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作成: 2002/10/31 遠藤 登喜子

データ番号   :030241
マンモグラフィと乳がん検診
目的      :乳がんの早期発見のためにスクリーニング法としてのマンモグラフィの役割と読影法の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
線量(率)   :平均1.4−1.5mGy
応用分野    :医学、診断、検診

概要      :
 急増する乳がんへの対策としてマンモグラフィ併用乳がん検診が推進されている。マンモグラフィの撮影対象は密度差の小さい軟部組織であることから、モリブデンターゲット・モリブデンフィルタによる特性X線が用いられ、乳房を圧迫して均一な厚さにして撮影する。高感度・高コントラストのスクリーン・フィルムシステムが標準的に採用されており、精度管理がきわめて重要である。
 読影では、光学的高濃度フィルムにあわせた読影環境の整備が必要である。また、読影法とその記載には、日本医学放射線学会のマンモグラフィガイドラインによる読影法が標準的に用いられており、カテゴリー判定と組織推定診断を行う。
 また、検診では画質基準を満たした画質が要求されており、撮影技師と読影医師にも基本講習プログラムの修了が必須条件となっている。 

詳細説明    :
 日本女性の乳がんは急増しており、年齢調整罹患率では第1位、死亡率は全年齢では第5位であるが、壮年層を対象とした場合には第1位であり、現在も急増中である。この乳がん死を減少させうる方法として着目されているのがマンモグラフィ併用乳がん検診である。マンモグラフィでは触知不能乳がんの発見も可能で、優れた客観性・記録性により検診に適しており、その有効性については欧米におけるRCT(無作為比較試験)により50歳以上については死亡率減少効果があるとされている。40歳代については、欧米の論文ではいまだ有意な死亡率減少効果は証明されていないが、わが国においては40歳代の罹患率が高いこともあり、50歳以上を対象とした視触診・マンモグラフィ併用検診と同等の感度が証明されている。
 マンモグラフィの被写体である乳房はすべてが軟部組織であるため、エックス線発生装置には基本的にはモリブデン(Mo)ターゲット・Moフィルタが装備され、特性エックス線を使用して撮影する。高密度乳房に対しては被曝の低減を図るために、ロジウムあるいはタングステンターゲットやロジウムフィルタを用いる。
 受光系はスクリーン/フィルムシステムが標準で、鮮鋭度の高い画質を確保するため、片面乳剤のフィルムが用いられ、カセッテは胸壁ぎりぎりまで撮影範囲に入るよう工夫されている。システムは高感度であり、被曝線量は乳腺線量で約1.4〜1.5mGyである。マンモグラフィの病変描出能を確保するために、マンモグラムの画質評価法が確立され、検診施設に対してファントム画像、臨床画像による評価が行われている。(表1)

表1 マンモグラムの画像評価
1)ファントム画像評価
 ACR-RMI156型ファントムの乳腺濃度を1.40±0.15の範囲になるよう撮影し、視覚評価とデジタル評価の2方法により評価する。

a)視覚評価
 次の3項目の条件を満たし、かつ、アクリル円板と乳腺濃度との濃度差0.4以上のコントラストを満たすこと。

1)模擬繊維・・・・4本目までの繊維構造の全長が認識可能
2)模擬微細石灰化・・・3群までの微細石灰化群が検出可能
3)模擬腫瘤・・・・3個目までの腫瘤が検出可能
  
b)デジタル評価
 ファントム画像の乳腺部分の信号対雑音比と関心領域の信号対雑音比(SNRx/SNRs)が0.8以上であること。
2) 臨床画像評価
 乳腺散在、不均一高濃度、高濃度の3症例6枚のMLO画像を評価し、平均点で評価する。(A:88〜100点 B:76〜87点 C:64〜75点 D:63点以下)A・B評価が合格。不合格となった施設は早急に改善のうえ再評価を受けなければならない。

a)指定した乳房の構成の理解度 ・・・4点

b)画質 ・・・ 60点
 1)乳腺濃度・・・20点
 2)マンモグラムのベースの濃度・・・8点
 3)コントラスト・・・8点
 4)粒状性 ・・・8点
 5)鮮鋭度 ・・・8点
 6)アーチフアクト ・・・8点

c)ポジショニング ・・・24点
 1)左右の対称性・・・4点
 2)乳頭 ・・・4点
 3)大胸筋川4点
 4)乳腺後隙・・・4点
 5)乳房下部inbamammary hold・・・4点
 6)乳腺組織の伸展性・・・4点

d)フィルムの取り扱い・・・12点
 1)照射野の範囲・・・4点
 2)撮影情報・・・4点
 3)フィルムマーク・・・4点
また、デジタルマンモグラフィも現在約30%の施設で使用されているが、その評価基準は現在検討中である。
 マンモグラフィの撮影は乳腺を広げるよう、乳房を薄くのばし圧迫して撮影する。圧迫により被曝の低減とともに乳腺の重なりを少なくさせ、鮮明な画質を確保しやすくなる。撮影法としては頭尾方向と内外斜位方向撮影が基本であるが、検診では内外斜位方向撮影の1方向撮影が基本で、頭尾方向撮影を追加することもある。追加撮影法としては内外方向撮影、圧迫スポット撮影、拡大撮影などがあり、また、乳管に造影剤を注入して撮影する乳管造影もある。読影時には左右乳房を比較対照することによる異常の検出が重要であることから、左右対称的な撮影が求められている。また、丸い胸郭の上にある乳房を直線のカセッテで撮影することから、撮影されない部分が生じるが、それをなるべく少なくし、かつ、十分な圧迫を行っても痛みの少ない撮影技術が求められる。
 マンモグラムの読影に当たっては、フィルムの光学的最高濃度は4.0以上が要求されていることから、読影環境として室内照度は50ルックス程度、シャウカステンの輝度3,500カンデラ以上など、読影環境の整備も必要である。
 読影はACR BI-RADS(アメリカ放射線専門医会の読影基準)と整合性を持ちつつわが国の実情にあわせて作成された所見用語とその記載を用いて行う。読影の実際は、乳房の構成(乳腺の退縮の度合いを、脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、高濃度の4段階に分類)の評価のあと、腫瘤・石灰化・その他の所見について所見の検出と評価を行い、カテゴリー判定(1:異常なし 2:良性 3:良性、しかし、悪性も否定できず 4:悪性の疑い 5:悪性)および推定される組織の診断を行う。腫瘤は形状(円形・楕円形、多角形、分葉状、不整形)、境界および辺縁(境界明瞭平滑、微細分葉状・微細鋸歯状、スピキュラを伴う、境界不明瞭、評価困難)と濃度(脂肪濃度を含む、低濃度、等濃度、高濃度)を評価し、その大きさとともに記載する。良悪性の判定には特に境界および辺縁が重要である。(図1、図2)


図1 腫瘤の判断樹



図2 スプキュラを伴う腫瘤、硬がん 

 濃度では、成分として脂肪を含む境界明瞭平滑な腫瘤は明らかに良性と判定できるが、その診断にはマンモグラフィが最も有効である。
 石灰化には明らかな良性石灰化と良悪性の鑑別を要する石灰化があり、後者は形態(微細円形石灰化、淡く不明瞭な石灰化、多形性あるいは不均一な石灰化、微細線状・微細分枝状石灰化)と分布(びまん性・散在性、領域性、区域性、線状、集簇性)により良悪性の可能性を判別する。石灰化の形態が壊死型の石灰化(微細線状・微細分枝状)の場合には形態から悪性を診断できるが、その他の形態では分布を加味して良悪性の程度を考慮する。(図3)


図3 多形性石灰化が区域性に分布する。非浸潤性乳管がんであった。 

区域性分布はがんの乳管内発育による石灰化の可能性があり、重要な分布のあり方である。

表2 良悪性の鑑別を要する石灰化のカテゴリー判定
  形態
分布
微細円形  淡く不明瞭  多形性 微細線状・分枝状
びまん性
領域性

集簇性
  

線状 
区域性
カテゴリー2
  
カテゴリー2
  
カテゴリー3
  
カテゴリー5
  

カテゴリー3
 

カテゴリー3
 

カテゴリー4
 

カテゴリー5
 

カテゴリー
  3,4

カテゴリー3
 

カテゴリー4
 

カテゴリー5
 
 その他の所見には乳腺実質の所見、皮膚の所見とリンパ節の所見があるが、乳腺実質の所見は重要で、構築の乱れや局所的非対称性陰影は新しい概念であり、特に検診マンモグラフィの読影では重要である。また、孤立性乳房拡張の形で乳管内がんが見られることもある。(図4)


図4  

 検診マンモグラフィに対しては、厚生省(当時)「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」にて、画像の質の確保のために撮影装置は日本医学放射線学会の定める仕様基準を満たし被曝線量3mGy以下で撮影されること、撮影技師および読影医師はマンモグラフィ検診精度管理中央委員会の行う2日間の基本講習プログラムを修了していることが求められており、画像診断の精度管理に新しい局面を展開している。
 

コメント    :
 マンモグラフィは乳がんの発見には客観性・記録性に優れた検査法であることから適しており、被曝もガイドラインを遵守したものであれば問題はない。しかし、画像確保には診療放射線技師の十分なトレーニングと日々の品質管理が重要である。撮影装置の管理、使用法、カセッテおよびフィルムの取り扱いや現像装置、現像条件への配慮さらに出来上がりのフィルムに対するチェック、診断に十分な品質を備えているかを判断するための病変の知識や読影力も求められる。乳房を圧迫するため、被検者に対する接遇にも配慮が要求される。しかし、精度の高いマンモグラムの乳がんの検出に果たす役割は他の検査法では代用できない。

原論文1 Data source 1:
乳癌の画像診断と放射線治療のすべて 疫学と検診
遠藤登喜子、黒石哲生
国立名古屋病院放射線科
臨床放射線、45(11),pp1245-1254,2000

原論文2 Data source 2:
Breast Imaging Reporting and Data System
American College of Radiology
Breast Imaging Reporting and Data System, Second Edition.1995

原論文3 Data source 3:
乳房画像診断用語集
遠藤登喜子、岩瀬拓士、大貫幸二、小田切邦雄、角田博子、東野英利子、大内憲明
厚生省がん研究助成金による研究班
日本乳癌検診学会誌、7,pp63-70,1998

参考資料1 Reference 1:
マンモグラフィガイドライン
日本医学放射線学会/日本放射線技術学会 マンモグラフィガイドライン委員会
日本医学放射線学会/日本放射線技術学会
マンモグラフィガイドライン、医学書院,1999

キーワード:マンモグラフィ,mammography, 乳房,breast, 乳がん,breast cancer, 検診,screening, 腫瘤,mass, 石灰化,calcifications, 構築の乱れ, architectural distortion, カテゴリー, category, スクリーン・フィルムシステム,screen/film system, デジタルマンモグラフィ,digital mammography
分類コード:030103,030401,030702

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