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作成: 2001/10/24 成田 雄一郎

データ番号   :030223
強度変調放射線治療(IMRT)の臨床適用(導入−機械的QA)
目的      :強度変調放射線治療(IMRT)の基礎とそれを支える機器の物理的特性の把握について紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :リニアック
利用施設名   :千葉県がんセンター,京都大学,他
応用分野    :医学、治療、医療物理、医療工学、放射線物理

概要      :
2000年より日本国内でも高エネルギーX線による強度変調放射線治療(IMRT)の臨床適用が開始された。その特徴を紹介するとともに、IMRT実現に向けた技術革新、その中でも多分割絞り(マルチリ−フコリメ−タ:MLC)の特性について散乱線あるいは透過線の発生について議論する。

詳細説明    :
◆究極的な放射線治療を目指して
放射線治療といえども所詮放射線被ばくである。腫瘍は放射線照射により消滅するであろうが、患者のQOL(Quality of Life)を考えると放射線治療による2次的な放射線障害の発生は、放射線治療が患者にとってメリットがあるのかどうかといった疑問を投げかけてくる。
言うまでもなく、放射線治療の究極的な目標は腫瘍容積のみに放射線量を集中させ周囲の正常組織の放射線被ばくをゼロにすることである。重粒子線や陽子線のようにブラッグ曲線を有するものと違い、X線は入射表層近くに最大エネルギー損失があり深部に行くに従い付与エネルギーは低下してゆく(図1)。そのため、体の内部に存在する腫瘍をX線で狙った場合には腫瘍周囲に相当量のエネルギー付与が見込まれ、正常組織の放射線被ばくをゼロにするのは不可能である。但し、各臓器、器官には放射線感受性の違いから耐容線量が存在し、それを逆手にとると”正常組織の放射線量がその耐容線量以下になるよう最小限の被ばくに抑え腫瘍には線量を集中する”、といった不完全ながらもX線としては究極かつ最終的な放射線治療が成立する。


図1 高エネルギーX線と高エネルギー重粒子線の比エネルギー損失の比較。重粒子線はブラッグ曲線を有し深部で最大エネルギー損失が起るのに対し、X線は深さとともに減衰する。


◆IMRTとは
強度変調放射線治療(IMRT)とは、多分割絞り(マルチリーフコリメータ:MLC)を自在に操り、ビームに強弱をつけることにより重要臓器の線量を最小限にし、さらに腫瘍容積(標的容積)においては限りなくその辺縁に近似した線量分布を実現する放射線治療である。
従来の原体照射あるいは原体回転照射においても標的臓器への線量集中という点では概ね許容できるものであるが、IMRTの最大の特徴は重要臓器の線量を最小限にかつ標的容積辺縁をなぞった高線量集中さらに標的容積内線量の一様性がある。(図2)


図2 IMRTによる前立腺癌のための治療計画の結果。上段に線量分布2次元画像、下段左に3次元分布(80%最大線量)、下段右に線量-容積ヒストグラムを示す。


◆IMRTは技術革新の賜物
IMRTを実現可能にしたものはいうまでもなく近年の技術革新である。
まず第1に、CT画像を利用した3次元的治療計画システムの登場である。第2にマルチリーフコリメータの登場である。リーフ幅(線量分布の細密さに関わる)は用途に応じて種々存在するが、最も狭いもので3mm対のリーフが登場している。第3に高エネルギーX線発生装置そのものの精度向上と各モニタ機構、フィードバック機構そしてインターロック機構の充実が挙げられる。特にビームのON-OFFに関しては、マルチリーフの動作と連動する必要があり、状態把握とフィードバックに関する機構に関しては目を見張るものがある。またガントリ及び寝台の動作精度さらに内在的な誤差要因となるガントリのダレ等の“あそび“も従来の装置とくらべると格段に改善されている。
◆マルチリーフの物理的特性、治療計画装置への組み込み
マルチリーフコリメータは任意の原体ブロックを形成可能であるが、散乱線、透過線、リーフ間のもれといったリーフ形状に依存した2次的線量をもたらす。リーフ先端が円弧状の場合には散乱線等の発生が複雑に起ると予想される。
例えば15cmの照射野をある開口幅でリーフが左から右へ移動し30MU相当の照射を行なう場合を考える。開口幅が狭くなると30MUの照射を達成するに必要なMU値は大きくなる。例えば1cmリーフ幅で480MU、5cmリーフ幅で120MUとなる。15cm照射野で照射した場合を100%としてリーフ幅と測定プロファイルの関係を図3に示す。測定はCLINAC 21EX (Varian)で行なっており、透過線の割合2%(4MeV), 3%(10MeV)を補正してある。


図3 MLC幅を固定し15cm照射野を平行移動し30MU相当の曝射を行なった時のプロファイル曲線のMLC幅による変化。15cm照射野で30MUの曝射を行なった時を100%とした。

リーフ幅が狭くなるとプロファイル値が増大しており散乱線の影響と思われる。
問題は治療装置本体に関わる種々の物理的特性を治療計画装置がどこまで組み込んでいるかである。特にIMRTの場合は、マルチリーフ亜照射が複雑に変化するためにその影響も大きい。
◆まとめ
マルチリ−フコリメ−タを用いたIMRTにおいて、マルチリ−フコリメ−タの物理的あるいは工学的な現象を把握することは非常に重要であると言える。それは治療計画装置にマルチリ−フコリメ−タの情報を組み込む際に、下手をすると線量的な誤差要因となりかねないからである。マルチリ−フコリメ−タは散乱線及び透過線の発生に大きく影響していることを把握すべきであろう。

コメント    :
高エネルギーX線発生装置あるいはマルチリ−フコリメ−タの種類/形状により固有の物理的特性を持つ。重要なのは治療計画装置にどこまでその特性を組み込むことができるかということである。

キーワード:強度変調放射線治療,Intensity modulated radiation therapy,IMRT, 多分割絞り,Multileaf collimator, 標的臓器,Planning target volume, QOL,Quality of life
分類コード:030201, 030402, 030703

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