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作成: 2000/11/20 工藤正俊

データ番号   :030216
造影剤による超音波検査法
目的      :超音波造影剤によるコントラストエコー法の臨床的意義について

概要      :
 従来、超音波検査においては超音波造影法という概念は存在せず、わずかにCO2 microbubbleを動注して行うCO2動注US angiographyがあるのみであった。しかしながら、1999年9月本邦においても超音波造影剤、Levovistが発売され、静注法による造影コントラストエコー法が普及しつつある。今回、特に消化器領域におけるその臨床的有用性について紹介する。

詳細説明    :
 従来、CT、MRI、血管造影といった他の画像診断法においては古くより造影剤が用いられてきた。しかしながら、超音波における造影剤の応用は基本的には新しい手技である。1986年松田らに始められたCO2動注のコントラストエコー法が消化器領域においてはその最初であろうと考えられる。この手法は肝腫瘍の鑑別診断あるいは胆膵疾患においても応用され、臨床的に極めて有用な方法として定着している。しかしながら、血管造影の手技を必要とするため、大変侵襲的な方法である。このため、用途が限られる傾向にあった。超音波断層画像上で血流表示を得る手法として次に臨床に登場してきたのがカラードプラ法である。カラードプラ法はCO2動注US angiographyと同じ超音波断面にて血流を非侵襲的に造影剤の投与もなく(従って極めて生理的な状態で)血流情報を描出することのできる優れた方法として臨床に取り入れられるようになってきた。カラードプラ法は波形解析を組み合わせることにより、肝動脈、門脈、肝静脈由来の血流であるということも判別できるため、肝腫瘍の質的診断にも大きな役割を発揮することとなった。また、胆膵疾患においてもカラードプラ法は多血性腫瘍と非多血性腫瘍の鑑別においてある程度有用であることが示されてきた。しかしながら、問題点としてCO2動注USやdynamic CT、血管造影などに比べ感度が低いという欠点があった。このため、カラードプラの感度を増強する超音波増感剤の開発が望まれていた。1999年9月よりドイツシェーリング社より超音波造影剤Levovistが本邦においても臨床使用可能となった。これによりカラードプラの血流シグナルの増強効果が得られるようになっただけに留まらず、近年は新しい展開をも示している。すなわち、最近の微小気泡と診断用超音波の音圧の相互関係に対する理解が高まるようになり、新しいイメージング手技としてのコントラストハーモニック法が登場してきたのである。
 Levovistはシエルのない空気の微小気泡であるがこのようなmicrobubbleに診断用超音波が送信されるとmicrobubbleが共振もしくは共鳴現象をひきおこし、2次高調波、3次高調波を発生する。そのうちもっとも強力な2次高調波のみをfilter法、もしくはpulse(phase)inversion法などで取り出すことにより、血流のみのイメージングが可能となってきた。この手法、すなわちコントラストハーモニック法はこの2次高調波のハーモニック成分のみならず、microbubbleが崩壊するときのエネルギーも同時に映像化には利用している。このコントラストハーモニック法は現在、臨床の場において主として肝腫瘍の質的診断、胆膵疾患の質的診断、あるいは心臓領域における心筋perfusionの評価などに用いられている。
1. コントラストエコー法の分類 
 コントラスト超音波法は大きく分けて、(1)fundamentalのカラードプラ法の増強効果を用いる造影ドプラ法、(2)コントラストハーモニックパワードプラ法(図1)、(3)コントラストハーモニックグレイスケール法(図2)、の大きく3つに分類することができるが、現在主として用いられているのは、間欠送信法によるコントラストハーモニックパワードプラ法である。しかしながらハーモニックパワードプラ法は組織perfusion血流の検出感度には優れるものの、リアルタイム性あるいは空間分解能の点ではグレイスケール法に劣るため、最近ではハイエンドの超音波装置を用いたグレイスケール法が用いられる傾向にある。


図1 肝S6に存在する径2.5cm大の肝細胞がん a) Bモード像では低エコー結節をみとめる。 b) レボビスト静注後、早期の相ではハーモニックパワードプラ法にて血管像をみとめる。 c) 次の相では腫瘍内に腫瘍血管および染影がみとめられる。 d) 腫瘍血管、腫瘍濃染がさらに増強されている。 e)間歇送信法で腫瘍濃染像が明瞭に描出されている。 f) CTでも同様に腫瘍濃染がみとめられた。 (原論文5より引用)



図2 肝細胞癌のコントラストハーモニックグレースケール法(Coded Harmonic Angio像) a) plainのBモードでは約4cm大の肝腫瘍を認める。 b) Levovist投与直後の早期相では明らかな腫瘍血管を認める。 c) 更に次の相では2次3次といったレベルの腫瘍血管も明らかである。 d,e) 次の相では次第に濃染が認められる。f) Late vascular phaseでは明らかな腫瘍濃染を認め肝細胞癌と診断可能である。

2. 肝腫瘍の質的診断における意義
 ハーモニックパワードプラ法、あるいはハーモニックグレイスケール法により肝細胞癌や転移性肝癌あるいは限局性結節性過形成、血管腫などの特徴像を明瞭に描出することができ、鑑別診断において有用である。
3. 胆膵疾患における有用性
 胆膵疾患においてもCO2動注US angiographyで示される血管構築が描出されるため、静注造影によるコントラストエコー法も有用となる可能性が高い。しかしながら、現時点では未だ胆膵疾患における有用性が確立されているとは言えない。それは、現在の装置と超音波造影剤の能力が膵癌と膵腫瘍を始めとする非腫瘍部の組織perfusion血流あるいは血管構築を描出する上で充分ではないということが挙げられる。この領域に関しては、さらなる装置の進歩、あるいは次世代の造影剤の登場が待ち望まれるところである。
4. 肝細胞癌の治療効果判定、あるいは治療ガイドとしての意義
 現在、超音波造影剤が最も有望視される領域がこの肝細胞癌の治療効果判定、あるいは治療ガイドとしての意義である。肝細胞癌の治療は超音波ガイド下に行われることが多い。すなわち、超音波下エタノール注入(PEIT)、超音波ガイド下マイクロウェーブ壊死凝固療法(PMCT)、ラジオ波凝固療法(RFA)、などはすべて超音波ガイド下に行われる。従って、CTやMRで治療効果が不充分、あるいは再発が疑われた場合でも超音波断層上のどの断層に血流が残存しているのかを知ることは、CTやMRでは代用不能である。従って、Levovistを静注した後にコントラストハーモニック法でその局在を描出することが可能となれば、肝細胞癌の臨床そのものが大きく変わってくる可能性があり、現実にそれが臨床にも応用され現在積極的に試みられている。すなわち、この方法により癌の遺残部が描出されればこれまでは超音波ガイド下とはいえ、血流に関してはブラインドで穿刺治療を行っていた超音波ガイド下の治療が明確な目標、すなわち血流を描出することにより容易になり、効率的な治療、入院期間の短縮、無駄な治療・無駄なCTの削減効果などが実現でき、肝細胞癌の診断あるいは治療に対するストラテジーが大きく変わってくるものと期待される。

コメント    :
 静注投与による造影超音波法は最近始まったばかりの新しい技術である。可能性のある領域としては、肝胆膵疾患に加え、循環器領域、消化管領域、婦人科領域、腎泌尿器領域、乳腺領域、あるいは脳領域と多岐にわたる。しかしながら、現在最も期待されている領域は肝胆膵疾患である。特に肝細胞癌におけるコントラストハーモニック法は大変期待されている技術であり、肝細胞癌の診断と治療のストラテジーを大きく変える可能性がある。将来展望としては、現状の造影剤よりも崩壊しにくい次世代の造影剤の開発やさらなる装置の進歩によりphase inversion法は勿論のこと通常のBモードでもCO2動注US angiographyと同等のqualityの高い血流情報が得られる日のくることが期待されている。

原論文1 Data source 1:
超音波造影剤の進歩
森安 史典
東京医科大学内科学第4講座
消化器画像, 第2巻,第6号, 671〜676 (2000)

原論文2 Data source 2:
肝疾患における造影ハーモニックイメージングの臨床
工藤正俊、丁 紅、前川 清
近畿大学医学部消化器内科、近畿大学医学部腹部超音波室
消化器画像, 第2巻,第6号, 677〜684 (2000)

原論文3 Data source 3:
造影ハーモニック超音波の肝疾患における応用
松谷正一、丸山紀史、江原正明、税所宏光、大藤正雄
千葉大学医学部第一内科、放射線医学総合研究所
消化器画像, 第2巻,第6号, 687〜693 (2000)

原論文4 Data source 4:
胆膵疾患における造影ハーモニックイメージングの臨床
今井英夫、堀口祐爾、久保裕史、鈴木智博、上松正尚、渡辺美帆、竹内文康、鈴木理恵、坂本宏司、豊田秀徳、刑部恵介、西川 徹、山田久美、杉田由紀子、傍嶋智恵美
藤田保健衛生大学消化器内科、藤田保健衛生大学病院臨床検査研究部、藤田保健衛生大学病院放射線部
消化器画像, 第2巻,第6号, 695〜703 (2000)

原論文5 Data source 5:
造影超音波の臨床応用の現状と展望−肝臓
工藤正俊、丁 紅、前川 清
近畿大学医学部消化器内科、近畿大学医学部腹部超音波室
INNERVISION, (15・11) 2000, 62〜67

原論文6 Data source 6:
造影超音波の臨床応用の現状と展望ー膵臓、胆嚢
廣岡芳樹、後藤秀実、伊藤彰浩、橋本千樹、平井孝典、竹田欽一、丹羽克司、早川哲夫
名古屋大学医学部光学医療診療部第二内科、名古屋大学医学部第二内科
INNERVISION, (15・11) 2000, 68〜73

原論文7 Data source 7:
造影超音波の臨床応用の現状と展望ー下部消化管疾患
浦岡佳子
松山市民病院消化器科
INNERVISION, (15・11) 2000, 74〜78

原論文8 Data source 8:
これからの超音波診断の方向ーTHI、3D、コントラストエコーを含めて
工藤正俊
近畿大学医学部消化器内科
新医療, 5月号,41〜44 (2000)

原論文9 Data source 9:
レボビストを用いた肝腫瘍のContrast Harmonic Power Doppler Imaging
工藤正俊、丁 紅
近畿大学医学部消化器内科
肝胆膵, 41(2), 215〜221 (2000)

キーワード:肝腫瘍 liver tumor, 肝細胞癌 hepatocellular carcinoma, 胆膵疾患 pancreatico-biliary disease, 超音波検査 ultrasonography, 造影超音波検査 contrast-enhanced ultrasonography, 超音波造影剤 ultrasound contrast agent, レボビスト Levovist, 微小気泡 microbubble, 造影ハーモニック法 contrast harmonic imaging, 鑑別診断 differential diagnosis, 治療効果判定 evaluation of therapeutic response
分類コード:030107, 030401, 030502

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