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作成: 2001/11/10 戸崎 光宏

データ番号   :030221
乳癌診断における多列検出器型CTの臨床応用
目的      :多列検出器型CTを用いた乳癌の画像診断法の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
利用施設名   :東京慈恵会医科大学,他
応用分野    :医学,診断

概要      :
 乳癌の診断,特にその広がり診断においては,微細な乳管内進展巣を検出することが重要である.すなわち,薄層スライス厚で乳房全体を撮像することが必要である.
多列検出器型CT (Multidetector-Row CT,以下MDCT)では,1mmスライス厚で腋窩を含めた全乳房(約20cm)を一回の呼吸停止下(約25秒)で撮像可能であり,従来型のシングルヘリカルCTに比べて非常に有効である.

詳細説明    :
 
 近年では乳房温存手術の普及に伴い,乳管内進展や多発病巣の有無など,術前に正確な乳癌の広がり診断を行うことが画像診断の重要な役割となっている.
 
 乳癌の広がり診断に関してMRIの有用性が数多く報告されており,現在では最も有効なモダリティとして認識されている.MRIと比較したCTの利点は,検査時間の短縮,高い空間分解能,肺転移と共に腋窩や縦隔リンパ節転移の検索が同時に行えること,体内金属や閉所恐怖症と無関係に検査可能であることなどが挙げられる.また,検査体位を手術時と同様の仰臥位とすることで手術シュミレーションが可能であることも大きな利点である.またCTの欠点としては,濃度分解能の低下,X線被曝などがある.
 
 空間分解能が高いことがCTの利点とされているが,従来型のシングルヘリカルCTではスライス厚を5mmとする報告が多く,微細な乳管内進展巣を描出するには十分な空間分解能とは言えない.また2-3mmの薄層スライス厚を用いると,一回の呼吸停止下では乳房全体を含む十分な撮像範囲を確保できないのが実状である.一方MDCTでは,1mmスライス厚で腋窩を含めた全乳房(約20cm)を一回の呼吸停止下(約25秒)で撮像可能である.
表1にわれわれの施設で行っている,乳房領域のMDCTの撮像方法を示す.

表1 MDCTの撮像方法(原論文3より引用)
                        撮 影 方 法
     使用機種:SOMATOM Plus 4 Volume Zoom (Siemens)
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検査体位          斜仰臥位
管電圧            140kV
Effective mAs     100mAs
回転速度          0.5 sec/rot
Collimation       4x2.5mm  / 4x1.0mm  / 4x1.0mm
Pitch             3        / 4-5      / 4-5
撮像領域          12-17cm
撮像時間          10-15sec / 20-25sec / 20-25sec
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造影剤            Iopamidol(370mgI/ml)
注入速度          4.0ml/sec
造影タイミング    30秒後(第1相),70秒後(第2相),5分後(第3相)
----------------------------------------------------------------
 
 CT装置は,Siemens社製SOMATOM PLUS 4 Volume Zoomを使用し,造影剤は非イオン性ヨード造影剤iopamidol 370mgI/mL (Iopamiron 370, 日本シェーリング,大阪) 100mlを,4ml/secにて自動注入している.患者の検査体位は手術時と同様の斜仰臥位で,患側の背部に枕をいれて施行している.造影前,造影剤注入開始30秒後(造影第1相),70秒後(造影第2相)および5分後(造影第3相)に呼吸停止下でダイナミックスキャンを行っている.
 
 造影前の撮像条件は,スキャン範囲を全肺野とし,コリメーション2.5mmを4列使用し,ピッチ4,1回転/0.5秒で約10-15秒間の連続スキャンを施行する.造影検査のスキャン範囲は腋窩を含めた乳房全体としているが,その範囲は個人差があり,造影前の画像をみてスキャン範囲の決定をしている.まず造影第1相では,コリメーション2.5mmを4列使用し,ピッチ3,1回転/0.5秒で約10-15秒間の連続スキャンを施行する.さらに造影第2相では,コリメーション1mmを4列使用し,ピッチ4-5,1回転/0.5秒で約20-25秒間の連続スキャンを行う.造影第3相は,造影第2相と同様の条件で行う.
 
 画像表示は,造影第1相と造影第2相の乳房を拡大した横断像,および造影第2相,造影第3相の乳房を拡大した斜冠状断の多断面再構成(multiplanar reconstruction,以下MPR)像である.造影前と造影第1相の再構成画像は実効スライス厚3mmで作成し,造影第2相,造影第3相の再構成画像はすべて実効スライス厚1.25mm,再構成スライス間隔0.5mmで作成している.


図1 MDCT(造影第2相) 矢状断MPR像(原論文2より引用)


乳房を拡大した斜冠状断MPR像は,乳頭と胸壁とを結ぶ線に直交する面で画像を作成している.


図2 MDCT(造影第2相) 斜冠状断MPR像(原論文3より引用)

 
 さらに,切除範囲の計測を正確にするために,乳頭を中心とする直交線をMPR像に加えている. 
造影第1相,造影第3相は,腫瘤の造影パターンから良悪性の鑑別に有効と考えて撮像しているが,MDCT施行前に生検などで乳癌と診断されている場合には必要ないかもしれない.現在その必要性を検討中であるが,MDCTにて初めて発見される小病変も少なくなく,鑑別には造影第2相と造影第1相や造影第3相との比較が有用であると考えている. 
 われわれの検討では,乳癌の広がり診断能,多発病巣の検出率の向上が得られ,さらに乳房温存術の断端陽性率の低下が認められている.

コメント    :
 いままで乳癌の広がり診断といえばMRIであったが,高い空間分解能と時間分解能を同時に満たすMDCTは,乳癌の広がり診断に有効なモダリティと考えられ,今後急速に普及すると予想される.
しかし,MRIも高分解能・高速撮像が可能となってきており,今後MDCTとMRIの優劣を慎重に決定していかなければならない.

原論文1 Data source 1:
Dynamic Multidetector-row CTによる乳癌の拡がり診断ーMPR像と病理切片像との対比ー
戸崎 光宏,山下 晃徳,河上 牧夫,吉田 和彦,山崎 洋次,福田 国彦
東京慈恵会医科大学放射線医学講座,外科学講座,病院病理部
日本医学放射線学会雑誌,60(11),pp.560-567,2000

原論文2 Data source 2:
乳癌の拡がり診断におけるdynamic MD-CTの有用性
戸崎 光宏,山下 晃徳,河上 牧夫,武山 浩,吉田 和彦,永田 徹,内田 賢,久保 宏隆,山崎 洋次,福田 安,福田 国彦
東京慈恵会医科大学放射線医学講座,外科学講座,病院病理部
臨床放射線,45(11),pp.1323-1328,金原出版,2000

原論文3 Data source 3:
コンピュータ断層撮影(CT)診断技術ー乳房の病気診断における最新X線CT技術ー
戸崎 光宏
東京慈恵会医科大学放射線医学講座
放射線と産業,88,pp.19-22,放射線利用振興協会,2000

キーワード:多列検出器型CT,multidetector-row CT, ヘリカルCT,helical CT, 多断面再構成,multiplanar reconstruction,ダイナミックスキャン,dynamic scan, 乳癌,breast cancer, 乳管内進展,intraductal extension, 多発病巣,multicentricity, 乳房温存手術 breast-conserving surgery   
分類コード:030102,030401

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