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作成: 2001/12/13 西岡 真樹子

データ番号   :030219
多列検出器型CTを中心としたX線CT診断技術の発達
目的      :X線CT診断技術の変遷と最新のCTである多列式検出器型(マルチスライス)CTの紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
利用施設名   :東京慈恵会医科大学病院,他
応用分野    :医学、診断

概要      :
X線CTは、1970年初頭に開発、臨床導入されたのを初めとして1989年には、らせん走査型のCT(SHCT)が登場した。SHCTでは、開発当初不可能であった連続撮像が可能となり撮像時間が著しく短縮された。1998年には多列検出器CT(MDCT)が開発され、様々な基本性能がさらに向上し今後の画像診断の進歩が期待されつつある。本項ではX線CT診断技術の変遷を追いつつMDCTについて述べる。

詳細説明    :
CTは細いX線を照射しながら、走査と回転を繰り返し画像データの収集を行っている。第1世代はコリメートされたペンシル状X線ビームと、1スライス当たりに1個の検出器を備え、X線管と検出器を対向させながら平行及び回転運動をさせる方式であった。以後、X線ビームは扇状となり、検出器は形を変えつつ走査方向に数を増していった。今回新たに開発された新世代のMDCTでは様々な性能が大きく向上し、これに伴い解像度、撮像時間、演算時間などの基本性能が著しく向上しさらなる画像診断の進歩が期待されつつある。以下MDCTについての概略を述べる。
CTの撮像では、画質を保ちつつ撮像時間をいかに短縮するかが重要となる。すなわち、短時間で多量のデータ収集ができればよいことになる。MDCTの主な特徴は、検出器の改良や任意のヘリカルピッチの選択などによる広範囲を高速度かつ高い分解能で撮像することが可能となった(参考資料1,2)ことである。
MDCTに搭載されている検出器は、装置によって異なるが、走査方向に800〜900前後の検出器をもち体軸方向には8〜34列の検出器列を有している。この体軸方向に配列された各アレイからのデータを画像計算することにより、1回の走査で最大4断面のスライスデータを得ることができる。このように1回の走査で複数のスライスデータを得ることができる走査方式をマルチスライスあるいは多列検出器型という(図1)。


図1  検出器:VZ(Siemens社製)の場合 Z軸方向に8素子並んでいる。


ヘリカルスキャンの速度を示すヘリカルピッチは、管球1回転あたりのテーブル移動距離をX線ビームのコリメーション(スライス厚)で割った値に定義されており、SHCTでは通常の撮像で2前後が上限であった。広い範囲を撮像する場合にはヘリカルピッチを1.5〜2程度と大きく設定する必要があった。しかしながら、ヘリカルピッチを拡げれば実効スライス厚が増し、それに伴い体軸方向にデータ補間する範囲が広くなり画質が低下した。従って、臨床上使用できるヘリカルピッチには限界があったが、MDCTでは画質を保ちつつ適切なヘリカルピッチの値を任意に選択することが可能である。
このようにMDCTでは撮像時間の高速化に伴い薄層のルーチン検査が可能となり、部分容積現象の少ない高画質の画像が得られる。また、Z軸方向とXY平面のスライス厚をより等しくすることが可能で1ボクセルが立方体に近づくほど等方画像データが得られ、ゆがみのない高精細な3次元画像が期待できる。
臨床応用の点においては、画像再構成法がポイントとなる。MDCTでは、それぞれの検出器が独立して画像情報を収集し、画像再構成の段階で、非線形補間あるいは多点補間とよばれるアルゴリズムで横断像の再構成を行っている。得られたボリュームデータから,補間により特定のスライス位置の情報を作り出し、画像再構成により目的断面の画像が得られる。例えば、CT血管造影では、高画質の鮮明な血管像を撮像し血管を立体的に描出することが可能である(図2)。


図2  造影剤静脈注後の腹部再構成画像:腹腔内の血管走行が明瞭に描出されている。


心臓領域では著しい進歩をとげ、心拍動に伴うアーチファクトは軽減し、心電同期下で高品位の画像や冠動脈の画像(図3)が得られるようになった(参考資料3)。


図3  心臓の3次元再構成画像


一方、問題点として、従来のCTに比しX線被曝、画像データの増加などが挙げられる。被曝については高速スキャンにより検査時間が短縮したとはいえ、MDCTはX線管とその検出器によって情報を得ていることには変わりなく、被曝の問題は考慮しなければならない。今後、被曝線量低減の可能性を検討するため、検査の目的に応じた適切な線量の選択と画質の評価の検討が必要とされる。画像データについては、薄層での撮像を広範囲に高速で撮像可能であることはMDCTの最大の利点であるが、画像として出力されるデータ量に伴うフィルム枚数の増大が問題となり、今後その処理方法や管理方法が問われる。

コメント    :
コンピュータ技術進歩に伴って画像診断機器の発達が更に進み、今後一段と臨床への応用が期待される。一方で、診断機器の特徴や問題点を把握しつつ適切に診断や治療に応用させていくことが重要である。

原論文1 Data source 1:
特集:コンピュータ断層撮影(CT)診断技術 −マルチスライスCTを中心としたX線CT診断技術の発達−
西岡 真樹子 福田 国彦
東京慈恵医科大学 放射線医学講座
放射線と産業88

原論文2 Data source 2:
特集:コンピュータ断層撮影(CT)診断技術 −マルチスライスCTを中心としたX線CT診断技術の発達−
西岡 真樹子 福田 国彦
東京慈恵医科大学 放射線医学講座
放射線と産業88

原論文3 Data source 3:
特集:コンピュータ断層撮影(CT)診断技術 −マルチスライスCTを中心としたX線CT診断技術の発達−
西岡 真樹子 福田 国彦
東京慈恵医科大学 放射線医学講座
放射線と産業88

参考資料1 Reference 1:
Multi-slice helical CT scan and reconstruction
Hu H
General Electric Company
Med Phys 26:5-18,1999

参考資料2 Reference 2:
Somatom Plus4 Volume Zoomの使用経験
福田 国彦ら
東京慈恵会医科大学放射線医学講座
日獨医報 45巻1号2000

参考資料3 Reference 3:
マルチスライスCT時代のMRIの位置づけ
佐久間亮ら
東京慈恵会医科大学放射線医学講座
Innervision(15,9),2000

キーワード:X線CT,Xray computed tomography, 多列検出器型CT,Multidetector-row computed tomography,診断技術,Diagnostic technique,CTの変遷,Technical transition of computed tomography,CTの原理,Principle of computed tomography,検出器,Detector,ヘリカルピッチ,Helical Pitch,画像再構成,Reconstruction of images,X線被曝,Exposure due to medical X-ray,臨床応用,Clinical application,マルチスライスCT,Multislice computed tomography
分類コード:030102,030401

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