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作成: 2000/10/15 青木 純

データ番号   :030215
骨腫瘍のMRI診断
目的      :骨腫瘍の診断におけるMRIの有用性と限界について紹介
応用分野    :医学、診断

概要      :
 骨腫瘍の画像診断では単純X線像による診断法が確立しており、その有用性は今日でも揺るぎないものである。MRIは優れた軟部組織のコントラスト分解能を有し、任意の断層面を得ることができるため、骨腫瘍の診断にも広く用いられるようになった。骨腫瘍における画像診断のはたす役割をまとめると、腫瘍の存在診断、良悪性あるいは組織型の鑑別診断、局在診断(腫瘍進展範囲の診断)、そして経過観察が上げられる。これらの点において、MRIの有用性と限界をまとめる。

詳細説明    :
1) 骨腫瘍の存在診断
 ほとんどの骨腫瘍は単純X線写真にて確認される。骨基質に微細な変化しか来さないものに対しても、局所の骨代謝の変化を鋭敏に反映する骨シンチグラムが非常に有用である。しかし、まれではあるが、骨基質に変化を及ぼさず、かつ局所の骨代謝を抑制するサイトカインを分泌する悪性腫瘍(骨髄腫、悪性リンパ腫、肺の小細胞癌の転移など)がある。また、現実的には、骨破壊はあっても反応性骨形成を伴わない腫瘍は骨シンチグラムでHot spotを呈さないもの(腎癌や肝癌などの転移)もある。このような場合にも、MRIでは腫瘍を正常骨髄信号を置換する腫瘤として捉えることができる。
2) 骨腫瘍の良悪性の鑑別
 骨腫瘍の良悪性を鑑別する最も信頼のおける画像所見は、長年にわたって病理像との対比がなされてきた骨基質の変化である。すなわち、骨吸収の辺縁の性状や骨膜反応の解析が現在でも非常に重要である。残念ながら、MRIの信号強度や内部構造、いわゆる周辺反応層の存在などは良悪性の鑑別には役立たない(図1)。Dynamic MRIも試みられているが、その有用性はまだ一般には認められていない。


図1 病的骨折を伴った非骨化性線維腫 a)右膝のX線写真 b)同部位の脂肪抑制造影MRI像 (原論文1より引用)

3) 骨腫瘍の組織型の鑑別
 骨腫瘍の組織型の鑑別には腫瘍の発生部位や患者の年令などが重要なファクターになる。X線像やCTではおもに細胞間基質の石灰化のパターンから骨産生腫瘍や軟骨産生腫瘍が鑑別される。MRIの出現により組織型の鑑別の幅がやや広がった。それは液体成分や軟骨基質、血液・血管成分、脂肪成分がよりよく描出できるようになったためである。多くの軟骨腫瘍は分葉状の発育形態を示し、内部に血流の少ない点が特徴である。T2強調MRI像では水分に富んだ軟骨の分葉が高信号に描出され、造影MRIでは血管を含んだ隔壁部分が逆に増強される(図2)。


図2 病的骨折を伴った内軟骨腫 a)右第5指のX線写真 b)同部位の脂肪抑制造影MRI像(原論文1より引用)

 血色素の代謝産物(デオキシヘモグロビンやヘモジデリン)による磁化率アーチファクトは骨腫瘍の鑑別に役立つことがある。まず、血液による液面形成がみられる場合、病的骨折を伴った骨嚢腫、骨芽細胞腫や軟骨芽腫、骨巨細胞腫、線維性骨異形成などの動脈瘤様骨嚢腫への変化、あるいは血管拡張型骨肉腫などが示唆される。次に、腫瘍細胞自体がヘモジデリンを取り込み低信号を示す場合がある。これは貪食作用を有する細胞、すなわち組織球型の腫瘍を示唆する。代表的なものが骨巨細胞腫と非骨化性線維腫であり、最近は軟骨芽腫などでも報告されている(図3)。


図3 骨巨細胞腫 a)右膝のX線写真 b)同部位のT2強調MRI像(原論文1より引用)

 骨内の血管腫は肝臓の血管腫と同様にT2強調像で高信号を示すことが多く、鑑別は非常に容易になった。T1強調像でのレース状の脂肪成分の混在も血管腫の特徴である。その他、脂肪成分を含む病変は脂肪腫と骨梗塞である。
4) 骨腫瘍の局在診断
 患肢の機能温存のためには、MRIによる骨腫瘍の進展範囲の診断が不可欠の検査となっている。日本では「悪性骨腫瘍取扱い規約」に従って手術計画をたてる。現在、MRIにより腫瘍と反応層を正確に区別することは困難である。また、上記の取扱い規約においても両者を区別することの臨床的意義は高くない。従って、MRIでは腫瘍反応層と主要な神経や血管との関係を描出することが非常に重要である。
5) 骨腫瘍の経過観察
 一般にいわれている画像上のチェックポイントは大きさの変化、骨吸収辺縁の性状の変化、骨膜反応の変化、腫瘍内石灰化(骨化)の出現、造影剤に染まらない壊死範囲の変化などである。MRIが威力を発揮するのは、やはり軟部腫瘤の大きさと造影範囲の評価である。術後部位の肉芽組織と再発腫瘍との鑑別にはDynamic MRIの有効性が報告されている。

コメント    :
 従来のX線診断が主に骨基質の診断であるのに対して、MRIは軟部組織の画像診断といえる。従って、MRIが最も威力を発揮しているのは骨軟部腫瘍の局在診断であり、存在診断や経過観察にも有用な情報をもたらすようになった。MRIにより組織型の鑑別診断は進歩したが、良悪性の鑑別には残念ながら決定的な役割をはたせていない。

原論文1 Data source 1:
骨腫瘍の診断・治療におけるMRIの役割
青木 純
群馬大学中央放射線部
日本医学放射線学会雑誌

参考資料1 Reference 1:
原発性骨・軟部腫瘍のMRI
内田政史
久留米大学放射線科
日医放会誌 50,637-648,1990

参考資料2 Reference 2:
悪性骨腫瘍取扱い規約
日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍委員会


参考資料3 Reference 3:
MRIによる骨肉腫も術前化学療法の効果判定
福田国彦、入江健夫、畑 雄一、多田信平、二階堂孝、中森和仁、宮崎秀一、藤川 浩、浅沼和生
慈恵医大放射線科、病理、整形外科
日磁医誌 11,364-371,1991

キーワード:骨腫瘍 bone tumor, MRI magnetic resonance imaging, 画像診断 diagnostic imaging, 鑑別診断 differential diagnosis, 骨 bone, 軟骨 cartilage, 血液 blood, 血色素 hemoglobin
分類コード:030106

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