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作成: 2003/09/27 藤田 広志

データ番号   :030252
マンモグラフィのコンピュータ支援診断
目的      :乳がん画像診断の支援を目的としたコンピュータシステムの紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学,画像診断,集団検診

概要      :
 乳がんを初めとする乳腺疾患の画像診断の目的で,集団検診や一般の診療におけるマンモグラフィ(乳房X線写真)の利用が急激に増えてきている.このような中で,医師の画像診断を支援する装置である「コンピュータ支援診断(検出)(CADと呼ばれる)」システムが実用化され,いま大きな注目を浴びている.CADシステムは,画像上で病変の存在の可能性がある位置を指摘したり,あるいは良悪性の鑑別に有用な定量的指標(確率など)を医師に提示し,読影を支援する.

詳細説明    :
1.マンモグラフィ
 乳房の画像診断には,マンモグラフィの他に,超音波,X線CT,MRIなどによるイメージングを用いる方法があり,それぞれの有用性が認識されている.これらの中でマンモグラフィは,乳房に主訴を有する患者に対する第一選択であると同時に,乳がん検診の手段としても(2000年3月に厚生省(現 厚生労働省)よりマンモグラフィ導入検診が勧告されている),乳腺診療の中心であると言える.このようにマンモグラフィの利用が高まる中で,この画像を診断(読影)できる専門医の不足が問題となっている.また,集団検診のような一度に大量の画像を読影する場においては,病変の見落としが起こる可能性が考えられる.

2.コンピュータ支援診断(CAD)の定義
 コンピュータ支援診断(computer-aided diagnosis,CAD)とは,コンピュータの解析結果を「第2の意見」として利用して診断を行う「医師による画像診断」であると定義される(図1).これは自動診断とは全く異なる概念であるので,注意が必要である.CADに期待されるものは,医師の画像診断の正確度の向上,医師間(施設間)の診断結果のバラツキの減少,診断時間の短縮による生産性の向上などである.特に,集団検診において,有用性が高いと期待される.CADを実現するための装置(コンピュータシステム),すなわちCADシステムは,医師に病変の可能性のある位置を矢印などで画像上に指示したり,良悪性の鑑別結果などの定量的な解析データ(数値データ)を提示する.


図1 コンピュータ支援診断(CAD)の概念図

3.実用化されたマンモグラフィCADシステム
 世界で最初に商品化に成功したCADシステムは,1998年6月に米国でFDA(食品医薬品局)の審査に合格したベンチャー企業 R2 Technology(http://www.r2tech.com/)の「ImageChecker System」(図2)と呼ばれる検診用のフィルムベースのマンモグラフィのためのCADシステムである.さらに,同システムは,2001年4月から,米国における乳がん検診(少し遅れて一般診断にも拡大)におけるCADの利用に対して,特定の保険会社からの医療報酬の請求が承認されるようになった.このR2社のCADシステムを利用した臨床試験の結果として,Radiology 誌に掲載された論文には(Freer and Ulissey, Radiology, vol.220, p.781-p.786, 2001),乳がんの検出率が約20%向上したと報告されている.その後,商用化されたマンモグラフィCADシステムには,2002年になって2つの企業のシステムがFDAの承認を得ている.これらは,CADx Medical Systems (http://www.cadxmed.com/)の「Second Look」と,Intelligent Systems Software, Inc.(icad,inc.に変更される)(http://www.issicad.com/home.lasso)の「MammoReader」である.なお,R2社のCADシステムの販売台数は,2003年9月には千台を超えたとアナウンスされている.


図2 世界で初めて商用化されたマンモグラフィCADシステム(R2社の過去のホームページから引用,現在の同社のホームページには,最新の装置の紹介がある: http://www.r2tech.com/ )

 これらのすべてのCADシステムでは,乳がんに関係する病変候補(腫瘤陰影と微小石灰化クラスタ)を単に検出(存在位置の指摘)するものであり,CADの「D」を検出(Detection)の「D」として,コンピュータ支援検出(computer-aided detection)の意味で使用している.今後,検出した候補の良悪性の鑑別処理などもCADシステムに包含されるようになれば,Dは診断のDに置き換わると予想される.

4.CADシステムの課題
 マンモグラフィCADシステムは実用機が出現したものの,解決されるべき課題はたくさんある,まず,CADシステムの性能の向上(検出率の向上,偽陽性候補の減少など)は重要な課題であり(特に,腫瘤の検出),また,検出対象として「構築の乱れ」と呼ばれる病変への対応も要望されている.現システムの検出性能のおよそのデータは,評価試験に用いた画像データベースに依存するが,腫瘤陰影の検出能(真陽性率:TP)が90%(偽陽性候補数:FPが1個/画像のとき),微小石灰化クラスタのそれが95%(FPが0.5個/画像のとき)である.検出性能は決して100%ではなく,また偽陽性候補(拾いすぎ)も存在するが,医師がCADを利用することにより,全体的な検出性能が向上するものである.臨床的なCADシステムの評価,特に検診における医師による2重読影を1名の医師+CADに置き換えが可能かどうかの実験成果も,いま期待されている.また,良悪性鑑別機能のCADシステムへの追加も要望されている.
 本邦におけるマンモグラフィCADシステムの現状について言及することにより,さらなる課題がクリアになる.上記のR2社のCADシステムは,国内におけるある企業が2000年2月に厚生省の薬事承認を得て販売を始めたが,残念ながら今日では販売を行っていない(その後,別の企業がR2社の最新のシステムに対して輸入承認申請中).この事例は,残念ながら米国におけるCADの成功例とは異なっており,これにはいくつかの要因が考えられる.例えば,販売企業のCADへの理解や知識の不足が考えられ,マンモグラフィに対する日本の当時の状況の認識不足(検診にマンモグラフィの導入が始まったばかりで,撮影手技,撮影装置,画質などに問題がたくさんあった)が考えられる(現在では,マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(1997年設立)の活発な活動により(http://www.marianna-u.ac.jp/gakunai/jabcs/seityui.html),これらの諸問題はかなり改善されるようになってきている).また,システムの販売価格も検診施設で採用するには,まだ相当高価であったようである(安価なシステムが要望される).さらに,国内の状況に限ったものではないが,マンモグラフィはまだフィルム(アナログ)が主体である,フィルムディジタイザを伴うことによる不便さの問題は大きく(余分な人件費が必要),ディジタルマンモグラフィ撮像装置の普及が望まれ,次項でも説明するように,直接ディジタル画像を対象としたCADになって初めて,有効性が増す.なお,現時点で,国内で販売されているマンモグラフィCADシステムはない(輸入承認申請中).

5.画像デジタル化とネットワーク環境の中で
 すべてのデジタル画像が,ネットワーク化された本格的な医療情報システムで利用できる本格的なPACS(picture archiring and communication system)環境のディジタル時代になって始めて,CADの有用性が増すと予想される(マンモグラフィはX線画像の中ではまだ唯一フィルム(アナログ)が主体である).逆に,CADのない医療情報システムは,コンピュータの知的な利用に欠けるものであり,魅力のない状態であると言っても過言ではない.将来は,世界中の医療ネットワークの中に各種のCADシステムが融合されることにより,「知の医療ネット」として進化していく可能性もある.なお,医療画像の統一規格であるDICOM(digital imaging and communication in medicine)では,すでにマンモグラフィCADシステムの結果レポートなどのフォーマットにまで拡張されており(DICOM Supp. No.50, Mammography CAD: http://www.dclunie.com/dicom-status/status.html),これによりPACS環境において,CADの解析結果を共通のフォーマットで画像データの中で取り扱うことが可能になっている.
 ここでは,取り上げなかったが,超音波画像も検診で利用されており(特に,デンスブレストに効果がある),乳腺超音波画像のCADシステムの開発も進められており,実用化には大きな時間はかからないと予想される.

コメント    :
 CADシステムは,肺がん診断領域(結節の自動検出)でも実用化が行われており,今後,各種診断方法や,各種診断領域に広がろうとしている将来性のある技術である.これまでのCAD開発の中心は,大学やベンチャー企業が主体があったが,大企業もようやくCADの分野に本格的に進出してくるようになった昨今である.CADは21世紀の画像診断に大きなインパクトを与えるようになってくるであろう.

原論文1 Data source 1:
マンモグラフィCADシステムの現状
藤田 広志
MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY 2003; 21: 27-33

原論文2 Data source 2:
CADにおける最近の動向
藤田 広志
JPACS NEWSLETTER 2002; 12: 5-6

原論文3 Data source 3:
コンピュータ支援診断(CAD)の最新情報とその将来
藤田 広志
医用物理, 22,Suppl 1, 1-24, 2003

キーワード:コンピュータ支援診断, コンピュータ支援検出,マンモグラフィ,乳房X線写真,画像処理と認識,乳がん,腫瘤,微小石灰化,乳がん検診, キャド, computer-aided diagnosis, computer-aided detection, mammography, breast radiogram, image processing and recognition, breast cancer, mass, microcalcification,breast mass screening, CAD
分類コード:030103,030401

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