放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2003/03/06 幡野和男

データ番号   :030240
外耳道がんへの放射線治療
目的      :外耳道がんにおける放射線治療の現況
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :リニアック
応用分野    :医学、治療

概要      :
聴器悪性腫瘍は耳介腫瘍、外耳道腫瘍、中耳腫瘍に分類されるがいずれも希である。発生頻度は報告により差があるが、欧米においては耳科領域で10,000-20,000人に1人といわれている。日本では頭頸部悪性腫瘍の0.86%との報告がある。我が国においては外耳道がんの発生頻度が比較的高い。組織学的には扁平上皮がんがそのほとんどを占める。治療法については手術が主体となるが放射線治療も行われる。

詳細説明    :
「症状」症状は腫瘍の発生部位により異なるが、耳漏、耳出血、めまいなどがある。耳介がんであれば、難治性皮疹、外耳道がんでは抗生物質無効の長期に及ぶ炎症あるいは難治性中耳炎などでは悪性腫瘍を疑うべきである。さらに進展すると顔面神経麻痺などの脳神経症状を伴うようになる。
「診断」肉眼所見は大切である。耳鏡あるいは内視鏡による観察を行い、確定診断のために生検を行う。さらにはCT, MRIにより進展範囲を正確に把握する必要がある。進行例においては、周囲側頭骨へ進展し、骨破壊を伴うことも多いので注意を要する。リンパ節転移の頻度はそれほど高くなく、10-15%と報告されており、そのほとんどは耳介後部領域に限局している。遠隔転移は比較的少ないが、病理組織診断で腺様嚢胞がんである際には肺等への転移の有無をCTで確認しておくことが大切である。
「病期分類」外耳道癌の病期分類ではUICC(国際対がん連合)での規定はなく、T分類についていくつかの分類が提唱されているが、Stellの分類はT分類において有用である(表1)。

表1 Stellによる聴器癌のT分類
-------------------------------------------------------------
  T1  腫瘍が原発部位に限局している。顔面神経麻痺やX線写真上
      骨破壊がない。
 
  T2  腫瘍が原発部位よりも外側に進展している。顔面神経麻痺や
      骨破壊を伴うが、原発臓器内にとどまる。
 
  T3  臨床的または画像診断学的に周囲臓器(硬膜、頭蓋底、耳下
      腺、顎関節など)への進展が見られる。
 
  Tx  上記分類をおこなうに足る情報がない。
-------------------------------------------------------------
「治療」耳介腫瘍は電子線による放射線治療が可能である。外耳道がんでは早期の症例であれば、放射線治療単独でも根治可能と考えられるが、通常は初診時すでに進行がんである場合が多く、腫瘍が周囲側頭骨に及んでいることが多い。この場合には手術しても完全に取り去ることは困難な場合が多く、術後放射線治療が行われることが多い。腫瘍摘出術あるいは拡大中耳根治術を行い、術後放射線治療をおこなうのが一般的である。放射線治療単独では高齢、合併症などで、手術できない場合に適応となることが多い。早期外耳道がんで骨浸潤が認められない場合には、X線による体外照射を先行させ、外耳道内腔が開いてきた時点で腔内照射を併用することにより、照射による晩期有害事象を防止しながら根治照射可能である。


図1 右外耳道がんへの斜入2門照射による線量分布図



図2 外耳道がん照射前



図3 外照射50Gy, 腔内照射30Gy後の写真。腫瘍は消失している。

 体外照射は通常、4-6MeVX線で適切な角度のウェッジフィルターを用いた斜入2門照射が行われることが多い。1回2Gy、週5回法で総照射線量60Gyが一般的である。根治的放射線治療では腫瘍に対し最低でも70Gyが必要とされているが、側頭骨の放射線による壊死を予防するため一般的には側頭骨は70Gy以上照射されないようにすべきである。外照射と腔内照射をうまく組み合わせることにより局所への線量増加をはかる必要がある。最近では、頭蓋内進展例などで、重粒子線による治療も行われるようになった。治療成績は、各施設毎に症例が少ないため、まとまった報告は少ないが、手術と放射線治療との組み合わせで5年生存率は30-60%である。抗がん剤使用については、その有用性は現時点でははっきりしない。放射線治療による急性期有害事象は、照射による皮膚、粘膜炎が主である。特に治療後半の時期には、外耳道粘膜炎による耳漏が出現する可能性が高い。この際には二次感染を予防する意味で耳科的処置が必要となる。晩期有害事象として、照射による外耳道狭窄、過線量による骨壊死、難聴などがある。
 今後、強度変調放射線治療などによりさらに腫瘍に限局し、かつ側頭骨への線量減少が可能となれば放射線治療による外耳道がんの制御率が向上するものと思われる。

コメント    :
外耳道がんにおける放射線治療では側頭骨壊死が線量限度を規定しており、この側頭骨壊死をどのように予防するかが問題である。今後、重粒子線治療や強度変調放射線治療が検討されて行くであろう。

原論文1 Data source 1:
Carcinoma of the external auditory meatus and middle ear
Stell PM, McCormick MS
The Journal of Laryngology and Otology 99:847-850,1985

原論文2 Data source 2:


原論文3 Data source 3:


参考資料1 Reference 1:


参考資料2 Reference 2:


キーワード:外耳道がん extra auditory caicinoma, 放射線治療radiation therapy, 顔面神経麻痺facial nerve palsy, 骨破壊bone destruction, 耳漏otorrhea, 耳出血othemorrhagia, めまいvertigo, 強度変調放射線治療IMRT, 重粒子線治療heavy ion particle therapy, 側頭骨壊死temporal bone necrosis
分類コード:030201

放射線利用技術データベースのメインページへ