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作成: 1995/11/05 富樫 かおり

データ番号   :030217
婦人科領域におけるMR診断
目的      :婦人科領域疾患のMRIによる診断方法の開発
応用分野    :医学、診断

概要      :
 子宮のMRI画像は器質疾患のみならず、機能性変化を反映する点でユニークである。器質的疾患に関しては筋腫・腺筋症・発生異常・卵巣内膜症・皮様嚢腫・線維腫・転移性卵巣腫瘍等の診断、および子宮腫瘍の進行期分類に優れることをこれまでに示してきた。機能性変化に関しては、まだ研究は緒についたばかりであるが、子宮収縮・子宮蠕動のMR画像による描出と解析を行っている。

詳細説明    :
 子宮のMRI画像は器質疾患のみならず、機能性変化を反映する点でユニークである。子宮体部、頸部はMRIT2強調画像においていわゆる層構造を呈する(図1)。すなわち、内膜は高信号、筋層比較的を呈し、その間に位置する内膜直下筋層(junctional zone)は低信号を呈する。卵巣では卵胞が高信号、卵巣間質は中等度と異なった信号として同定される。


図1 正常子宮のMRT2強調画像。内膜は高信号、外側筋層は比較的高信号、その間の内膜直下筋層は著明な低信号を呈し、明瞭に層構造が同定される。

 子宮・卵巣の多くの器質的疾患はこれら正常構造と異なった信号としてとらえられ、病変の存在、範囲が明瞭に示される。MRIは子宮病変、特に子宮筋腫、子宮腺筋症の診断に優れる。子宮筋腫・子宮腺筋症の診断に関しては、費用をかんがえ無ければ、MRの右に出るものはない。子宮筋腫・子宮腺筋症は正常筋層に比して著しい低信号となり、さらに前者は辺縁が明瞭・後者は辺縁が不明瞭となり鑑別が容易である。子宮腫瘍に関してはstagingに優れる。現在のところMRIはFIGO のstaging work up にはくわえられていないが、MRIにより従来staging に用いられてきた多数の侵襲的検査法が不必要となる可能性が示唆されている。ただしリンパ節転移の評価についてはMRIとCTの正診率はほぼ同様である。
 骨盤腫瘤の鑑別においては、MRIは漿膜下筋腫、類皮嚢胞腫、内膜症性嚢胞といった頻度の高い良性病変を特異的に診断し、確実に卵巣癌から鑑別する事ができるため保存療法を選択する際に大きな貢献を果たしうる。また、線維腫や転移性腫瘍の診断にも優れ、良性腫瘍の保存療法、原発巣の検索など治療方針の決定に際して果たす役割が大きい。T1強調画像における著しい高信号、あるいはT2強調画像における著明な低信号が診断の決め手となる。
 子宮・卵巣の器質的疾患に優れるMRにも弱点はある。筋腫と平滑筋肉腫は鑑別が可能な場合もあるが、必ずしも常に鑑別可能ではない。子宮体癌とポリープや内膜増殖症の鑑別も困難で、これらの鑑別には組織診断が必須である。子宮腫瘍に関して重要な点は、MRIはスクリーニングとして用いることはできないということである。MRI 診断の対象となりうる子宮頚癌は一般的には臨床浸潤癌のみであり、同様に小さい子宮体癌もとらえることができない。卵巣腫瘍においても、小さい嚢胞性病変の中の隔壁や実質部分の評価など、形態診断に関しては超音波と比べ大きな利点はない。
 MRI画像所見と機能との関連に関しての研究は現在、緒についたばかりといえる。子宮収縮がMR画像において器質的疾患と類似する画像となることは1993年に同定されたが、その後、装置の限界もありMR画像による機能の評価は近年緒についたばかりといえる。MRIにて正常子宮に認められるjunctional zoneすら、その実体についてはまだよくわかっていない部分も多い。in-vitroにおいてもin-vivoにおいてもjunctional zoneの描出に差はないとする説と、in-vitroよりはin-vivoにおいて明瞭に認められるという説があり一定していない。また超音波においては、子宮蠕動と呼ばれる最内層筋層の規則的かつかすかな収縮がとらえられており、月経中は体部から頸部へ、排卵前後は頸部から体部へと向かい、月経時の内膜の剥奪、ミッドサイクルにおける精子の子宮底部への移送、さらには妊娠の保持などに大きな役割を果たすと考えられている。MRではこれらに関する記載がなかったが、超高速MR撮像の普及とともにこれらが描出できるようになった。MRでは優れたコントラスト分解能を生かし今後これらの子宮の機能に関する評価に貢献する可能性が高い。

コメント    :
 器質疾患に関してはすでに多くの報告がなされているが、機能と画像所見を結ぶ研究はまだ少なく、今後の発展が期待される。

原論文1 Data source 1:
Enlarged uterus: differentiation between adenomyosis and leiomyoma with MR imaging.
Togashi K, Ozasa H, Konishi J, et al.
Department of Nuclear Medicine and Diagnostic Imaging, Kyoto University
Radiology 1989, 171,531-534

原論文2 Data source 2:
Carcinoma of the cervix: staging with MR imaging.
Togashi K, Nishimura K, Sagoh t, et al.
Department of Nuclear Medicine and Diagnositi Imaging, Kyoto University
Radiology 1989, 171,245-251.

原論文3 Data source 3:
Sustained uterine contractions: a cause of hypointense myometrial bulging.
Togashi K, Kawakami S, Kimura I, et al.
Department of Nuclear Medicine and Diagnositi Imaging, Kyoto University
Radiology 1993,187,707-710.

キーワード:子宮 uterus, 卵巣 ovary, 磁気共鳴画像 Magnetic Resonance Imaging(MRI), 画像診断 diagnostic imaging, 骨盤 pelvis, 婦人科疾患 women's disease
分類コード:030106

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