***
*大阪市立大学医学研究科放射線医学
**大阪市立大学医学研究科呼吸器外科学
***神戸市立西市民病院放射線科
臨牀放射線、2004; 49: 493-500

キーワード:肺腫瘍 、IVR 、RFA 、経皮的治療 、低侵襲治療 、放射線医学 、CTガイド下インターベンション 、集学的治療
lung tumor, interventional radiology, radiofrequency ablation, percutaneous therapy, minimum invasive treatment, radiology, CT-guided intervention, multidisciplinary treatment
分類コード:030101

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