IVRにおける放射線被曝と防護

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作成： 2002/11/12 中村仁信データ番号　　　：030242 IVRにおける放射線被曝と防護目的　　　　　　： IVRにおける患者被曝と術者被曝の実態、防護対策の紹介放射線の種別　　：エックス線放射線源　　　　：X線管応用分野　　　　：医学、治療、放射線管理概要　　　　　　：　インターベンショナル・ラジオロジー（IVR)の件数が増え、手技が複雑化した。これによって患者の放射線皮膚障害の報告が増え、術者の眼の障害も報告されている。 ICRPはこれを憂慮し、Publ.85「Avoidance of radiation injuries from medical interventional procedures」を刊行した。IVRにおける患者の皮膚線量、術者の障害の実際について考察し、防護対策のポイントを紹介する。詳細説明　　　　： 1.IVRにおける患者被曝について　患者被曝において問題となるのは、放射線皮膚障害である。皮膚障害の程度は、紅班から皮膚壊死まで様々であるが、一定の線量（しきい値）を超えることによって発現し、重症度は照射された放射線量に依存する（確定的影響）（表1）。従って、皮膚障害の程度から照射された線量を推測できる。また、症状の発現までには、表1の如く潜状期間があることに留意しておかねばならない。重篤な皮膚炎、皮膚壊死をきたしているIVR手技は、PTCA（ステント留置を含む）、心臓のRFアブレーション（不整脈治療）がほとんどで、　放射線科医が関与した例としては、２回のTIPS（総手技時間12時間以上）後の皮膚潰瘍、７ヶ月間に4回のTAEを施行した後の放射線皮膚炎などの報告がある。TAEによる患者の平均的被曝量は、日本血管造影・IVR学会放射線防護委員会の調査では、患者の右背部の皮膚面で平均973mGy(最大3543mGy)であった。カテーテル挿入に時間がかかる症例で短い間隔でTAEが繰り返されれば皮膚障害が起こり得る。10年以上経った古い透視装置を用いている施設では、特に注意が必要で、後述の防護対策を徹底して行わねばならない。表1　皮膚障害におけるしきい線量と発現までの時間しきい線量発現までの時間一過性の初期紅斑一過性脱毛紅斑永久脱毛乾性落屑湿性落屑皮膚壊死潰瘍　　２Sv 　　３Sv 　　６Sv 　　７Sv 　１０Sv 　１５Sv 　１８Sv 　２０Sv 　　　数時間　　　３週間　　　１０日　　　３週間　　　４週間　　　４週間　　１０週以上　　　６週以上２.IVRにおける術者被曝について　術者被曝は、職業被曝の一つであり、ICRP勧告によって年間の線量限度が定められている。　1990年勧告では実効線量が年平均20mSv（5年間で100mSvまで）と厳しくなり、本邦でも2001年4月から取り入れられている。唯一文献的に報告されている術者の障害は水晶体の混濁で、オーバーチューブ装置を用いてのIVRを眼の防護なしで行っていたケースである。眼の被曝線量は450～900mSv/年と推定され、年間の等価線量の限度150mSvをはるかに超えていた。後述の防護対策にあるように、IVRではオーバーチューブ装置を用いるべきでないが、どうしても使わざるを得ない時には防護眼鏡が必須である。また術者の手、足の皮膚の線量限度は500mSv/年であるが、手に直接X線を浴びるなどのことがなければ、限度を超えることはない。３.ICRP勧告（Publ.85）の要点　ICRPは 1997年IVRでの放射線障害を防ぐための勧告を出すことを決め、多くの議論を経てPublication 85「 Avoidance of radiation injuries from medical interventional procedures」が2001年に刊行された。今回の勧告で特に重要と思われる3つの要点を以下に記す。　①インフォームド・コンセント　IVRに関するインフォームド・コンセントを得る際、放射線障害のリスクを説明せねばならない。障害は遅れて現れること、短期間に繰り返し行われることより重症化することを含めて述べねばならない。　②プロトコール　IVRの手技ごとにプロトコールを作成し、標準的な撮影部位と回数、透視時間などを記載する。同時にその場合の患者の皮膚線量と部位がわかるようにしておく。これによって術者は各手技の被曝線量を知り、それとの対比で実際のIVRでの患者の皮膚線量を推定できる。　③３Gy、追跡調査　１回のIVRでの患者の推定皮膚線量が３Gy（繰り返される手技では１Gy）を超えた場合、皮膚の照射部位と線量をカルテに記載する。３Gy以上の場合、患者および主治医に皮膚障害の可能性を説明し、10～14日後に追跡調査を行わなければならない。４.防護対策　防護対策として最も重要なのは、IVRを行う医師の被曝を減らそうという強い意志であり、表２に示したポイント（Publ.85から抜粋）に留意すればよい。また、被曝が多くなってきた時には警告を発する診療放射線技師の協力が重要であることも付記したい。表2　防護対策のポイント患者被曝の低減のために（これらの多くは術者被曝も減らす）　・　透視時間を必要最小限にせよ----------最も重要なGolden Ruleである。・　体格のいい患者では線量率が高くなり、累積線量も早く増加することを忘れるな。・　管電圧(kVp)をできるだけ高く、管電流をできるだけ低くせよ。・　X線管を可能な限り患者から遠ざけよ。・　I.I.を可能な限り患者に近づけよ。・　拡大透視を使い過ぎるな。　・　小さい患者やI.I.を患者に近づけられない時には、グリッドを取り外せ。・　照射野を必要最小限に絞れ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・　手技が長引いた時には、患者の位置、照射野、照射角度を考えて皮膚の同じ部位ばかりが　　被曝しないよう工夫せよ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・　多くの装置では手技中に線量率は変化し、透視時間は大まかな指標になるだけと心得よ。　　患者の体格、管球の位置、照射角度、線量率、患者と管球の距離、撮影枚数などによって　　同じ透視時間でも被曝は10倍も異なる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　術者被曝の低減のために　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・　術者は防護エプロンを着用し、シールドを用い、線量をモニターし、どの位置に立てば　　被曝を最小にできるかを知れ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・　側面透視では術者はI.I.のある側に立て（管球の側に立てば被曝は4倍も多くなる）。　　 X線管が患者テーブルの下に位置する装置（アンダーチューブ）を用いよ。　コメント　　　　：　IVRにおける患者の放射線皮膚障害は、IVR施行医が責任をもって防がねばならない。そのためには、術者は放射線の生物学的影響、人体への影響を正確に知り、防護対策のための技術を修得しておかねばならない。原論文１ Data source 1：特集　放射線診療における被曝　１．総論中村仁信大阪大学大学院医学系研究科医用制御工学講座日本医学放射線学会雑誌　６２（７）、３４０－３４２，２００２原論文２ Data source 2：肝細胞癌の動脈塞栓療法における患者と術者の被曝測定石口恒男、中村仁信、岡崎正敏ほか７名日本血管造影・IVR学会放射線防護委員会日本医学放射線学会雑誌　６０（１４）、８３９－８４４，２０００原論文３ Data source 3：ＩＣＲＰ　Publ.85「 Avoidance of radiation injuries from medical interventional procedures」の紹介と術者被曝対策中村仁信大阪大学大学院医学系研究科医用制御工学講座臨床放射線　４７（８）、１００３－１００５，２００２原論文４ Data source 4：インターベンションにおける放射線障害の防止:ＩＣＲＰ勧告（Ｐｕｂｌ．８５）の紹介と防護の実際中村仁信大阪大学大学院医学系研究科医用制御工学講座日本心血管インターベンション学会誌　１７（２）、１３１－１３４，２００２原論文５ Data source 5：特集　放射線と健康　ＩＶＲ時の患者および術者の防護中村仁信大阪大学大学院医学系研究科医用制御工学講座日本医師会雑誌　１２４（３）、３５６－３６０，２０００キーワード：インターベンショナル・ラジオロジー　 interventional radiology,　放射線被曝　radiation exposure,　放射線防護　radiation protection,　放射線皮膚障害　radiation skin injury, 国際放射線防護委員会　ＩＣＲＰ，肝動脈塞栓療法　ＴＡＥ，経皮的冠動脈形成術　ＰＴＣＡ，インフォームド・コンセント　informed consent　分類コード：030602, 030603, 030101
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	しきい線量	発現までの時間
一過性の初期紅斑一過性脱毛紅斑永久脱毛乾性落屑湿性落屑皮膚壊死潰瘍	２Sv 　　３Sv 　　６Sv 　　７Sv 　１０Sv 　１５Sv 　１８Sv 　２０Sv	数時間　　　３週間　　　１０日　　　３週間　　　４週間　　　４週間　　１０週以上　　　６週以上