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作成: 2003/10/13 井内 俊彦

データ番号   :030253
神経膠芽腫への IMRT の臨床応用
目的      :神経膠芽腫のような浸潤性腫瘍に対する IMRT 応用の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :直線加速器(10MeV)
応用分野    :医学、治療

概要      :
 IMRT では自由な形の線量分布の作成が可能であり、この方法を用いると、正常組織を守りながら病変部に高線量を照射することが可能となる。さらに、この照射法では重なり合う複数の標的に対して異なる治療線量の設定が可能である。このような IMRT の特性は、浸潤性腫瘍に対する治療法として優れており、ここでは浸潤性脳腫瘍であり特に予後不良である神経膠芽腫への臨床応用を紹介する。

詳細説明    :
1. 神経膠芽腫治療上の問題点
 近年の医療技術の進歩にもかかわらず、神経膠芽腫はその罹患患者の平均生存期間が約10ヶ月と、今なお非常に予後不良な腫瘍である。本腫瘍の治療を困難としている問題点は、1) 脳という重要臓器の中に発生すること、2) 浸潤性に発育すること、3) 従来の外部照射の効果が不十分であったことに集約される。従ってこの腫瘍を制御するためには、1) 正常脳を保護しつつ、2) 浸潤腫瘍も含めた標的設定を行い、3) 従来よりも高線量の照射を腫瘍局所に行う必要がある。

2. 神経膠芽腫治療におけるIMRTへの期待
 従来の放射線外部照射では、浸潤腫瘍を含めた比較的広範囲の照射が可能だったが、正常脳の被曝が多くなることから腫瘍への照射線量に限界があった。一方、最近急速に普及した定位的放射線治療では、線量集中による局所への高線量照射と正常脳被曝の軽減が可能だが、浸潤腫瘍を含めた広範囲の照射には不向きであり、また、線量分布が球形に近くなるといった問題点が残されている。
 強度変調放射線療法 (Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT) は、図1に示すように、直線加速器に取り付けた multi-leaf collimator を動かし、照射野の形状を変えながら照射を行う新しい方法で、異なる形状の照射野の重ね合わせにより自由に照射強度を変更できる。この方法を用いれば、不整形腫瘍に対しても自由な形に線量分布を作成することができ、視神経・脳幹部などの被曝を最低限に押さえながら標的に対して高線量を照射することが可能である。しかも、定位的放射線治療に比較してはるかに広い範囲を標的として設定することができる。このように、IMRT はこれまで成し得なかった、神経膠芽腫治療の前述した3条件を全て満たしうる治療法として期待されている。



図1  


3. IMRT を用いた Simultaneous Integrated Boost 法
 さらに、IMRT は、「重なり合う複数の標的に対して同時に異なる治療線量を設定できる」という特徴を併せ持っている。確かに神経膠芽腫の治療では腫瘍局所のみならず浸潤腫瘍の制御も求められるが、塊を成している腫瘍局所と、正常組織に浸潤している部位とでは、腫瘍量も異なれば再発の危険性も異なる。また、低酸素状態にさらされていると考えられる腫瘍塊と、有酸素状態の浸潤腫瘍とでは同一腫瘍であっても放射線感受性は異なると思われる。このように異なる危険性を有する領域に同一の線量を照射する必要はない。IMRT を用いれば、再発の危険性に応じて異なる線量を同じに照射することが可能で、正常脳の被曝を最低限に押さえながら、浸潤腫瘍に対して中等量の線量を照射しつつ、腫瘍局所に対し大量照射を行うことが可能となる(図2)。



図2  


 このような根拠に基づき IMRT を用いた Simultaneous Integrated Boost 法で治療を行った神経膠芽腫症例の短期経過観察では、遠隔再発を抑制しつつ、従来の外部照射に比較して良好な局所制御が得られている(図3)。



図3  


4. IMRT による神経膠芽腫治療における課題と展望
 今後、局所制御のための至適線量の決定、局所および浸潤腫瘍制御に必要とされる照射範囲の決定、腫瘍体積と照射安全性の関連など、明らかにすべき課題も残されているが、IMRTを用いた Simultaneous Integrated Boost 法は、現時点で神経膠芽腫のような浸潤性腫瘍の治療に最も適した照射法と考えられる。今後は、この特性をさらに活かして、PET 等との組み合わせにより、同一腫瘍内でも部位によって異なる腫瘍の活動性に応じた治療線量の設定も期待される。
 一方、IMRT の治療においては、QAの問題など従来の照射法や定位的放射線治療に比べて、その安全性を確保するために、はるかに高度な専門知識を要する。特に導入初期においては、IMRTの真の効果を判定するためにも、放射線治療医・脳神経外科医のみならず、医学物理士をチームに加えて慎重に治療を行う必要があると思われる。

コメント    :
 IMRT は、1) 自由な形状の線量分布の作成、2) 大きな標的への対応、3) 同一病変内の場所によって異なる放射線抵抗性に応じた治療線量の設定が可能であり、浸潤性腫瘍の治療に適している。未だ解決しなければならない課題も残されてはいるが、従来の直線加速器を用いるIMRTは、今後急速に普及する可能性が高く、神経膠芽腫の治療法の主役として期待される。

キーワード:神経膠芽腫, 脳腫瘍, 局所再発, 遠隔再発, 放射線脳障害, 強度変調放射線治療(IMRT), 定位的放射線治療, 外部照射, Glioblastoma, brain tumors, local failure, distant failure, radiation induced brain damage, Intensity Modulated Radiation Therapy, Stereotactic Radiation Therapy (SRT), external radiation therapy
分類コード:030201, 030402, 030602

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