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作成: 2003/10/8 中島 崇仁

データ番号   :030249
MRIによる心筋梗塞の診断
目的      :心筋梗塞巣を視覚的に評価できるMRI画像の紹介
応用分野    :医学,診断

概要      :
MRIでは造影剤の投与により心筋の梗塞巣を明瞭に描出することが可能である。最近の装置の進歩によって空間分解能が高くなり、心筋内膜に限局したようなわずかな病変でも検出されるようになった。生存心筋と壊死心筋の正確な分布を視覚的に描出することは、梗塞後の予後や治療効果を推測する上で大変重要である。

詳細説明    :
 従来、心筋梗塞の位置や拡がりを視覚化するには核医学検査が用いられていた。タリウムやテクネシウム製剤を用いた検査ではこれら製剤が正常心筋に取り込まれることにより、病変が欠損部位として描出される。しかし、核医学検査では空間分解能が低く、心筋の厚さ方向の診断が困難であった。心臓のMRI検査では分解能の高い画像を得ることが可能で、内膜下や乳頭筋・右室壁などに限局した病変でも描出される。また、生存心筋と壊死心筋の分布を正確に評価することができ、梗塞後の予後を推測する上でも大変有効である。
MRIによる心筋梗塞巣の撮像には心電図同期が用いられ、1回の撮像は呼吸停止下に行われる。このことにより、呼吸と心臓の動きによる撮像のブレがない明瞭な拡張末期画像が撮像される。撮像の15分前には20ml程度のMRI用のガドリニウム造影剤が静脈注射される。


図1 遅延濃染画像での心筋梗塞の描出(原論文1より引用)

撮像方法(撮像シーケンス)には従来のスピンエコー(SE)法と新たに開発されたインバージョン・リカバリー・グラジエントエコー(IR-GRE)法がある。前者では急性期から亜急性期の心筋壊死のように、炎症や浮腫が存在した状態でないと病変の検出が困難であった。現在主流となっているIR-GRE法では急性期から慢性期までどの時期の病変でも検出が可能となった。この方法はインバージョン・リカバリー・パルス(IRパルス)というラジオ波パルスを撮像時に加えることにより、壊死心筋と生存心筋の強いコントラストを得ることを目的としている。
一般にMRI用のガドリニウム造影剤は細胞外液に分布し、組織のT1時間を短縮する方向に作用する。T1時間の短い組織からは強い信号を得ることができ、造影剤が多く分布している組織(部位)はT1強調画像にて白く描出される。壊死心筋では相対的に細胞外液が増えるため、正常心筋よりT1時間が短縮する。


図2 MRI用造影剤の細胞外液への分布と信号強度(原論文2より引用)

正常心筋と壊死心筋でのT1時間の違いを強調するために、IRパルスが利用される。IRパルスの付加は正常心筋の過剰プロトンがnull pointと呼ばれる撮像パルスと共鳴しない位置になるようなタイミングに設定される。このタイミングは患者ごとにことなっており、最も適切なコントラストを得るためにはその付加のタイミングを患者ごとに調節する必要がある。このため、検査ごとに造影剤の静脈注射後に体内への造影剤の分布が比較的均一になったと思われる15分後以降に、タイミング調節のための撮像を何回か施行して適切なタイミング(TI値)を決めている。撮像は15分以降であれば1時間程度までは可能と考えられており、我々はこの撮像法により得られる画像を遅延濃染画像と呼んでいる。
画像の評価は急性期の浮腫を除いて、白く描出された部位を梗塞と診断する。Kimらは犬の梗塞心筋をモデルに遅延濃染画像と実際の病理所見とを対比している。この報告ではこの2つに良好な相関性があることが示されている。


図3 遅延濃染画像と組織標本による壊死心筋の広がりの対比(原論文3より引用)

心筋のバイアビリティーは壁を貫いているか、壁の1/2の内膜に限局しているかによって判断される。心筋のバイアビリティーは虚血性心疾患の治療において重要な指標となる。梗塞部位が壁の1/2にとどまっていれば、心筋の運動は回復することが見込め、貫壁性の病変では治療効果が期待できない。また、気絶心筋や冬眠心筋と言われる病変は壊死心筋と同様に壁運動に乏しい。これらの心筋は遅延濃染画像で白くならないので、壊死心筋と区別され治療の対象と考えられる。
心臓MRIは現在急速に広まりつつある状況にある。心筋のバイアビリティーを正確に評価できることは、虚血性心疾患の治療適応や予後を推測する上で大変有用であり、今後心筋梗塞の分野で中心的役割を果たしていく検査になると考えられる。

コメント    :
虚血性心疾患は社会的に大変重要な疾患であり、その診断にはいろいろな分野から重要視されている。壊死心筋の広がりを視覚的に評価できることは患者の病態・病状を理解する上で非常に有用であり、MRIでの遅延濃染画像は今後の医療の中で大変重要な役割を果たすと考えられる。

原論文1 Data source 1:
心疾患画像診断の実際
永田幹紀・佐久間肇ら
臨床画像増刊号2002,vo18,p110-139

原論文2 Data source 2:
造影MRAによる心筋虚血と梗塞の診断
北川覚也・佐久間肇
MRI応用自在(メジカルビュー社),p246-251

原論文3 Data source 3:
Relationship of MRI Delayed Contrast Enhancement to Irreversible Injury, Infarct Age, and Contractile Function
Kim, RJ et al
Circulation. 1999;100:1992-2002

キーワード:心筋梗塞, 磁気共鳴画像, 心臓,遅延濃染画像, 虚血性心疾患, インバージョン・リカバリー法, 壊死心筋, 造影剤, 左室, ガドリニウム, MRI, myocardial infarction, Magnetic resonance imaging,heart,delayed enhancement image,ischemic heart disease,inversion recovery method,infarct myocardium, contrast material,left ventricle,gadolinium,Magnetic resonance imaging
分類コード:030106,030301,030401

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