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作成: 2003/03/20 小山 佳成

データ番号   :030236
婦人科疾患のIVR
目的      :婦人科疾患のIVR
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学,診断

概要      :
X線透視などの画像誘導下に低侵襲な治療手技を行うIVRは婦人科疾患にも応用されている。最新の治療である子宮筋腫に対する動脈塞栓術と子宮頚癌に対する動注化学療法について概説する。

詳細説明    :
 X線透視,超音波,CT,MRIなどの画像診断技術の誘導下に低侵襲な治療手技を行うinterventional radiologyは日本ではIVRと略称されている。各分野での応用が進んでおり婦人科疾患も例外ではない。良性疾患の代表である子宮筋腫と悪性疾患である子宮頚癌について述べる。
・ 子宮筋腫に対する動脈塞栓術
 子宮動脈塞栓術は緊急の止血目的で以前より行われている技術であったが,フランスのRavinaらは子宮筋腫核出術前に出血低減の目的で施行し結果的に子宮全摘を施行されずに症状の改善をみた例を報告した。そのため,子宮筋腫の治療目的で子宮動脈塞栓術が施行されるようになり欧米そして我が国でも施行が広がっている。子宮筋腫は成人女性の4人に1人に認められる頻度の高い疾患であり,外科治療の代表である全摘術に対して低侵襲である塞栓術には非常に高い関心が集まっている。
 適応は,子宮筋腫による出血・圧迫・疼痛などの臨床症状があること,子宮がんでないこと,妊娠をしていないこと,閉経前であること,外科治療を希望していないことである。手技は通常の血管造影と同様に,局所麻酔下に4-5Frのカテーテルと必要に応じてマイクロカテーテルを用いて両側の子宮動脈を選択(図1)し塞栓物質を注入する。塞栓物質は欧米では永久塞栓物質であるpolyvinyl alcoholが一般的であるが我が国では一時的塞栓物質であるgelatin spongeの使用が一般的である。治療後の筋腫は変性・壊死に陥るが正常子宮の血流は保たれる。症状は90%程度で改善がみられ筋腫の体積は平均40-70%縮小(図2,図3)し90%程度の患者は治療に満足するとされている。副作用としては正常子宮の一過性虚血による治療直後から始まり6-12時間程度続く下腹部痛が最も重大なものである。硬膜外麻酔や塩酸モルヒネなどを使用した十分な疼痛コントロールが望まれる。他には一過性の発熱・嘔気・倦怠感などの塞栓後症候群がみられる。合併症として,世界では敗血症と肺塞栓に伴う死亡例の報告がある。子宮虚血による内膜炎,留膿腫などの感染症の発生率は1%程度と低く抗生剤投与で多くは制御可能である。さらに5%程度に壊死した粘膜下筋腫が子宮内腔に脱落して子宮頚管を閉塞させる(sloughing fibroid)ことがあり放置すれば重篤な感染症に移行する。経腟的な切除が不可能であれば子宮全摘術を余儀なくされる場合もある。また,塞栓に伴う永久的な卵巣機能不全がおよそ5%と報告されており45歳以上ではその頻度が上昇する。以上の様に患者の満足度の非常に高い治療法であることは間違いなく,今後は長期での検討と健康保険適用も含めてさらに多施設での施行が望まれる。
 子宮腺筋症は外科的には核出術という選択がなく全摘術しか有効な治療がない場合もある。そのため,動脈塞栓術が有効であったとの報告が注目されている。


図1 46歳女性,左子宮動脈造影,左子宮動脈から供血される富血管性病変が描出されている



図2 46歳女性,術前骨盤部横断像MRI,T2強調画像,大きな筋腫により腹壁の膨隆と周囲組織の圧排が見られている



図3 46歳女性,術後3か月骨盤部横断像MRI,T2強調画像,子宮筋腫の著明な縮小が得られている

・ 子宮頚癌に対する動注化学療法
 抗癌剤を腫瘍の栄養血管である動脈より直接投与することにより通常の静脈投与では得られえない極めて高い局所濃度を得ることで抗腫瘍効果を高め,結果として全身での副作用を低減させることが動注化学療法の理論的背景である。対象は,早期子宮頚癌術前治療,進行子宮頚癌に対する手術・放射線併用療法,再発子宮頚癌,子宮頚癌肝転移の4つに分けられる。子宮頚癌の多くが扁平上皮癌であることからシスプラチン(CDDP)を中心としたプロトコールの有効性が報告されている。CDDP単独の報告(50-120mg/m2程度の投与)からアドリアマイシン,マイトマイシン,5-FU,ブレオマイシンなどとの多剤併用の報告がなされている。投与方法としては,血管造影下に両側子宮動脈ないしは内腸骨動脈から一度に薬剤を注入するone shot動注やカテーテルを留置する持続動注や塞栓物質を併用する方法などが試みられている。いずれにしても,子宮頚癌にとっては手術療法,放射線療法の間で全身化学療法とさらに技術的に複雑な動注化学療法がどのように患者の予後に貢献できるのか,今後の充分な検討が望まれる。

コメント    :
婦人科疾患の領域でも患者のQOLを考えた低侵襲治療であるIVRは今後ますます盛んになるであろう。従来の治療方法の成績との比較をもとにした今後の適切な役割分担について婦人科・放射線科の枠を超えた科学的な検討が望まれる。

原論文1 Data source 1:
子宮筋腫の動脈塞栓術−適応,術前評価,手技,治療成績,合併症・副作用,術後管理−
勝盛哲也,中島和広,徳弘光邦,三原督
済生会滋賀県病院 放射線科
IVR会誌,16,pp.225-232,2001

原論文2 Data source 2:
子宮筋腫の子宮動脈塞栓術−その適応と臨床的意義−
佐藤哲也,安達英夫,本田育子
山近記念総合病院 外科・産婦人科,山王病院リプロダクションセンター
IVR会誌,16,pp.233-237,2001

原論文3 Data source 3:
各種悪性腫瘍に対する動注化学療法−適応と限界 7.子宮頸癌
永田靖,小久保雅樹,光森通英,藤原一央,奥野芳茂,斉藤秀和,平岡真寛,片岡信彦,小西郁生
京都大学医学部 放射線科・産婦人科
IVR会誌,13,pp.308-315,1998

参考資料1 Reference 1:
Arterial embolisation to treat uterine myomata
Ravina JH,Herbreteau D,Ciraru-Vigneron N,Bouret JM,Houdart E,Aymard A,Merland JJ
Lancet,346,pp.671-672,1995

キーワード:IVR interventional radiology,子宮筋腫 uterine leiomyoma,経カテーテル的動脈塞栓術 transcatheter arterial embolization,子宮腺筋症 uterine adenomyosis,子宮頚癌 uterine cervical cancer,動注 arterial infusion,化学療法 chemotherapy,放射線治療 radiation therapy
分類コード:030101

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