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作成: 2001/1/15 鷲野 弘明

データ番号   :030228
アルファ線放出核種による癌の放射免疫治療
目的      :アルファ線放出核種で標識したモノクローナル抗体による癌治療の紹介
放射線の種別  :アルファ線,ベータ線
応用分野    :医学、治療

概要      :
アルファ線放出核種で標識されたモノクローナル抗体が、新しいタイプの抗がん剤として研究されている。これは、体外から放射線を照射する従来の放射線療法と異なり、アルファ線放出核種で標識された抗体を体内に投与し、体内から病変部を照射する治療法(放射免疫治療)である。現在、実用化されつつある放射免疫治療は、131Iや90Yなどのベータ線放出核種を用い、その対象も放射線感受性が高い腫瘍、非ホジキンリンパ腫に限定されている。アルファ線は、ベータ線に比べてはるかに高い生物学的効果を持ち、治療対象はより広い可能性があるため、アルファ線放出核種を利用する研究が地道に続けられている。

詳細説明    :

1. アルファ線の生物学的効果

 アルファ線は、単一高エネルギーのヘリウム原子核(4He)であり、放射性同位元素(RI)がアルファ壊変する際に放出される。現在アルファ壊変するRIは、主に原子番号82以上の重い元素で、約100種ほど知られている。アルファ線の際立った特徴は、その高い線エネルギー付与(linear energy transfer:LET)と短い飛程にある。例えば、放射免疫治療で代表的なベータ核種である90Yとアルファ核種アスタチン-211(211At)を比較すると次のようになる:
       LET(keV/μm) 生体組織中の平均飛程(μm)
  Y-90:   0.2        3960
  At-211:  97         70

 211AtのLETは90Yと比べて500倍ほど大きいが、平均的に言ってアルファ線のLETはベータ線のLETの400倍(80 keV/μm vs 0.2 keV/μm)はある。そのため、放出特性にも依存するが、アルファ線の細胞不活化(致死)作用に対する生物学的効果比(RBE)*)は3〜7となる。In vitro細胞実験の結果によると、もし細胞表面でアルファ壊変が起きアルファ線が細胞核を通過すると、たった1個のアルファ粒子で細胞を死滅させることが可能と推定される。しかし、ベータ線の場合は、これが1,000〜10,000個は必要となる。“一打必殺”がアルファ線なら、“ジワジワと殺す”のがベータ線といえる。(そのようなベータ線でも、放射線治療に汎用されるガンマ線よりRBEが高く治療効果はよい)

*)生物学的効果比(relative biological effectiveness:RBE)
異なる線質やエネルギーの電離放射線による吸収線量の生物学的効果を比較する係数。特定の生物、臓器あるいは組織に対して同一の生物学的効果をもたらすような、当該放射線と基準放射線の吸収線量の比と定義される。

 アルファ線の飛程はきわめて短く、例えば211Atの70μmはおよそ細胞10個分の長さである。これは、アルファ線の致死作用を最大限に利用するには体外照射は不適切であり、アルファ核種を何らかの方法で腫瘍などの病変部位に選択的に運ぶ方法が必須であることを意味する。そこで出てきたのが、1980年代に急速に発展したモノクローナル抗体を利用するアイデアである。アルファ核種を腫瘍に特異的なモノクローナル抗体に結合し、それを体内に投与し、抗体の力をかりて腫瘍組織まで運搬〜照射する、即ち放射免疫治療である。このアプローチに基づく研究論文が、すでにいくつか発表されている。

2. 放射免疫療法へ応用が考えられるアルファ核種

 約100種のアルファ核種のうち実際に臨床使用するには、多くの要求を満たす必要がある。それらを列挙すると、
‥切な治療効果を与える半減期を持っていること。(半減期は、短すぎても長すぎてもいけない)
安定的な薬剤に製造し得る錯体化学的特性を有すること。
2変の結果生ずる娘核種が、安全性上生体内で問題を引き起こさないこと。(半減期の長い娘核種が骨などの特定臓器に集積すれば、骨髄毒性が発現し大きな問題となる)
ぅぅ瓠璽献鵐阿謀したエネルギーのガンマ線を放出し、かつそれに不適切なガンマ線は放出しないこと。(投与するには、前もって線量分布計算が必要。そのためには、イメージングできることが必須条件となる。)
ゼ匆馘に受け入れ可能な価格で、必要量を満たす生産方法があること。(望ましくは、ジェネレータ方式あるいはサイクロトロン生産ができること)

となる。現時点では以下の表に示すようなアルファ核種が候補として検討されている。

表1 放射免疫治療への応用が検討されているアルファ線放出核種
アルファ放出核種  半減期       生産方法
Astatine-211    7.21 時間    原子炉、サイクロトロン
Bismuth-212         60.55 分     原子炉→ジェネレータ
Bismuth-213         45.6 分      原子炉→ジェネレータ
Lead-212            10.64 時間   原子炉→ジェネレータ
Actinium-225        10.0 日      原子炉→ジェネレータ
Fermium-255         20.1 時間    原子炉→ジェネレータ
Radium-223          11.4 日      原子炉→ジェネレータ
Terbium-149         4 時間       原子炉、シンクロトロン

 これらの核種の壊変系列を以下図1に示す。表中の核種は、壊変系列の下流に位置しており、体内に長期間残留して放射線を出し続けることが少ない核種が選択されている。


図1 アルファ線放出核種の崩壊系列(原論文1より引用)


3. アルファ核種標識モノクローナル抗体の臨床への応用

 1996年、アルファ核種標識モノクローナル抗体が初めて人体に投与された。それは、遺伝子工学的にヒト型化されたIgG1抗体(HuM195)に、二官能性キレート剤DTPAを介してビスマス-213(213Bi)を結合したものであった。HuM195は、ヒト骨髄性白血病で高発現するCD33抗原に特異的に結合し、抗原に結合すると直ちに細胞内に取り込まれる。標識抗体の比放射能(抗体mgあたりの放射能量)は、740MBq/mgであり、通常達成可能なレベルといえる。
 CD33を発現するHL60細胞を用いたin vitro細胞実験の結果、細胞の50%致死213Bi量は、平均して細胞1個あたり213Bi2個であり、非常に有効であることが分かる。
 In vitro実験の結果をもとに、9人の再発または急性骨髄性白血病患者に、放射能量で合計10.4, 15.5, 20.7 MBq/kg(投与総量=555〜1,591 MBq/人)が3〜6回/2〜4日に分けて投与された。急性の重篤な副作用は発現しなかったが、骨髄抑制が2週間ほど観察された。骨髄抑制は、抗がん剤治療では一般に見られる副作用である。このうち治療成績を評価することができた5例では、全例で末梢血中の骨髄性白血病細胞の減少が見られ、骨髄内の白血病細胞も減少した。
 この研究により、理論的に予測されたアルファ放出核種の治療効果が初めてヒトで実際に確認された。

コメント    :
アルファ核種標識モノクローナル抗体の応用に必要な知識と理論は、この10年間で大きく進歩したといえる。しかし、実際に商業化に至るまでの道は険しい。ゴールにたどり着くには、少なくとも以下のような疑問や課題に答える必要がある。

.▲襯侫ヽ房錣両Χ叛源困魏椎修砲垢詈法は、ジェネレータ方式か、それともサイクロトロン生産か? 価格及び生産量は、社会的に受け入れ可能か?
▲▲襯侫ヽ房鑄玄吋皀離ローナル抗体で、大きな塊の腫瘍を治療できるか、それとも他の方法でも可能な早期の小さな腫瘍に限定されるのか?
腫瘍のコントロールは、他の臓器や骨髄への重大な副作用なしに可能か?
ぅ▲襯侫ヽ房錣蓮△△蕕罎訶世砲いて安全性(化学的毒性、放射線発がん)に問題ないか?

原論文1 Data source 1:
Cellular dose conversion factors for alpha-particle-emitting radionuclides of interest in radionuclide therapy.
K. A. Hamacher, R.B. Den, E.I. Den & G. Sgouros.

J. Nucl. Med. 42, p.1216-1221, 2001

参考資料1 Reference 1:
Radioimmunotherapy with alpha-emitting nuclides
M.R. McDevitt, G. Sgouros, R.D. Finn, J.L.Humm et al.

Eur. J. Nucl. Med. 25, p.1341-1351, 1998

参考資料2 Reference 2:
Radiobiology of alpha particles. III. Cell inactivation by alpha-particle traversals of the cell nucleus.
M.R. Raju, Y. Eisen, S. Carpenter & W.C. Inkret.

Radiat. Res. 128, p.204-209, 1991

参考資料3 Reference 3:
Radionuclides and carrier molecules for therapy.
J. Zweit.

Phys. Med. Biol. 41, p.1905-1914, 1996

参考資料4 Reference 4:
Radioimmunotherapy with alpha particle-emitting radioimmunoconjugates
M.R. Zalutsky, & D.D. Binger.

Acta Oncol. 35, p.373-379, 1996

参考資料5 Reference 5:
Potential use of alpha emitting radionuclides in the treatment of cancer.
D.S. Wilbur

Antibody Immunoconj. Radiopharm. 4, p.85-97, 1991

参考資料6 Reference 6:
Normal organ dosimetry of leukemia patients treated with HuM195 labeled with the alpha particle emitter Bismuth-213.
A.M. Ballangrud, J.L. Humm, M.R. McDevitt, R.D. Finn et al.

J. Nucl. Med. 39(May Suppl), Abstract. No.849, 1998

キーワード:放射免疫治療, 放射性医薬品, モノクローナル抗体, 腫瘍, 骨髄性白血病, アルファ線放出核種, 211At(アスタチン211), 212Bi(ビスマス212), 213Bi(ビスマス213), 212Pb(鉛212), 225Ac(アクチニウム225), 255Fm(フェルミウム255), 223Ra(ラジウム223), 149Tb(テルビウム149), CD33
radioimmunotherapy, radiopharmaceutical, monoclonal antibody, tumor, myelocytic, myelogenic, leukemia, alpha particle-emitter,
分類コード:030502, 030301, 030403

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