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作成: 2003/7/07 勝盛哲也

データ番号   :030251
子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術
目的      :子宮筋腫による症状を改善させる子宮動脈塞栓術について紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :エックス線管

概要      :
子宮筋腫は、成人女性の骨盤腫瘍の中で最も頻度が高い良性腫瘍とされている。無症状ならば、通常は経過観察をされるが、症状が生じれば、様々な有効な治療の選択肢(対症治療、ホルモン治療、外科的手術など)が存在する。子宮動脈塞栓術は、症状のある子宮筋腫に対して、従来の治療法にない特性があり、重篤な合併症が少なく、低侵襲で、安全で、有効な治療法として、海外はもとより本邦でも行われている。本項では、子宮筋腫に対する本治療について概説する。

詳細説明    :
1.背景
子宮筋腫は、成人女性のおよそ4人に1人に認められる良性腫瘍で、女性の骨盤腫瘍の中で最も頻度が高いとされている。無症状ならば、通常は経過観察をされるが、症状(月経過多、月経時痛、圧迫症状など)が生じれば、様々な有効な治療の選択肢(対症治療、ホルモン治療、外科的手術など)が存在する。
子宮動脈塞栓術は、症状のある子宮筋腫に対して、従来の治療法にない特性があり、重篤な合併症が少なく、低侵襲で、安全で、有効な治療法として、海外はもとより本邦でも行われている。2003年7月現在、子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術は、海外では12年以上、本邦では5年以上の歴史があり、世界で少なくとも3万人以上の女性が本治療を受けている。

2.治療目的
本治療の目的は、子宮筋腫由来の症状を改善させて、筋腫によって低下した女性の生活の質を改善・維持させるとともに、子宮と卵巣の形態と機能を温存させることにある。

3.適応
1)子宮筋腫による症状がある。
2)薬剤療法で症状のコントロールが困難である。
3)子宮癌検査が陰性である。
4)閉経前である。
5)外科的手術を希望しない。
6)現在妊娠をしていない。
7)原則として将来の妊娠・分娩を希望しない。

4.治療方法
方法は、下肢の付け根に局所麻酔を行って、皮膚に5mm程度の切開をした後、カテ−テル(スパゲッティーの麺程度の太さの管)を動脈の中に挿入する。その後、カテーテルを通じてX線で写るヨード造影剤を流して、骨盤の動脈を撮影する。そして、X線透視画面を参照しながら子宮動脈へカテーテルを挿入して、血管が閉塞するような物質(塞栓物質)を、カテーテルを通じて子宮動脈に注入して、これを閉塞させる。子宮動脈は、通常は左右1本づつ存在するが、両側とも同様に閉塞させる。子宮筋腫は、子宮動脈から血液を受けており、栄養と酸素は絶たれるので治療後は壊死となるが、正常の子宮組織は他の動脈(卵巣動脈、膣動脈など)からも栄養を受けているため温存される。このため術後は、通常、生理や受胎能は温存されうる。



図1 右子宮動脈撮影


5.治療効果
筋腫による症状(過多月経、疼痛、圧迫症状など)は、85〜90%の女性で改善され、子宮筋腫によって低下した生活の質が改善される。筋腫体積は、元々の体積の平均30−60%に縮小し、初回の治療で奏効した筋腫は再増大しないとされている。

6.長所
筋腫の大きさ、部位、数にかかわらず治療が可能である。ホルモン剤を使用しない。重症の貧血を合併していても、本治療を行うことができる。輸血をしない。過去に骨盤内の外科的手術を行っていても、治療を行うことができる。体や子宮にメスを入れないため、体表に美容上目立つような傷痕が残らない。外科的手術と異なりお腹の中を直接触らないので、骨盤内臓器に問題となるような癒着は生じない。低侵襲な治療のため、入院期間は数日と短期間になる。そして早期に(平均1−2週間程度で)社会復帰ができる。

7.短所
1)下記の合併症の可能性がある。
2)術後およそ6〜12時間、下腹部に生理痛に似た強い疼痛が必ず生じるので、この間はモルヒネの点滴や硬膜外麻酔が必要となる。
3)10〜15%程度で本治療が奏効しない。
4)筋腫を切除しないため、術後に病理組織による診断は得られない。
5)治療にX線を利用する。(ただし人体に悪影響のない線量とされている)
6)2003年7月現在、本邦では健康保険の適応外である。
7)新しい治療であるため、10年以上の長期的な治療成績がない。

8.合併症
重篤な合併症が生じる確率は数%程度である。子宮全摘術を必要とする合併症は、1〜2%である。
1)死亡:2003年7月現在、世界でおよそ30000例以上に対して本治療が行われてきているが、死亡は4例(肺塞栓症2例、敗血症1例、子宮損傷1例)である。いずれも海外で生じている。
2)感染症:頻度は数%程度と稀である。これらの多くは、抗生物質などの保存的治療で制御できるが、制御できなければ子宮全摘術などの外科的手術が必要となる。
3)子宮の内に突出した筋腫(粘膜下筋腫)は、およそ5%の頻度で、術後子宮内腔に脱落したり分娩したりする。腟より自然排出されなければ、子宮内感染の原因となるため、婦人科医によって経腟的に除去する必要が生じる。
4)卵巣機能不全:およそ5%程度とされている。
5)内膜の広範囲な壊死、子宮筋層の広範囲な壊死など、重篤な子宮損傷が生じうる。頻度はおよそ1%とされている。
6)異所性塞栓:目的としない動脈へ塞栓物質を注入することによって生じる。卵巣機能不全、坐骨神経損傷、殿部・外陰の皮膚損傷、膀胱損傷・血尿、直腸損傷・下血などが知られているが、卵巣機能不全以外は稀である。
7)術後疼痛に対する麻酔の合併症:塩酸モルヒネや鎮静剤、硬膜下麻酔に伴う副作用・合併症。
8)血管造影検査に伴う合併症:ヨード造影剤によるアレルギー、血管損傷、穿刺部の出血・感染、下肢深部静脈血栓症・肺塞栓症などがある。

コメント    :
本治療の技術的な成功率(左右の子宮動脈にカテーテルを挿入でき十分塞栓できる確率)は、血管造影・動脈塞栓術に熟練した放射線科医が行った場合、95〜99%とされている。ただし、技術的に成功しても、筋腫による症状の改善率は、85〜90%である。
本治療の妊娠・出産に対する影響は、現時点では十分には解明されていない。このため本治療は、一般に将来の妊娠・分娩を希望しない女性が対象となる。
本治療で使用する放射線量は、発表されたデータによると、卵巣に対しては平均10〜20cGyという線量で、患者の健康に問題はないとされている。
術者(放射線科医)は、X線の使用について十分な教育・訓練を受けており、できる限り少ない放射線量で本治療を終了させる。

原論文1 Data source 1:
The Ontario Uterine Fibroid Embolization Trial. Part 2. Uterine fibroid reduction and symptom relief after uterine artery embolization for fibroids
Pron G, Bennett J, Common A, Wall J, Asch M, Sniderman K
Fertil Steril. 2003; 79: 120-7

原論文2 Data source 2:
Uterine artery embolization for symptomatic fibroids: clinical results in 400 women with imaging follow up
Walker WJ, Pelage JP
Brit J Obst Gynecol 2002; 109: 1262-72

原論文3 Data source 3:
Uterine artery embolization for leiomyomata
Spies JB, Ascher SA, Roth AR, Kim J, Levy EB, Gomez-Jorge J
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原論文4 Data source 4:
Uterine artery embolization using gelatin sponge particles alone for symptomatic uterine fibroids: midterm results
Katsumori T, Nakajima K, Mihara T, Tokuhiro M
Am J Roentgenol 2002; 178: 135-9

キーワード:子宮, 子宮筋腫, 動脈, 塞栓術, 放射線医学, IVR, 低侵襲治療, 代替治療, 子宮動脈塞栓術(UAE), uterus, uterine fibroid,uterine myoma, artery,embolization,radiology, interventional radiology, minimally invasive treatment, alternative treatment, uterine artery embolization,
分類コード:030101

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