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作成: 2001/10/24 成田 雄一郎

データ番号   :030225
強度変調放射線治療(IMRT)の臨床適用(日々の治療)
目的      :前立腺がんIMRTにおけるアイソセンター変動に対する影響と固定方法について紹介する
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :リニアック
利用施設名   :千葉県がんセンター、京都大学、他
応用分野    :医学、治療

概要      :
前立腺がんのIMRTを行なうにあたり最大の問題である治療毎のアイソセンターの変動とその影響について議論する。

詳細説明    :
◆IMRTの難しさは治療が始まってから
IMRTの難しさはここからである。治療計画の最適化はコンピュータが行ない、MU値あるいは線量分布の検証は大変でも治療が始まる前に一度行なっておけばよい。前立腺のIMRTで総治療線量76Gyで1日2Gyの分割照射を行なう場合、治療回数は38回にも及ぶ。問題は治療計画通りの照射が38回全てで実施できるかどうかである。つまり日々のアイソセンターの確認作業がどれだけの精度を保たれるかが課題なのである。言うまでもなくアイソセンターの変動は、腫瘍線量の低下あるいは重要臓器の線量増大につながりどちらにしても問題となる。特に前立腺の場合はその前に膀胱そして後ろに直腸があり、またこれらが前後上下前立腺を取り囲むように配置しているためアイソセンターの変動は重大な医療過誤を生じさせかねない。
分割照射における治療毎のセットアップの精度を保つためには固定具の使用が非常に有効である(図1)。特に頭頚部領域におけるIMRTの場合にはその効果は大きい。しかし前立腺がんの場合には直腸あるいは膀胱の内容物により前立腺の臓器移動があり(図3)排泄指導等も有効な精度管理につながる。理想的には治療毎の前立腺位置の確認が望まれるところではあるが、CT等による確認は患者の被ばく等の問題で議論の別れるところである。

図1 体幹用シェルによる前立腺がんIMRTのセットアップ(Hip Fix, Meditec)の様子(上段)と、アイソセンターにおける治療計画用CT(下段左)。実際に治療を行なう際に治療アイソセンター(レーザー)に金属マーカを貼りアイソセンター確認用CTを撮影する(下段右)。




図2 前立腺がんにおける放射線治療において治療計画の違いによる線量分布とDVHの変化。左から5門固定照射、左右2方向の振子照射、5門IMRT。


研究レベルでは、前立腺内に金属マーカを埋め込み治療前に透視下でマーカ位置の照合を行なう等の試みもあるが、侵襲性あるいは被ばくという点で課題を残す。さらに前立腺の位置変動が確認された場合には、それに応じて治療計画の最適化をその都度修正していくことが理想であるとも言える。
標的容積(PTV)を設定する際に種々のアイソセンター変動あるいは臓器移動を考慮したマージンを設定することでこれら問題の影響を軽減できるが過度なマージン設定はIMRTのメリットを損ないかねない。つまりマージンが大きいと重要臓器の線量は確実に増大し、従来の方法と変わらなくなるである。前立腺がんにおける従来の多門照射あるいは振子照射とIMRTの違いを図2に示す。


図3 前立腺がんIMRTにおいて寝台が上下に7mmずれた場合の前立腺、直腸、膀胱のDVHの変化。

ここで改めてIMRTの定義的な部分を確認しておこう。『多分割絞り (Multi-leaf Collimator) などを用い、2つないしそれ以上の亜照射野を組み合わせた原体照射野により、ビーム毎に照射野内の強度を調整し、3次元的に標的容積辺縁に限りなく近似した線量分布を実現する一方で正常組織への線量を最小限にする』。これまでの否定的なIMRTに関する記述はこのIMRTが目的とする放射線治療が理想でしかないかと、さらに否定的になりかねない。

コメント    :
前立腺がんIMRTにおいてアイソセンターの変動に影響を及ぼす因子は、セットアップ誤差以上に前立腺そのものの体内移動が挙げられる。排便指導などによりその影響を軽減できるものの如何に前立腺の移動を食い止めるかあるいは移動を検出するかはこれからの課題である。

キーワード:強度変調放射線治療,Intensity modulated radiation therapy,IMRT, 分割照射,Fractionated treatment, PTVマージン,PTV margin, 前立腺がん,Prostate cancer, 固定具,Immobilization suit, 線量容積ヒストグラム,Dose-volume histogram
分類コード:030201, 030402, 030703

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