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作成: 2002/12/20 酒井 光弘

データ番号   :030238
下咽頭がんの放射線治療
目的      :下咽頭がんの放射線治療
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :リニアック治療装置

概要      :
 下咽頭がんは頭頸部のがんの中でも最も治療成績の悪いがんの一つである。早期の症例では放射線治療で治癒の得られる場合もあるが、進行した症例では手術+放射線治療の適応となる。下咽頭がんの疫学、放射線治療について紹介する。

詳細説明    :
 下咽頭がんは頭頸部がんの中で最も治りにくいがんの一つである。その原因として局所進行症例が多く、また初診時に頚部リンパ節転移陽性の頻度が高いため、臨床病期III-IV期の進行症例が大半を占めること、肺や骨など遠隔転移の頻度が高いこと、食道がん等との重複がん症例が多いことがあげられる。
 好発年齢は60才台で男性に多く、発がん要因としては、喫煙、飲酒があげられる。初発症状は咽頭違和感、咽頭痛、嚥下障害、頚部リンパ節腫大などである。病理組織学的には大多数が扁平上皮がんである。
 診断のために必要な検査は、間接喉頭鏡や喉頭ファイバースコープや全身麻酔下での直達鏡による原発巣の診察・生検、CT、MRI、遠隔転移の検索のため胸部CT、腹部超音波、骨シンチ、重複がん検索のため上部消化管検査などである。
 下咽頭は咽頭の最下部に位置し、喉頭の後側壁から食道上端までの範囲を占めており、さらに梨状陥凹、咽頭後壁、輪状後部の3つの亜部位に分けられる。図1に下咽頭がんの亜部位別の病型を示す。


図1 下咽頭癌の亜部位別病型(原論文1より引用)

 がんの進行の程度は一般的にTNM分類(1997年UICC(国際対がん連合))で表す。以下にT分類(原発腫瘍の分類)を示す。

T-原発腫瘍
 T1 下咽頭の1亜部位に限局し、最大径が2cm以下の腫瘍
 T2 片側喉頭の固定がなく、下咽頭の1亜部位を越えるか、隣接部位へ浸潤する腫瘍
    または最大径が2cmを越えるが4cm以下の腫瘍
 T3 最大径が4cmを越えるか、片側喉頭の固定する腫瘍
 T4 甲状軟骨や輪状軟骨、頸動脈、頚部軟部組織、椎前筋膜および同筋、甲状腺、
    および/または食道など隣接組織に浸潤する腫瘍

 根治的放射線治療の適応は原発巣がT1〜T2N0の早期症例で、T3〜T4や潰瘍浸潤型では手術が優先される。頚部リンパ節転移が陽性でも原発巣が早期ならば、原発巣を放射線治療、頚部は手術(頚部郭清術)で治療することもある。手術が行われる場合、放射線治療は、術前または術後照射の形で併用される。高齢、合併症、がんの高度進行のため手術の適応にならず姑息的な放射線治療を行う場合も多い。
 放射線治療の実際は、まず毎回の治療の再現性を良くするため、シェルと呼ばれる頭頸部固定用のお面を作成する。次に、X線シミュレーターまたはCTシミュレーターと呼ばれる装置で照射野(放射線をかける範囲)を決めて治療計画を行い、治療を開始する。放射線治療は、一般的に通常分割照射法(1日1回、週5回)で行い、根治的放射線治療では65-70(75)Gy/6.5-7(7.5)週を照射する。この場合、初めの40-45Gy/4-4.5週は、頚部リンパ節転移がなくても予防的に頚部全体を含め、その後は原発巣およびリンパ節転移が認められた部位へ照射野を縮小する。下咽頭はリンパ流が豊富であり初診時の頚部リンパ節転移は50-70%に認められ、また所属リンパ節が広範囲にわたるため照射野が広くなりやすい。術前照射では40-50Gy、術後照射では50-60Gy投与する。
 施設によっては、1日に2回照射を行う多分割照射法や抗がん剤投与と放射線治療を同時に行う放射線化学療法も行われている。
 治療成績は他の頭頸部がんと比べ不良であり、5年生存率は放射線治療では15-30%、手術+放射線治療では20-50%程度である。
 放射線治療の有害事象(副作用)は急性期では、咽頭粘膜炎、咽頭痛、皮膚炎、唾液分泌障害、味覚障害などがあり、咽頭痛のため鎮痛剤の投与、点滴の施行が必要なこともある。晩期の有害事象としては、咽頭粘膜の潰瘍・出血・壊死、喉頭浮腫、半回神経麻痺、食道狭窄、皮膚の繊維化、唾液分泌障害、甲状腺機能障害、放射線脊髄症などがある。

コメント    :
食道がんなどとの重複がんが高頻度に認められるため、治療前および経過観察時に注意する必要がある。最近では化学療法を同時に併用した放射線化学療法の有用性が報告されている。

原論文1 Data source 1:
下咽頭および頚部食道
大川智彦、池田道雄
東京女子医科大学放射線科
臨床腫瘍学からみたがんの放射線治療, pp116, 医学書院, 1983

キーワード:下咽頭がん、hypopharyngeal carcinoma,放射線治療、radiotherapy,放射線化学療法、chemoradiotherapy,重複がん、multiple primary cancers,有害事象、morbidity
分類コード:030201

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