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作成： 2003/10/10 二瓶 圭二
データ番号 ：030254
局所進行食道がんに対する放射線化学療法
目的 ：食道がんに対する放射線化学療法の開発経緯と現状
放射線の種別 ：エックス線
応用分野 ：医学、治療
概要 ：
近年の食道がんの治療においては、粘膜がんに対する内視鏡下粘膜切除術や切除可能食道がんに対する放射線化学療法の適用など、生存率を下げることなくより侵襲度の低い治療法が開発されてきた。その一方で従来切除不能とされてきた局所進行食道がんの治療成績は極めて不良であり、手術も含めた集学的治療が盛んに研究されている。放射線化学療法を中心とした局所進行食道がんに対する治療の現況および今後の展望について述べる。
詳細説明 ：
局所進行食道がんに対する手術療法、あるいは放射線治療などの単独療法では治療成績が不良であり、新たな治療戦略の開発が必要であった。欧米では、手術療法を中心として化学療法の併用、あるいは放射線治療の併用が研究されてきたが、いずれも有意な生存率の向上には至っていない。
〈放射線化学療法〉
これら手術との併用療法の研究と並行して、放射線と化学療法の同時併用療法の研究も盛んに行われてきた。1994年に報告された放射線化学療法の第II相臨床試験のレビューにより、化学療法として5-FU とシスプラチン、同時併用放射線療法として総線量40-60 Gy（グレイ）というレジメンにおいて、生存期間中央値11-18ヶ月と良好な治療成績で、毒性についても耐えうるものであると結論づけられた。
その後RTOG（Radiation Therapy Oncology Group）が中心となり、いくつかの臨床試験グループが参加して行われたIntergroup Study (RTOG85-01)では、放射線化学療法と放射線照射単独治療の第III相臨床試験が施行された。その結果、シスプラチンと5-FUを用いた2コースの化学療法と同時併用の放射線療法（50Gy）は生存期間中央値14ヶ月、5年生存率26%で、放射線療法（64Gy）単独治療に比較して有意に生存期間が良好であることが証明された。この臨床試験の結果により、放射線化学療法は手術療法に匹敵する標準治療になりうると考えられるようになった。
表1 欧米における放射線化学療法の成績
--- ２つの比較試験 ---
| 臨床試験 |
治療法 |
症例数 |
化 |
放 |
生存期間
中央値（月）
|
生存率（％） |
| 2年 |
3年 |
5年 |
RTOG85-01
INT0123
|
放化
放
標準線量群
高線量群
|
61
62
109
107
|
FP
−
FP
FP
|
50 Gy/ 25回
64 Gy/ 32回
50.4 Gy/ 28回
64.8 Gy/ 36回
|
14.1
9.3
17.6
12.9
|
36
10
38
29
|
30
0
(33)
(25)
|
26
0
|
放化：放射線化学療法、化：化学療法、放：放射線療法、 FP: 5-FU + CDDP
〈術前放射線化学療法〉
手術の補助療法として、術前に放射線化学療法を行い、その後外科的切除を行う三者併用療法の研究も盛んに行われてきた。最近になり手術単独療法との第III相無作為比較試験の結果が報告されている。
表2 欧米における術前放射線化学療法の成績
--- ３つの比較試験 ---
| 臨床試験 |
組織型 |
症例数 |
治療法 |
生存期間
中央値（月） |
生存率（％）
3年 |
Ireland
Michigan
EORTC
|
Adeno
Adeno (75%)
SCC (25%)
SCC
|
58
55
50
50
143
139
|
Surgery
Trimodality
Surgery
Trimodality
Surgery
Trimodality
|
11
16
17.6
16.9
18.6
18.6
|
6
32
16
30
36
36
|
Adeno：腺がん、SCC：扁平上皮がん、Surgery：手術療法、
Trimodality：術前放射線化学療法
このように欧米においては、術前放射線化学療法は今後の有望な治療法の一つと考えられているが、現時点では研究の域を出ていない。また術前放射線化学療法の欧米での成績を本邦に置き換えて考える場合、対象症例の組織型や手術術式に違いがあり、注意を要する。
〈本邦における放射線化学療法〉
国立がんセンター東病院では1992年より切除不能(T4)あるいは遠隔リンパ節転移を伴う胸部食道がんに対しシスプラチンと5-FUと同時併用の放射線化学療法の第II相試験を行った。その後合併基礎疾患、高齢などによる手術不能例および手術拒否例に対しても同一内容の治療を施行し良好な結果を得ている。
表3 放射線化学療法の治療成績 ――手術療法との比較
（国立がんセンター東病院 1992年8月−1998年9月）
| 対象 |
症例数 |
治療法 |
生存期間
中央値（月） |
生存率(%) |
| 3年 |
4年 |
T2-3M0
|
40
39 |
S
CRT |
38
34 |
54
46 |
40
46 |
CRT: 放射線化学療法、S: 手術
以上より局所進行食道がんに対する放射線化学療法の治療成績は外科的切除術単独療法に匹敵することが示唆されるが、本邦において放射線化学療法が標準的治療となるためには多施設によるprospective studyが必須である。
コメント ：
局所進行食道がんに対する放射線化学療法は外科的切除術に匹敵する標準的治療になりつつあるが、再発形式として局所再発も少なくない。更なる局所制御および治療成績の向上のために、今後は放射線療法の線量、分割法、治療期間などの検討のみならず、新規抗がん剤・分子標的薬剤の導入、救済手術を含めた手術併用の可否についての検討が必要である。さらにはオーダーメイド治療に向けて放射線療法および化学療法の効果予測についての研究も極めて重要な課題である。
参考資料１ Reference 1：
Chemoradiation as primary management of esophageal cancer.
Coia LR.
Semin Oncol 21: 483-92, 1994
参考資料２ Reference 2：
Chemoradiotherapy of locally advanced esophageal cancer.
Cooper JS, Guo MD, Herskovic A, et al.
JAMA 281: 1623-7, 1999
参考資料３ Reference 3：
INT 0123 (Radiation Therapy Oncology Group 94-05) phase III trial of combined-modality therapy for esophageal cancer: High-dose versus standard-dose radiation therapy.
Minsky BD, Pajak TF, Ginsberg RJ, et al.
J Clin Oncol 20: 1167-1174, 2002
参考資料４ Reference 4：
A comparison of multimodal therapy and surgery for esophageal adenocarcinoma.
Walsh TN, Noonan N, Hollywood D, et al.
New Engl J Med 335: 462-7, 1996
参考資料５ Reference 5：
Randomized trial of preoperative chemoradiation versus surgery alone in patients with locoregional esophageal carcinoma.
Urba SG, Orringer MB, Turrisi A, et al.
J Clin Oncol 19: 305-13, 2001
参考資料６ Reference 6：
Chemoradiotherapy followed by surgery compared with surgery alone in squamous-cell cancer of the esophagus.
Bosset JF, Gignoux M, Triboulet JP, et al.
New Engl J Med 337: 161-8, 1997
参考資料７ Reference 7：
Randomized phase III trial in locally advanced squamous cell carcinoma (SCC) of the esophagus: Chemoradiation with and without surgery.
Stahl M, Wilke H, Walz MK, et al.
Proc Am Soc Clin Oncol 22: 250 2003
参考資料８ Reference 8：
Concurrent chemotherapy and radiation therapy for locally advanced carcinoma of the esophagus.
Ohtsu A, Yoshida S, Boku N, et al.
Jpn J Clin Oncol 25: 261-266, 1995
参考資料９ Reference 9：
Definitive chemoradiotherapy for T4 and/or M1 LYM squamous cell carcinoma of the esophagus.
Ohtsu A, Boku N, Muro K, et al.
National Cancer Center Hospital East
J Clin Oncol 17: 2915-2921, 1999
キーワード：食道がん, 放射線治療, 化学療法, 放射線化学療法, 集学的治療, 局所進行食道がん, Ｘ線, 術前放射線化学療法, 外部放射線治療,
esophageal cancer, radiotherapy, chemotherapy, chemoradiotherapy, multi-modality therapy, locally advanced esophageal cancer, X-ray, preoperative chemoradiotherapy, external beam radiotherapy
分類コード：030201
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