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作成: 2004/9/11 村上康二

データ番号   :030260
PET-CTによる消化器がんの診断
目的      :消化器がんの診断におけるPET-CT(PETとCTの一体型装置)の有用性を紹介する。
放射線の種別  :ガンマ線,陽電子,エックス線
放射線源    :18-F
応用分野    :医学,診断

概要      :
PET-CTは2003年の末に国内で薬事承認がおりたばかりの新しい放射線診断機器である。本装置はPET(ポジトロンCT)とX線CTが一体となった構造を持ち,PETの機能画像とCTによる解剖学的画像がほぼ同時に得られる。従来は別々に得ていたCTとPETの情報が同時に得られる利点は大きく,本稿では消化器がんの診断におけるPET-CTの有用性を紹介する。

詳細説明    :
 PETの欠点のひとつに空間分解能の悪さがある。従来の核医学検査であるSPECT(単光子放出核種断層撮影)に比べるとPETは5〜6倍程度優れているが、それでもPET単独では空間分解能が悪いために病変の位置(localization)が特定できず,小さな病変や臓器の境界付近の病巣の局在診断が難しい。そこでPETとCTを同時に施行して両者の融合画像を得る事ができるのがPET-CT装置である。空間分解能に優れたCTとコントラスト分解能に優れたPETの組み合わせにより相乗効果をねらったものといえる。別々に施行されたPETとCTの画像をコンピュータのソフト上で重ね合わせる方法も報告されているが、目印の無い体幹部では頭部に比べて画像融合が非常に難しい。しかも腹部領域においては,異なった時間に施行された検査だと横隔膜近辺や消化管、膀胱など、生理的に動く部位の融合画像は誤差が大きくなる。その点, PETとCTのガントリーが一体となったPET-CTでは同一寝台でPETとCTが撮影できるため、物理学的な位置ずれがほとんど起きず,さらにほぼ同時刻に撮影できるために,腸管や膀胱など経時的に変化する臓器の位置ずれも最小に押さえられる。
 


図1 PET-CTの外観(a)と模式図(b)。寝台側がCTのガントリー,奥がPETのガントリーになっている。患者が寝台に横たわると重力で寝台がたわむが,寝台の土台ごとPETとCTの位置に移動するため,どちらも同じ空間的位置で画像が得られる。

 
心臓の動きと呼吸の影響を排除することはできないが,心臓のPETを施行する際には心電同期,呼吸の影響を少なくするには呼吸同期を併用すれば良い。
 消化器がんの診断においては食道を除き腹部から骨盤の画像で診断することになる。したがって前述のごとく,消化器がんの診断においてPET-CTは他部位に比べて特に有用性の高いものといえる。
 


図2 大腸がん症例。上段左のCT画像では解剖学的な情報は得られるが病変がわからない。上段右のPET画像では病変はわかるが位置がわからない。そこ下段左のような融合画像を作ると,病変と位置が明瞭に同定できる。

 
解剖学的に正確な融合画像が得られるPET-CTは単に診断に役立つばかりでなく,3次元画像による仮想手術・仮想内視鏡や治療計画などへの応用が期待される。最近の消化器がんは内視鏡下,あるいは腹腔鏡下で施行されることが多いが,これら体腔鏡の欠点は視野が狭いことである。そこでPET-CTによる3次元画像の情報があれば,これらの手技を安全に行う手助けをすることが可能になる。
 


図3 大腸がんと多発するポリープ。大腸に空気を入れてCTを撮影,それにFDG-PETの画像を融合させて3次元画像を作成した。

 
近い将来FDGが民間会社から配送される計画もあり,そうなると病院はPETカメラだけを購入すればよい。今後ますますPET-CTが増えることは間違いがないであろう。
 PET-CTの利点は画像融合だけではなく、検査時間の短縮効果もある。
体内から放出されるγ線は散乱・吸収によって浅部と深部では強さが異なってくるため、正確にγ線を測定するためにはあらかじめ人体の散乱・吸収のデータを測定し、実測したデータを補正する必要がある。この補正用のデータ収集をトランスミッションスキャンという(それに対して放射性薬剤を投与したあとの通常の撮像をエミッションスキャンという)。トランスミッションスキャンは外部線源をCTと同じように体を一周させて撮像をするが、要する時間は全撮像時間の10〜50%を占める。つまりCTのデータをそのまま散乱吸収補正のデータに用いれば、従来のトランスミッションスキャンにかかる分の検査時間が短縮できることになる。
 現在のPET-CTの問題点は2つある。一つはCTが加わることにより被曝線量が増加する点,もう一つはコストの点である。被曝に関してはFDGの投与量を少なく,CTの線量を最小限度にすることが必要となるが,被曝線量の低下とともに画質を犠牲にすることになる。したがって精査目的であれば画質を優先して診断能を向上させる,検診目的であれば最小限の画質に押さえて被曝線量を低下させるといった,目的に応じた最適な条件で検査を施行する必要がある。コストに関しては,現在CTを施行しても保険点数に反映されない点が問題である(2004年9月現在)。医療といえども経済活動の一環である以上,診断能の高い検査をやるほど赤字になるのは不合理である。一刻も早くCTの費用算定が必要であろう。

コメント    :
 消化器は解剖学的に複雑でしかも生理的に動く臓器が多いために,CTもしくはPET単独では診断が困難な場合が多い。PET-CTは機能画像と形態画像という両者の特徴を併せ持つ画像であり。今後急速に普及が期待される画像診断装置である。

原論文1 Data source 1:
A combined PET/CT scanner for clinical oncology
T. Beyer. DW. Townsend, T. Brun, P.E. Kinahan, et al.
PET Facility and Department of Radiology, University of Pittsburgh
J. Nucl. Medicine, 2000; 41: 1369-1379

原論文2 Data source 2:
FDG-PET検査のがん診療への応用-肺癌-
村上康二、縄野繁、池田恢
国立がんセンター東病院 放射線部
日医放会誌、2002; 62: 252-257

原論文3 Data source 3:
クリニカルPETーFDGの臨床応用ー消化器系腫瘍
村上康二
国立がんセンター東病院 放射線部
画像診断、2003; 23: 1151-1161

キーワード:ポジトロンCT、FDG、陽電子放出核種、消化器腫瘍、核医学、コンピュ−タ−断層撮影法(CT),陽電子放射断層撮影法(PET)、
positron CT, FDG, positron emitters, gastrointestinal tumor, nuclear medicine,
computed tomography,positron emission tomography
分類コード:030301,030403,030501

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