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作成: 2003/03/14 小山 佳成

データ番号   :030248
骨転移に対する椎体形成術
目的      :骨転移等による圧迫骨折に対する最新の治療である経皮的椎体形成術について紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学,診断, 治療

概要      :
椎体への骨転移や骨粗鬆症に伴う圧迫骨折の疼痛緩和や安定性増強のために,X線ないしはCT透視下に椎体を経皮的に穿刺して穿刺針を通して骨セメントを注入する経皮的椎体形成術は高い除痛効果が得られるとされ低侵襲と即効性が注目されている.

詳細説明    :
経皮的椎体形成術とは,悪性腫瘍の椎体への骨転移や骨粗鬆症に伴う圧迫骨折の疼痛緩和や安定性増強のために,透視下に椎体を経皮的に穿刺して穿刺針を通して骨セメント(methylmethacrylate)を注入する手技である.90%以上の症例で3日以内に高い除痛効果が得られるとされ低侵襲と即効性が注目されている.
1987年フランスでGalibertらが最初に報告し,以後1990年代後半から欧米では優れた効果が報告されている.本邦では1997年に馬場らにより最初の報告がなされ,以後多施設で施行されるようになってきている.さらに,2003年からは厚生労働省がん研究助成金による「がん治療におけるIVRの技術向上と標準化に関する研究」班(荒井班)で多施設による臨床試験も開始されている.
<原理>
 除痛効果の原理は解明されていない.骨折部位の固定化が骨膜刺激を軽減するという説がもっとも支持されている.さらに骨セメントの化学的刺激や90℃に及ぶ重合時の温熱効果が神経終末に作用するという説も唱えられている.
<適応>
椎体などの加重がかかる骨における悪性腫瘍の転移,骨髄腫や血管腫などの原発性骨腫瘍,骨粗鬆症による単純圧迫骨折これらが原因で疼痛・神経障害を訴えている患者が対象となる.適応外となるのは急性期感染症例,出血傾向例,重篤な心疾患症例である.放射線治療との併用は本治療を先行させて早期に疼痛の軽減を図った上で放射線治療を進めていくのが望ましいと考えられている.併用により疼痛の再発率の低下も期待できる.
<手技の実際>
1.静脈路を確保の上で手技を開始する.血圧,心電図,血中酸素飽和濃度のモニターを施行する.特別な鎮痛剤投与や全身麻酔は神経症状の確認を困難にするため勧められていない.
2.X線透視(2方向)ないしはCT透視下にカテラン針で穿刺経路と骨膜刺入部を局所麻酔する.CT透視を使用した方が容易かつ安全性が高いと考えられている.
3.11-14Gの骨生検針(Ostycut,Osteositeなど)を慎重に進め椎体の前1/3〜1/4に到達させる.
4.前日より冷蔵保管したアクリル性骨セメント製剤(Zimmer社製Osteobondなど)の粉末ポリマーと液体モノマーを1分程度混和して注入用セメントを作成する.1mlないし2.5mlのシリンジや専用注入器に用意する.
5.脊柱管内や椎間孔へのセメント漏出がないことを確認しながら慎重かつ手早く注入していく.X線透視下では骨セメント製剤内のバリウムの含有量が十分でなく視認性が悪いのであらかじめバリウムを追加混和しておく必要がある.
 


図1 CT透視を用いた経皮的椎体形成術 a:患者の皮膚上にマーカーを添付 b:椎弓を介して椎体に注入針刺入 c:テーブルを動かしながらCT透視で観察して骨セメントを用手的に注入 d:骨セメント注入後の透視像(原論文2より引用)

 
6.X線透視ないしはCTにて骨セメントの分布を確認し手技を終了する.
7.術後の感染予防のため抗生剤を投与し,疼痛の程度を見ながら安静度を解除していく.
<成績と合併症>
 骨粗鬆症では疼痛緩和効果は80-90%,椎体腫瘍症例では60-70%程度の奏効率が報告されている.多くは24時間以内に疼痛が緩和し遅くとも3日以内に効果が出現するとされている.合併症は稀とされているが骨粗鬆症では1.3%,骨転移では10%との報告がある.重篤な合併症の報告としては,大量のセメント使用による死亡,骨セメントや骨髄脂肪による肺塞栓,脊柱管内のセメント漏出による脊髄障害などが報告されている.
 群馬大学の10例の検討では術後の神経根症状の一時的悪化を2例で認めている.金沢大学の58例の検討では神経症状の一時的悪化は1例である.

コメント    :
 骨転移などを原因とする椎体圧迫骨折の疼痛緩和は従来,麻薬投与と放射線治療との組み合わせで行われてきた.経皮的椎体形成術は低侵襲性・即効性・他治療との相補的関係から今後さらに積極的に施行されていくと考えられる.

原論文1 Data source 1:
経皮的椎体形成術(percutaneous vertebroplasty)の初期経験
青木純,小山佳成,石橋明博,森田英夫,武富綾子,小澤久美,中島崇仁,八木明子,新井清和,佐藤典子,遠藤啓吾
Kitakanto Med J 2002; 52:443-448

原論文2 Data source 2:
骨・関節のIVR 3.経皮的椎体形成術の実際
小林健,高仲強,松井修
IVR会誌 2002;17:17-22

キーワード:経皮的椎体形成術,圧迫骨折,骨粗鬆症,骨転移,骨髄腫,骨セメント,CT透視,放射線治療,percutaneous vertebroplasty,compression fracture,osteoporosis,bone metastasis,myeloma,bone-cement,CT-fluoroscopy,radiation therapy
分類コード:030101,030102,030402

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