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作成: 2001/10/24 成田 雄一郎

データ番号   :030224
強度変調放射線治療(IMRT)の臨床適用(線量に関わる検証)
目的      :強度変調放射線治療(IMRT)を臨床適用する上で必須である線量分布の検証方法について紹介する
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :リニアック
利用施設名   :千葉県がんセンター、京都大学、他
応用分野    :医学、治療、医療物理、医療工学、放射線物理

概要      :
IMRTでは多分割絞り(MLC)による小さな亜照射野を組み合わせて線量の強度変調を行なう。従来のように決まった照射野を持たないために線量分布の計算およびMU値の算出が非常に複雑である。そのため実際にIMRTを行なう前には線量に関わる検証が必須とされている。本稿では線量計を用いたMU値の測定及びフィルム法による線量分布の検証について紹介する。

詳細説明    :
◆IMRT治療計画
いわゆる帰納的治療計画(Inverse planning)の登場により従来の治療計画法とは逆の発想で治療計画が行われるようになった。つまり治療計画の主導権が人間からコンピュータに移り、与えられた入射ビームの強度に関する最適化は治療計画システムが行う。IMRTの高い線量原体性はこの最適化システムによる。最適化した強度変調ビームプロファイルは連続したはMLC亜照射野に置き換えられるが、亜照射野の数と治療時間は概ね比例する。そのためIMRT治療計画で考慮するべき事は、入射ビーム数および亜照射野数に対して線量の原体性と治療時間との最適化を計画者が行う事である。
さて、IMRT線量計算の難しさは各ビームに対して形成される数10〜数100の亜照射野が決まった形状をもたない事にある。さらに殆どの亜照射野が不整形な極小照射野であり、MU値及び線量分布の計算は困難を極める。
◆MU値の検証(Verification)
IMRTでは細密な亜照射野の組み合わせであり従来の放射線治療で用いられる照射野とは全く異なる。そのため、治療計画で算出されたMU値および体内線量分布の治療前検証が不可欠である。
MU値の検証(実測)は、マイクロ電離箱を用いる方法(中心点測定法)と、Fermaタイプ電離箱(例:JARP線量計)を用いる方法(平均法)が挙げられる。いづれも校正された線量計と各ビーム毎に算出されるアイソセンターまでの深さ(Radiological depth)に相当するMixDP等を重ねて、実際に患者に照射する時と同様の照射を行ない目標線量を達成するためのMU値を逆算する(図1)。


図1 IMRTのために最適化したビームにおける物理測定によるMU値評価の概念図。治療計画におけるアイソセンターの深さに相当するMixDPを積み上げ、校正した線量を用いて曝射MU値(MUm)に対する測定線量(Dm)と治療計画におけるアイソセンター線量(Dplan)の関係から必要なMU値(MU)を次式で算出する: MU = MUm × Dplan / Dm


中心点測定で注意すべき事は、マイクロ電離箱を確実にアイソセンターに固定するということである。特にアイソセンター近傍の線量が勾配を持っている場合には僅かな固定位置のズレによりMU値が変動する。JARP線量計等を用いる場合には線量計の有感容積に対する平均化を行なう必要があるため注意を要する。JARP線量計で中心点測定法でMU 値測定を行なうとマイクロ線量計のそれを比べると変動するのが分かる(図2)。


図2 前立腺がんのIMRTのために最適化した5門のビームに対するMU値をJARP線量計とマイクロ線量計で測定した結果の比較。


◆線量分布の検証(Dosimetric Verification)
線量分布の検証は、患者体内の線量分布を直接的に測定することが出来ないために、MixDPあるいはRANDOファントムを用いた間接的方法により行なわれる。つまり患者に対し最適化したビームデータをファントムに置き換えて線量分布を再計算し、それと同等の物理測定の結果と比較することで検証される。問題はファントム形状の選択である。人体とは全く異なる形態で線量分布の評価を行い結果的に一致をみたとしてもそれが果たして人体でも同じ結果になるかが疑問なのである。つまり、ビームが入射する状況(入射面の状態、通過物質の不均質具合など)が明らかに人体での状況と異なる場合、放射線の照射体内部での物理的な挙動が変化しアイソセンターでの線量に差が生じることが予想される。また、線量計の選択によっても、点(電離箱)、平面(フィルム法)、体積(ポリマーゲル線量計)と検証する限界があるので注意したい。
患者ビームデータをRANDOファントムに置き換え再計算した線量分布と実測による線量分布の比較を図3に示す。測定はフィルムを用い2次元的な比較であるが非常に良い一致をしている。


図3 RANDOファントムを用いたフィルム法による線量分布の検証。上段左は治療計画の線量分布、右は実測による線量分布の同じスライス面の結果。下段左に計算(点線黄色)と実測(実線青)の線量分布の90, 80, 50, 30%線量を比較した。


IMRTにおけるQA-QCガイドラインは現段階で存在しないが外部放射線治療という意味では、線量測定等の許容誤差は『外部放射線治療におけるQuality Assurance(QA)システムガイドライン(JASTRO-QA委員会)』に準ずる。しかしながら現段階では検証を行なうだけでも相当量の労力を要するために、如何に最大限の精度を最小限の労力で確保するかが今度の課題であり、またIMRT普及にも大きくつながると思われる。

キーワード:強度変調放射線治療,Intensity modulated radiation therapy,IMTR, 線量分布,Isodose, 多分割絞り,Multileaf collimator, JARP線量計,JARP-type ionization chamber, マイクロ線量計, MixDP, RANDOファントム, 帰納的治療計画,Inverse planning
分類コード:030201, 030402, 030703

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